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33 馬の群れに囲まれて道に迷った時の脱出方法

蒸気機関を発明したのはトーマス・ニューコメンだが、ジェームズ・ワットはニューコメン型の蒸気機関に改良を加えてエネルギー効率をアップさせた。次にワットの蒸気機関を運輸手段に利用することに成功したのがリチャード・トレビシックだ。しかしトレビシックの蒸気機関車は実用には至らず、その後ジョージ・スチーブンソンが初めて実用化に成功し、彼は「鉄道の父」と呼ばれた。
 
蒸気機関を運輸手段に応用する際、技術者たちは一様に「馬の形をした地面を蹴って走るもの」を考えた。当時、運輸手段と言えば馬しか無かったのだから当然だ。だから課題は「どうやって地面を蹴る『足』を実現するか」であった。それを「車輪そのものが回転する」仕組みに転換したことがトレビシックの功績でありイノベーションだ。
 
さて、私たちは日常的に「馬の形をしたもの」に捉われて暮らしている。目的は移動する事であるはずなのに「地面を蹴る『足』」の実現に執着してしまう。「いいや、自分はそうじゃない」と言う人もいるだろうが、きっとそうに違いないのだ。
 
私は時々ワークショップのファシリテーターを務める事がある。最初にアイデアを広げる際に出て来る意見は大抵が「これまで」に捉われた「馬の形をしたもの」だ。アイデア出しの際には批判的な考察を抜きにするので「馬の形をした」アイデアは正しい。それらたくさんの馬の群れを仕分けして、その分類の中でもっと良い考えはないかと尋ねる時に初めて脳味噌が「車輪そのものを回転させる」方向へと走り出す。
 
私たちは多くの「無意識」に捉われて暮らしている。無意識を形づくる大枠は、家族の習慣かも知れないし、地域性かも知れない。あるいは日本人の民族性かも知れないし、人間の動物としての本性から来るものかも知れない。そこから脱出し、目的へ向かって話を一歩前に進めるためには、ワークショップのようなちょっとしたエンジンが必要なのだ。
 
私の本業はフリーランスのプログラマーで、普段は自宅でプログラミングをしている事が多い。プログラミングではちょっとした記述のミスやロジックの間違いでバグが出る。プログラムが正しく動かない。自分では正しいと信じきっているので最初は何がおかしいのかがわからない。しかし今は客観的にデバッグをしてくれる優秀なツールがあるので、それで誤りを発見する事が出来る。そこで根本的にロジックが違っていた時には「そもそもここで何をしたかったのか」と考え方をゼロベースに戻してしまう。
 
馬の群れの中で道に迷って話が前に進まなくなった時には、積極的に誰かの意見を聴いて自分の中でワークショップを開き、「そもそも何がしたかったの?」とゼロベースで考える。それが生活の中のちょっとしたエンジンになる。

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