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エビデンスとは言うけれど

最近仕事でやたらとエビデンスという言葉を聞くので、なんとなく思ったことを記します。

「エビデンス」の一人歩き?

「エビデンス」という言葉を聞いて皆さんは何を想像されるだろうか。証拠、論拠、根拠……。まあ日本語に訳すのは何ともズレている感じがするのでやめておこう。

政策界隈で働いているせいか、最近よくエビデンスという言葉をよく耳にする。

政策の文脈では、多くの人々が「エビデンスが必要だ!」と口々に叫ぶようになった。
このエビデンスという言葉が使う人々によって異なるのがどうにも気になっている。

1つ目の気になる点は、そもそもなぜ今頃になって政策にエビデンスが必要などという提唱が始まったのかという疑問である。

そもそも政策を作ろうという段階ではすでに何らかの事実・課題が存在していているからこそ政策を作るのであって、エビデンスなんてあってしかるべしである。

あって当然なのだから、まるで鬼の首を取ったかのように「エビデンスを使って」立案したなどの語るのは、いかがなものか。ご飯を食べるときにお箸を使ったことを自慢するようなものな気もする。

(最近は使用可能なデータがなかったのかなとも思っている所。。。)

政策を作る上で必要な素材は、エビデンスなどという高尚な言葉を使わず単に「データ」と呼ぶべきではなかろうか。
現在の状況は、理想的エビデンス(因果推論)を用いることなどほぼないので、「エビデンス基づいて立案する」というより、「データを用いるところから立案を始める」という表現の方が正しいように思う。

エビデンスの種類 (非公式)

僕は政策の現場で利用されるエビデンスには、おおよそ4種類あると思っている。

1.観測数とや記述統計レベル
2.t検定とか回帰分析とか
3.厳格な分析による因果推論(いわゆるEBPM?)
4.もっと高度なやつ(知らない)

①は例えば、「生活困窮者が○○県に〇人いる」とか、「母子家庭の平均所得は〇円」とかいったものである。
これらは、ここでいう生活困窮者や母子家庭への支援政策を立案する端緒となる上で、非常に重要なものである。

あくまで端緒と記したのは、完全に人数や平均値のみに基づいて政策立案を行うと危うすぎるからである。
例えば、平均値に基づいて「母子家庭の平均所得が、他の世帯より100万円低いから、母子家庭に100万円支給」という政策を作ったとする。
これで、母子家庭への根本的な貧困対策になりうるだろうか?

答えはNoだろう。母子家庭の根本的な貧困の原因は、母子家庭であることではなく、例えば母親の学歴にあるかもしれない。この場合、100万円配っても根本的解決にはならない。

これらの例から、レベル1はあくまで社会課題を提示する、問題提起の役割が大きいと考えている。

が、現状これをエビデンスと呼ぶことが非常に多いと思うし、行政と研究者の間での齟齬を感じる。

EBPMなるもの

世間では最近EBPM (Evidence Based Policy Making)というものがはやっている。これは先述したエビデンスに基づいた政策立案であり、近年多くの関係者や経済学者の間で話題になっている。

経済学者的な立場に立ってみると、EBPMは先述のエビデンスのレベル3に該当すると考えられる。
つまりシンプルな検定や回帰分析ではなく、計量経済学に基づいた実証分析である。

EBPMにおいては、ある政策を立案・施行することを見据え、それが本当に効果を持つものになりうるか因果推論に基づいて実証的に分析する。
これにより、処置変数の内生性などを考慮したうえで、政策の効果を推定することが可能となる。

理想的には、こういった計量経済学的因果推論の末に政策が施行されることが望ましいが、現実はそうもいかない。

シンクタンクで働いていて

私は今シンクタンクで働いている。2年働いていて思うのは、EBPMはなかなか遠い所にあるのではないか、ということである。

以下は何となく見た感じの話であるが。。。

シンクタンクは基本的に官公庁からの受託業務を行うが、「効果の分析」などほとんどない。
これはおそらく、シンクタンクとしての仕事は立案された後の施策の効果を見ることよりも、立案のとっかかりとなる根拠をデータ(調査)から炙り出すことにあることによるものではないかと考えている。
また、効果推定は「スキル」寄りであるが、調査は「分野の知識」寄りであることにもよると思う。

では研究者の方はどうか。感覚でしかないが、経済学者らは実証分析のプロであるものの、官公庁はほとんど大学の計量経済学的知見を活かせていないのではないかと思う。

要するに、シンクタンク側からも大学側からもEBPMは叫ばれてはいるもののあまり進んでいないのではないか、というのが仮説であり問題意識である。
あと、ほんの勘でしかないが官公庁が分析者を内製できるようになれば、シンクタンクには今後あまりEBPMの話は回ってこないような気もする。(まじで勘です。)

だからと言ってここで偉そうな提言ができるほどの知見や知識があるわけではない一介の修士卒なので、謙虚に動向を見ながら勉強していきたい。

最近ではEBPMを推進する団体も出てきているようなので、いろいろ活動を追っていこうと思う。


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