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50 力を抜いて

先日、NHKの『ドキュメント72時間』という番組で、奄美大島と加計呂麻島を結ぶ海上タクシーが取り上げられていた。ある男性は、船長が高齢だから船を繋ぐのを手伝ってあげたいとの思いで、仕事が早い時間に終わるにも関わらず最終便まで待って乗船するのだという。実際に奄美で暮らしている身としては「これぞ奄美」と感じる瞬間であった。無報酬での助け合いは奄美では日常の風景だ。

島では都会でのマンション暮らしのように、仕事さえ終わればあとは部屋で自分の趣味だけを楽しんでいる、と言う生き方はそぐわない。島で暮らすかぎりにおいては、集落の一員として、人としてどうか、と言うところが問われ続ける。気軽に話が出来るのか、台風で集落に被害があった時に共同作業に参加してくれるのか、作業後の飲み会でバカをやって笑われる事が出来るのか、『72時間』の男性のように無償の力添えが出来るのか、そんなことが問われる。

2014年から約7年間、奄美大島から種々テーマを変えつつこの『ほぼ週刊さろま』へ寄稿させて頂いている。「事務局長の万年筆」とのタイトルで書き始めてからは今回で50回目、約1年だ。2020年7月8日の第1042号では「1年間50週続ければ400字詰め原稿用紙で75枚分の文章が出来上がる」と記した。しかし実際には前回までの49回で約53,000字、400字詰め原稿用紙で132枚の量となった。毎回、こんな内容で退屈させてしまわないだろうかと思いながらの50回であった。

「事務局長の万年筆」のタイトルのもとで書きたかった事は、「話を前に進めるための技術」そして「人を元気にする言葉」であった。しかし徐々に話題が「事務局長の万年筆」というテーマから溢れ出してしまった感がある。50回を境に「事務局長の万年筆」というテーマは一旦終了としたい。いずれにせよ、何だか堅い話が続いてしまった、と言うのが実感だ。

7月にも奄美大島は世界自然遺産に登録される見通しである。北海道と並んで奄美大島は自然豊かな場所だ。自然だけではなく、奄美には「マブリ(魂)」と共に暮らす生活文化がある。そんな文化の中から、先に紹介した船長を待つ男性のような無償の振る舞いが生まれてくる。せっかく奄美大島に住んでいるのだから、そろそろ力を抜いて奄美の汀からそんな穏やかな話を綴って行きたいと思っている。人を萎縮させてしまうような世情である。今、必要とされるのは寅さんのようにホッと出来る、人としての言葉ではないだろうか。

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