松尾 匡
日本は貿易で外国の労働を搾取している【計算結果】

日本は貿易で外国の労働を搾取している【計算結果】

松尾 匡

近況報告続き

5月5日の記事の近況報告で、手術したことを書いたところ、何の病気か書かずにぼやかしていたために、かえってご心配をおかけしてしまったようで、公開後早速、ご心配くださるメールを何通かいただきました。
ご心配をおかけしてすみませんでした。お気遣いいただいたかたがたに感謝いたします。

先日病理検査の結果も出ましたので、この際ちゃんと報告します。
左精巣の腫瘍ということで精巣ごと摘出したのですが、病理検査の結果、やっぱり癌には違いなかったです。でも精巣癌ではなかったので、担当医から2014年3月に腎臓癌で右の腎臓を摘出した病院に問い合わせたところ、その腎臓癌の転移だということが確定しました。
大変珍しいケースで、担当医も聞いたことがないということで、カンファレンスを開くとおっしゃっていました。
毎年CTを撮っていたのですが、ぎりぎり前立腺までしか範囲に入っていなくて、見落とされていたんですよね。転移だけでもありえない確率なのに、さらにこんなまさかの偶然が重なる。

なんかこんなことばっかり。
おととしの11月頭ぐらいに、紅茶をひっくり返して、ノートパソコンとスマホが一気に壊れたことがありました。ウェブ授業の最中なので、新しいノートがくるまでの間もたさなければと思って、iPad買ったのですが、そのとき一緒に買ったキーボードが、日本語キーボードの箱の中に入っていたのに、なぜかドイツ語のキーポードでした。
でもこっちはそれがドイツ語のキーポードだなんて知らないから、ウムラウトとかエスツェットとかついてるのを見て、さすがアップル、かっこいいとか思って何も変だと思わなかった…。ところがこれが、英語のキーボードと配列がずれているところがあったために、最初設定したパスワードが、何度入れても入らず、とうとう受け付けなくなってしまうという事態になりました。
結局原因が発覚したのはアップルストアで、もともと買ったのは量販店だったもので、めんどくさいやりとりがあり…。
原因は、カリフォルニアかどこかの段階での梱包ミスだそうです。紅茶ひっくり返してパソコンとスマホ壊すだけでも不運なのに、さらにすごい確率のことが降りかかってきたものだ。
これ関連はそのほかにも、アップルストアから大学事務に問い合わせたら休日だったり、オンライン授業用にパソコンで録音したパワポ音声をiPadで作業した時きれいに消してしまったり、細かなことをあげればきりがないくらい不運が重なりました。
当時は、ちょうど大阪で都構想が住民投票で否決されたときだったから、「大阪にツキを寄付した」とか言ってたのですが、今度はどこにツキを寄付したのかな。また大阪に寄付してたら八幡愛の当選ぐらいはありそうだ。

ともかく、摘出物の表面にも、切り取ったところの断面にも、癌細胞は見当たらないし、これまで撮ったCTにも何もへんなものは写っていなかったので、今のところ抗がん剤治療はせず、経過観察だけでいいだろうということになっています。
喘息なので造影剤は避けていたのですが、念のために、造影剤を入れてCTを撮ってみようということになって、6月に予定をいれています。

手術は、身体の本体、鼠蹊部付近を開いて引っ張り出すものでした。結構傷口は長さがあって、退院してもしばらく痛かったですが、今はほぼ癒えています。ただ、内部は鈍痛の持続やときたまのピリッというのが続きましたね。
それがまあ…えっちなことを考えると途端に痛くなるという…。孫悟空状態!
よこしまなことを考えると三蔵法師がお経を読む。いやはや、修行と考えて仕事に集中するしかないですな。

もっと前の痛みがひどかった段階では、きれいな女の人を見ただけで痛みが走ったですよ。
いやいや頭では断じて何もよこしまなことは考えていないのですよホント。でも身体が反応するのだ。
そのころ、看護師さんに「どんなときに痛いですか」と聞かれたことがあって、さあたいへん。
もしここでこの話をして、「今痛いですか」と聞かれたらどうする。イエスと答えてもノーと答えても問題になる!
…と焦って、結局この話はできませんでした。

それもだいぶ治ってきたと思っていたのですが、昨晩寝ている時に、痛みで目が覚めました。今日はずっとなんか痛い。寝ているときの姿勢の問題で、物理的に圧迫していただけだと思うけど。三蔵法師を怒らせたのかな、何も記憶にないが…。

(後記)結局このエッセーを書きはじめてから投稿まで三日もかかってしまったから、上の「昨晩」というのは三日前の晩のこと。締め切りが迫っている原稿が一つ手付かずの上に、急がなければならない本の原稿があるのに、こんなエッセーを発表してしまったら、関係者の人が見たら「何をやってんだ」と怒られてしまうかもしれません。ごめんなさい!


