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ZOOM商標侵害事件における関係の整理

https://news.yahoo.co.jp/byline/kuriharakiyoshi/20210917-00258790
によると、音楽用電気機器メーカである株式会社ズーム(以下日本ズーム社という)は、会議システムのZOOM INC(以下(米ZOOM社という)の代理店であるNEC ネッツエスアイ株式会社(以下NEC ネッツという)を商標4948999号(本件商標という)の商標権侵害であるとして提訴してます。

本件商標は、商品「音楽用電子機器」に加えて、商品「プログラム」も指定していますので、指定商品の類否関係については争点とはならず、本件商標と、米ZOOM社の使用商標が類似するかが争点だなと考えていました。

(なお、米ZOOM社は38類「通信」には商標を持っていますが、問題となっているのはアプリにおける使用なので、以下では触れません)。

ZOOM商標の関係1

一方、ネット上では、本件商標の前に第三者の商標「ZOOM」があると話題となっているようです。

たしかに、日本ズーム社よりも前に、トンボ鉛筆が商標「ZOOM」を9類「電子計算機」について登録しています(4363622号)(以下トンボ商標という)。

ZOOM商標の関係2

商標法には、類似した商標があると拒絶されるという規定があります(商標法4条1項11号)。ですので、本件商標もトンボ商標も併存しているということは、両者は非類似であると判断されて登録されたのか、それとも審査官がトンボ商標の存在を見過ごして登録したのか(過誤登録)ということになります。
いずれにしても、このような出願経過は米ZOOM社にとっては非常に有利となります。なぜなら、もし、いずれにしてもNECネッツは、本件商標の侵害とはならないからです。前者であれば米ZOOM社の使用商標と本件商標も非類似となりますし、後者であれば本件商標自体が無効理由ありとなり権利公使不能とされる(準用する特許法104条の3)からです。

ZOOM商標の関係3

だったら問題は無いじゃないかとと思われるかもしれませんが、その場合でも、米ZOOM社はトンボ鉛筆から訴えられる可能性があります。ですので、米ZOOM社はトンボ鉛筆に対して、トンボ商標の不使用取消審判を請求しています。

ここで、ふと疑問が浮かぶのが、日本ズーム社はトンボ商標の存在を知らなかったのかという問題です。もちろん、知らなかったという可能性はあります。ただ、本件商標を、ぎりぎりZOOMと読めるか読めないか?という形態で出願している点から考えると、たぶん知っていたのだと思われます。とすると、今回の侵害訴訟を提起したのでなぜなのでしょうか?

日本ズーム社が勝てるとすると、1)本件商標の無効理由が存在しなくなり、かつ、2)本件商標と米ズーム社の商標は類似となる場合だけです。2)については、侵害事件における類否関係は、個別具体的に判断されるので特許庁の判断とは異なる可能性はゼロではありません。ただ、1)については難しいです。なぜなら、トンボ商標が取消されても、その商標権がはじめからなかったことになるわけではなく、取消決定が確定後、権利がなくなるというものに過ぎないからです(将来効)。

ZOOM商標の関係4

取消審判の将来効と無効理由の解消の関係について、補足説明します。取消判断は将来効であるので、たとえば、2021年の11月1日にトンボ商標が取り消しが確定したとしても、存在しない形となるのは、確定日以降です。すなわち、本件商標の査定時(2006/02/20)には、日本ズーム社の商標が依然として存在していたと扱われます。そうすると、登録査定時には無効理由があったということで、本件商標は無効となるからです。

ただ、トンボ商標を「プログラム」についてずっと不使用である場合、そのようなものに先願権を認めてよいのか?という点は、争点にできるかもしれません。

さて、裁判所はどう判断するのでしょうね。

本件から学べることは下記です。

日本ズーム社は、本件商標を権利化した後、通常の文字商標「ZOOM」を別途出願するとともに、トンボ商標のプログラムの部分について不使用取消審判で取り消すことはおそらく可能だったでしょう(もちろん、トンボ商標が使用していなかったならばですが・・・)。しかし、日本ズーム社はそこまではやらなかったようです。

社名とほぼ同じ商標は、重要な商標なので、先願商標があるからとあきらめないで、相手の権利を取り消ししてでも、なんとか権利化を狙うという姿勢が大事です。特に、先願商標権者にとってみたら、あまり重要な指定商品などではない商品・役務については、出願に際には指定したものの、不使用であることも多いのが現実です。

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