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石けん作りと本当の豊かさ

夏が終わりを告げ秋の風が吹き、工房周辺で彼岸花が咲く頃。

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8月は子どもの夏休みがあったりで、なかなかnoteを書けない日々でしたが、9月に入りようやく製造量が安定してきました。
製造室の棚には乾燥・熟成中の石けんがずらりと並びます。

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私が石けんのオイル配合や香りのレシピを考えて、
石けん作りの感覚が抜群のmiyukiちゃんが中心となり色づけを決めて美しく作りあげた石けん。
そして飾るのが得意なnagisaちゃんが工房の外に咲く野の花を摘んできて、石けんの美しさを引き立てるようにササッとフォトスタイリングしてくれる。
手間暇かけている分、石けんに対する私たちの愛情もひとしおなのです。

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MATSURIKAの石けんは、環境負荷の大きいパーム油を使用せず、オーガニックの原材料で人と環境に優しい石けんであることを大前提としているのですが、本質はそこではなく、見た目の美しさや香り・使用感で使う人がワクワクする石けんを作ることを一番大切にしています。

そんな使う人がワクワクするような石けんを作るには、作り手の私たちがワクワクしていることがとても大事なのです。

例えばヤマブドウ石けん作りでは、色の違う二層別々の生地を作って流し込むので難易度も高く、手作業でピンクのコンフェッティ石けんを上部に散らす作業は一見非効率ですが、こうした作業が私たちにとって「いい香りだね」「可愛いね」と言いながら心からワクワクする時間なのです。

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私を含むMATSURIKAで働く女性は(何故か全員・・)男の子のママで、家事や育児に忙しい合間を縫って仕事をしています。
早朝から家事をして、部活の朝練に合わせてお弁当を作ったり、朝から学校に行きたくないと言って聞かない子をなんとか送り出してヘトヘトになって出勤してくる。
子どもや家族のことばかりに尽くして自分のことはすべて後回し。

そんな限られた時間で働く私たちがまずは元気になれる仕事をすること。
そのためには妥協した仕事や嫌だなぁと思う仕事はしない。
手間がかかってもクオリティの高いワクワクする仕事をすることが長く働く上での何よりのモチベーションになるのです。

つい先日も、いつも石けんをリピートでご愛用いただいているお客様から、
「毎回新しい石けんの袋を開ける度にワクワクします。」
と嬉しいメッセージをいただきました。
そう私たちのワクワクは、ちゃんと石けんに込められていてお客様にも伝わるのです。

「石けん」とは、Wikipediaによると「一般に汚れ落としの洗浄剤を示す言葉。」だそうです。
でも私たちの石けんは、そうした汚れ落としのためだけの石けんとは思っていません。

一日の終わりに湯船につかるバスタイムで、見た目の美しさや植物の香り、
たっぷりのやさしい泡で顔を包み込んでがんばった自分を労ってあげられるような、
いわば豊かな「時間」を提供するためものなのです。

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大好きなミヒャル・エンデの「モモ」にこんな言葉が出てきます。
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「人間というものは、ひとりひとりがそれぞれじぶんの時間を持っている。
そしてこの時間は、ほんとうにじぶんのものであるあいだだけ、生きた時間でいられるのだよ」

「光を見るためには目があり、音を聞くためには耳があるのとおなじに、人間には時間を感じとるために心というものがある。
そして、もしその心が時間を感じとらないようなときには、その時間はないもおなじだ。」
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「忙しい」という字は、心を亡くすと書きます。

モモに出てくるフージーはお客さんとお喋りするのが大好きな腕のいい床屋でしたが、時間泥棒のすすめで無駄な時間をすべて排除して効率的に仕事をした結果、だんだんと怒りっぽい、落ち着きのない人になっていきます。

お金や物質的な豊かさはもちろん大事なのですが、そのために忙しくしすぎて心を亡くさないようにしたいといつも思う。
私たちの石けん作りの時間が非効率でも心豊かなひとときであるように、自分の得意なことで誰かの役に立てたり、大好きなことを夢中になって勉強したり、ワクワクして自分自身を生きている実感が持てることが「心が時間を感じとる」ということだと思うのです。

もちろん生活のため、お金のため、家族のため、誰しも思うようにいかない現状だってたくさんあります。
でもそんな中、一日のわずかな時間でもいいので「楽しい」「癒される」「ワクワクする」
そうした感情を実感できる時間を大切にしてほしいと思うのです。

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私はコーヒーが好きで工房でもスタッフに毎日いれているのですが、コーヒー自体が好きと言うよりも、
豆を挽いてお湯を注いでアロマを感じながらハンドドリップで丁寧にいれる時間や、仕事が一段落したスタッフに「おつかれさま」と美味しいコーヒーを一緒に愉しむ。
そんな時間がとても愛おしく豊かさを感じるひとときだったりするのです。

サン=テグジュペリの「星の王子さま」に出てくるキツネも教えてくれています。
「ものごとはね、心で見なくてはよく見えない。
   いちばんたいせつなことは、目に見えない。」

高価なモノ自体は誰から見ても分かりやすい豊かさの象徴かもしれないけれど、それを手に入れて誰とどう過ごすか、
目には見えないそこに流れる時間の方が本質なのだと思うのです。

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日々石けんを作ったり発送しながら、MATSURIKAの石けんを通じて、開ける時にワクワクして、この地の湧き水だったりハーブの香りだったり、自然の美しさを感じてくれたらいいなと思う。

そして慌ただしい日々の中でも、お風呂でただ汚れを洗い流すのではなく、石けんをふくふくと手で泡立てて香りの泡で包みこみ疲れを癒してあげる、あなただけの「時間」を愉しんでいただけたら本当に嬉しいなと思うのです。

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