世界産業連関表で輸出と輸入の生産にかかる労働を計算

1ドルあたりの輸出品バスケットと輸入品バスケットの世界労働価値

さて、今日は、気になっていたことの計算ができたのでご紹介。
日本の左派・リベラル派の間で、なぜか円高志向が強いので、それでいいのかという問題提起の一つとして計算してみました。

まあ、日本生産性本部がコロナ前2019年に出した『労働生産性の国際比較』に出ている次のグラフを見ても、日本は依然名目労働生産性でアジア諸国をはるかに凌駕していますので、以下の分析の結論は、計算してみるまでもなく明らかなのですが。

今回計算したのは、同じ金額どうしの日本の輸出と輸入のそれぞれを生産するためにかかった労働の比較です。
日本の輸出全体の各財の構成割合を不変にして、全体を1ドルになるように相似縮小したバスケット(財の詰め合わせ)と、同様に、日本の輸入全体の各財の構成割合を不変にして、全体を1ドルになるように相似縮小したバスケットを作って、それぞれを生産するために直接間接にかかっている世界中の労働(世界投下労働価値)を計算したわけです。

このとき、日本の輸出品を生産するために、外国から輸入した生産手段を使っていたら、日本でかかる労働だけでなくて、その生産手段を作るために外国で投入された労働も計算に加えるわけです。ずっと川上にさかのぼって、世界中の労働を足し合わせるわけです。
輸入品も同じです。その輸入品を作っている国でかかる労働だけでなくて、その生産のために日本から生産手段を輸入していたら、その生産手段を日本で作るための労働も計算に加えます。

世界産業連関表を「日本」と「世界」に統合して世界労働価値計算

こういう計算は、「世界産業連関表」というのを使います。World Input-Output Database (以下WIOD) というものが公表されています。
ところが、WIODの取引基本表(産業連関表の一番基本的な表)は、43カ国、35部門を扱っているので、セルの数が200万を超え、データが大きすぎてノートパソコンでは扱えません。エクセルの行列計算もできません。
だから本来は、容量の大きなコンピュータで、プログラムを組んで計算しないといけません。

ちゃんとした計算は、どなたか関心をもったかたにやっていただくとして、ここでは、自宅でノートパソコンで簡単にエクセル計算できるように、WIODの日本以外の国をすべて統合して、「日本」と「外国」という二地域の産業連関表をつくり、それを使って計算しました。

これは、私のゼミ生が、昨年度別のテーマの研究のために作成したものです。私はプログラムが組めませんし、大学まで行って申請手続きをして大容量のコンピュータを使うのもめんどくさいので、これを、今回ただ乗りして利用させてもらいます。
このゼミ生は、別件で、統合せずにまともに計算したものと、この統合表で計算したものを比較して、ほぼ変わらない結果になっていることを確かめているので、おおざっぱな傾向はこれを使っても十分言えると思います。

計算に使ったのは、WIODの2013年報告における2009年の取引基本表と、附属資料である各国の労働投入(Socio Economic Accounts)、為替相場(Exchange Rates)です。もう13年も前のデータになりますが、とりあえずすぐ手にはいったのはこれでした。
今は2016年報告が出ているので、どなたか最新のデータでやりなおしてくださることを期待します。

計算してみると、日本産品の輸出バスケット1ドル分の直接間接の投入労働量は、0.025時間と出ました。これは40ドルで1時間。簡単化の概算のために1ドル=100円とすると労働1時間につき4000円の付加価値となります。
日本の正社員の給料を平均すると、時給は1900円余になるというデータがあります。(最終段階やそれに近い段階の比重が高いものなので)輸出産業は賃金が高めで全体平均より正社員比率が高いことを考えると、労働分配率がほぼ半分ということになって、だいたい妥当な結果なのではないかと思います。

輸出品バスケットとの交換で、それをつくるのに要する労働の5.66倍の労働を要する輸入品バスケットを入手

他方、外国産品の輸入バスケット1ドル分の直接間接の投入労働量は、0.144時間と計算されました。
よって、日本は輸出品バスケットを提供して見返りに輸入品バスケットを入手することによって、輸出品バスケットをつくるのに要する労働の5.66倍の労働を要するものを手に入れることがわかりました。

