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#43 みんなの作業

「名もなき家事」という言葉がクローズアップされたのは数年前のことだ。洗濯や掃除などの「名のある家事」に対し、生活には必要だが名前のない作業のことだ。これら「名もなき家事」の負担を妻がするのか夫がするのかというのがメディアでの論点である。「名もなき家事」が蓄積すると相当な時間とエネルギーを要する作業量になる。
 
ダイワハウスがおこなった「名もなき家事」TOP10ランキングでは、1位は「裏返しに脱いだ衣類・丸まったままの靴下をひっくり返す作業」、2位は「玄関で脱ぎっぱなしの靴の片づけ・下駄箱へ入れる/靴を揃える」3位は「トイレットペーパーの補充・交換」である。4位以下は以下の通り。「服の脱ぎっぱなしを片づける・クローゼットにかける/脱ぎ捨てた服を回収して洗濯カゴへ入れる」「食事の献立を考える」「飲み終わったコップやペットボトル・空き缶を片づける/洗う」「子どもが散らかしたオモチャなどの片づけ」「シャンプー・洗剤・ハンドソープなどの補充・詰め替え」「資源ゴミの分別・仕分け」「お風呂や洗面台の排水溝に溜まった髪の毛を取り除く/お風呂の排水溝の掃除・網変え」
 
そうそう!と思われた方はかなり多いはずだ。わが家ではペットがいるので、これらにペット関連の項目が加わる。以前、義父の介護をしていた頃はもっと多かった。3年前に妻が成り行きで仕事を始めてからは、自宅で仕事をしている私が主に「名もなき家事」の係である。だから冷蔵庫に卵が何個残っているとか、頂き物のお菓子の賞味期限がいつ頃かとか、次の買い物でキッチンペーパーを買わなくてはいけないとか、浴室や洗面所の石鹸やシャンプーの残量などはほぼ頭に入っている。
 
これらは、店舗の売り場で言えばバックヤードの作業であり、職場であればこれも仕事と割り切れるのに、家庭では夫婦喧嘩の火種になってしまう。バックヤード作業をMECEで立て分けると、「点検」「修繕」「補充・交換」「廃棄」だろうか。それぞれの共通点は「生活をする上で欠かせない作業」であること、そして「誰がやっても良い作業」つまり「みんなの作業」である点だ。
 
子供の頃、最初のお手伝いはこれら「みんなの作業」であったはずだ。上手に出来ると褒めてもらえる。上達すれば正式な役割として割り振られる。「みんなの作業」をすることで、子供は大人になって行く。それが喧嘩の火種になってしまう要因は、「みんなの作業」を「自分の作業」と捉えられない事による。「みんなの作業」が「わざわざ自分がしなくても良い作業」であるうちは、喧嘩は終わらない。その他、疲労も喧嘩の一因だろう。仕事で疲れ切った時などは誰もが生活上の些事に振り回されるのはイヤだと思う。その時は休めば良い。
 
「みんなの作業」を粛々とこなして行くことで、人としての基礎体力が身についてゆく。「みんなの作業」をすべて優しいお母さんがやってくれて育った人は「お坊っちゃま」と呼ばれ、それは未成熟者の代名詞でもある。
 
「みんなの作業」とは人間関係の縁側みたいなもので、それによって身につく「人としての基礎体力」とは「人間関係力」と言い換えることが出来るかも知れない。スポーツの技術を支えるフィジカルと同じだ。基礎体力なくしてどんな技術を磨こうとも、それは儚い。「わざわざ自分がしなくても良い作業」を粛々とやっているうちに、周囲との関係性が以前とは違って来ていることに気付く時が必ず来る。

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