すごい不等労働量交換です。すなわち、日本は貿易を通じて、外国の労働を搾取していると言えるわけです。
もちろん数字に誤差はあるでしょうけど、数割の違いというならともかく、これほど大きな倍率で出たならば、この本質的な結論に間違いはないでしょう。

その後諸外国の労働生産性が伸びて逆転していないか

2009年から現在までの間では、諸外国の労働生産性が上昇し、日本に追いついているかもしれないから、不等労働量交換の倍率はもっと縮まり、逆転しているかもしれないというご意見があるかもしれません。
そこで、輸出品バスケット、輸入品バスケットの各財の構成比は2009年のもので固定した上で、1995年から2009年までの毎年の雇用・総生産データと為替相場データから、毎年の不等労働交換倍率を計算しました。それをグラフにすると次のようになります。

見てわかるように、そんな毎年劇的に減少し続けるものではないのです。
この不等労働量交換倍率の1995年から2009年までの値の対数トレンドをとると、年率1.12%減少しています。これを延長すると、2022年の不等労働量交換倍率は、なお4.84倍あると推定されました。

円安・原油高で逆転していないか

また、2009年はリーマンショック後の1ドル93.46円という円高の時代でした。なので、こんなふうになるのも当然と思われるかもしれません。
しかし、昨今の1ドル130円を当時と比べると約1.4倍。原油価格は当時2009年の61.7ドルぐらいから比べると現在は110ドルぐらいで約1.78倍。
全通貨が米ドルと同じだけ円に対して上がり、全輸入品のドル価格が原油価格上昇分だけ上がるという、ありえない想定をしても、輸入額は両倍率の積をとった2.5倍ぐらいになるだけです。
すると依然、輸入品バスケットを作るのに必要な労働は、同じ金額の輸出品バスケットを作るのに必要な労働の2倍近くはある計算になります。

実際には、米ドルは今一番通貨価値の上がり方が大きい通貨ですから、米ドル以外の通貨の国からの輸入額はそれほど上がりません。すべての輸入品が原油価格上昇分世界価格が上がったわけでもありません。
それゆえ、これもどなたかにちゃんと計算していただきたいですが、結論は2倍よりもだいぶ大きいはずです。
つまり、これだけ円安と原油高が進んだ現在でも、日本が貿易を通じて外国の労働を搾取している事実に変わりはないということです。
(なお2021年で輸入総額中穀物輸入額は1%にすぎないので、小麦価格が暴騰しても、貿易全体の不等労働量交換に与える影響はわずかで、日本が貿易で搾取している事実に変わりないだろうが、それとはかかわらず人々の暮らしが苦しくなるには違いない。)

国際技術格差がなくなるのが左派の理想ではないか

貿易をやめるのが解決ではない

もちろん、だからと言って、貿易するのをやめろと言いたいのではありません。
日本が発展途上国から輸入するのをやめたら、その国では失業者がでてしまいます。あらゆるものの生産の労働生産性が他国より低い国でも、その中で生産性の劣り方の比較的ましな財を生産して輸出して、そうではない財を輸入すれば、自給自足するよりは豊かになれます。どんなに産業が未発展な国にでも貿易のメリットはあるのです。

それゆえこうした事態は、生産手段と技術が一部の人たちに占有されているシステムを改め、世界中の人民が等しくそれらにアクセス可能になる世の中になることではじめて解消されます。
それまでの長い間は、この現実と折り合い、民間アソシエーションの国際連帯や労働者政権の力で、発展途上国への技術支援を地道に進めていくことで解消に近づける必要があるでしょう。

国際搾取で日本の労働者も犠牲になる

それから、貿易の不等労働交換で日本が外国を搾取していると言っても、日本の労働者階級が搾取者だと言いたいわけではないことにも注意してください。新興国から輸入した安い生活物資は、日本国内の非正規の人たちをはじめとした労働者の賃金を低く抑えることができる手段となっています。そのことで、日本の大資本は経済停滞下でも大もうけできています。
つまり日本が貿易で外国を搾取していることが、日本の労働者の搾取が強くなる条件になっているのです。

しかも、今年4月の経常収支は、原油高で貿易赤字が拡大しているにもかかわらず黒字が増えています。海外進出企業からの利潤の送金や、海外への金融的投資の収益がそれだけ巨額だからです。
これはもう、何も見返りに生産物を引き渡すこともない、正真正銘の外国の剰余労働の搾取ですが、日本の労働者・庶民はこのせいで空洞化や海外進出企業製品との競合で職を脅かされるだけで、何の恩恵も受けていません。

円高は不等労働量交換倍率を高めること

とはいえ、左派の立場にある者ならば、輸入品を生産するために世界でかかっている労働は、それを入手するための輸出品を生産するためにかけた労働よりもはるかに多いのだということに、一抹の「やましさ」を感じてほしいものです。同じものを手にいれるために働いても、日本ではより多くの自由時間を享受できる。これは正常なことではないというセンスぐらいは、当然持っていてほしいです。
円安すぎてインフレがひどくもならず、円高すぎて失業や海外移転がひどくもならないちょうどいい円相場を目指すことは必要なことですが、そのちょうどいい円相場でも、現状ではやはり不等労働量交換になることは間違いありません。必要なことであるが、満足すべきものではないと認識すべきです。

円高になるということは、この不等労働量交換の倍率がもっと著しくなるということです。それは左派がよろこんで追求していいものではないと思います。
「円高メリット」というのは、不等労働量交換による搾取のメリットです。「円高メリット」を庶民に還元せよということは、庶民も国際搾取の恩恵に与らせろということにほかなりません。

ブルジョワ側の経済論客はよく、日本の技術的優位性が失われているなどと言って危機感をあらわにし、技術的優位性を取り戻せと叫んでいます。
日本の技術的優位性が失われているとはかならずしも言えないことは、上記で見てきたとおりです。しかし、こんなふうに煽って、新自由主義的改革を進め、国際生産性格差を広げて国際搾取を強化していくことを狙うのは、ブルジョワ側としては当然のことでしょう。
しかし、本来世界的に技術格差が解消されることをめざすべき、左派、リベラル派の立場の人の口からも、ときどき同じようなセリフが聞かれます。

私たちの敵である、現在の日本の支配層に存在する二大路線は、新自由主義派の「菅=アトキンソン」型の国内産業更地化路線も、積極財政派の「経産省=高市」型の戦略的製造業回帰路線も、企業の海外進出を進めて東南アジアに君臨する卓越した日本を目指す点では変わりはありません。
この中にあって、敵がこの卓越日本を作ることについて不手際だと責めるスタンスをとる限り、私たちは日本帝国主義復興の土俵に入って、これの推進に加担することになるでしょう。

今回ご紹介した計算をしたエクセルファイルは、拙サイトの「アカデミック小品」からダウンロードできます。ご確認いただき、どこか間違っていたらご指摘いただければありがたく思います。
エクセルファイルを点検してくださった同僚の橋本貴彦教授、二地域統合産業連関表およびそれを加工した諸係数表を作成したゼミ生の三木健生くんに深く感謝します。


付録:先行研究について

橋本貴彦教授からこうしたテーマの先行研究の紹介を受けました。ありがとうございます。
中島章子さんと泉弘志さんの1995年の共著論文
Economic Development and Unequal Exchange among Nations: Analysis of the USA, Japanese and South Korean Economies for the Years 1960 - 1985 Using Total Labor Inputs
です。

https://core.ac.uk/download/pdf/39179333.pdf

同論文では、1960年から1985年までのアメリカと日本と韓国について、1000ドルあたりのそれぞれの国向けの輸出品バスケットの直接間接投入労働量を計算しています。
すると、1960年には、日本からアメリカへの輸出品にかかる労働は、アメリカから日本への同額の輸出品にかかる労働の8.63倍ありましたが、1985年には1.74倍に縮小しています。これはその後逆転したかもしれません。
同様に、韓国からアメリカへは、アメリカから韓国への18.85倍から7.37倍に縮小しています。
しかし、韓国から日本へは、日本から韓国への2.31倍から4.29倍に増えています。これはその後また減っているかどうか興味があります。

この論文の計算方法は、世界産業連関表を使っているわけではありません。世界産業連関表を作るWIODプロジェクトは比較的最近開始されたもので、当時はまだなかったと思います。
なので、各国での生産活動のために投入される輸入品を作るための労働の扱いは、その輸入品と同額の輸出品バスケットを作るための国内労働で測ることになっています。
これは、一国内の総労働配分を考えるときには適切な扱いですが、国際的な不等労働量交換を推計する目的のためには不適切なところがあります。一方で輸入元の労働で輸入品全体(自国の輸出品生産に必要な投入物も含む)にかかる労働を計算して比較対象にしながら、他方でこのような扱いで輸入品にかかる労働を自国の労働に置き換えて計算するのは矛盾があるからです。
この場合、労働生産性の高い先進国の輸出品バスケットは、それを生産するために必要な労働量が過剰に低く推計されます。
なので、この論文の結論は、労働搾取する側とされる側や、不等労働交換の倍率の推移については間違いないと思いますが、不等労働量交換倍率の数値自体は過剰に大きく出ていると思います。

松尾 匡
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