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キューブリック vs スティーヴンキング


ドクター・スリープ

ドクター・スリープ(2019年)『シャイニング(1980年)』からの納得の再現シーン!

呪われたホテルの惨劇を生き延びた少年が、
なぜ、あのホテルに戻るのかー。
そして、彼は狂気に囚われた父と同じ運命を辿ってしまうのか?
『シャイニング』完結―。
【amazonプライムビデオの紹介文より】
2019年 米国 ホラー映画
原作 : スティーヴン・キング『ドクター・スリープ(2013年)』
監督 / 脚本 : マイク・フラナガン
出演 : ユアン・マクレガー / レベッカ・ファーガソン / カイリー・カラン

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超名作『シャイニング(1980年)』の続編ということで視聴。
1980年のホテルでの事件直後と、2011年、2019年の3部構成。
ざっくり言うと、サイキックバトルが繰り広げられる物語。

まあ面白かったのだが、
あれ?『シャイニング』ってこんな話だったっけ?という印象。
ジャックニコルソンが斧を持って妻と息子を
追いかけ回すシーンくらいしか記憶にない。

『シャイニング』はリアルタイムでは観ていない。
25年前くらい前にビデオで1回観ただけ。
シャイニングが超能力を指す言葉で、
主人公ダニーが超能力少年だったことも記憶にない。

というわけで、この違和感を埋めるため、
『シャイニング』を25年ぶりに再び視聴することに。


シャイニング

シャイニング(1980年)
めっちゃエロい! こんな綺麗なネーチャンが……突如……
腐乱したババアになって追いかけてくる! 嗤いながら!!
もはやギャグ!「ホラーとギャグは紙一重」を見事に体現

冬の間閉鎖されるホテルに、
作家志望のジャック一家が管理人としてやってきた。
そのホテルでは過去に、
管理人が家族を惨殺するという事件が起こっていたのだが…。
【amazonプライムビデオの紹介文より】
1980年 米国 ホラー映画
原作 : スティーヴン・キング『シャイニング(1977年)』
製作 : スタンリー・キューブリック
監督 : スタンリー・キューブリック
脚本 : スタンリー・キューブリック / マイク・フラナガン
出演 : ジャック・ニコルソン / シェリー・デュヴァル / ダニー・ロイド

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改めて、「凄い」のひと言。42年も前の作品なのに。
いや、
今観るとさすがに古いことは古いのだが、その古さに価値がある。
それは、中古品とは呼べない、古美術品的な価値とでも言うのかな?
古い映像なのに新鮮な刺激を受けるというか、
温故知新的に学ぶべきものが大きい、
まさに、時代を超越する超名作だな。

ジャックが斧で叩き割ったドアの裂け目から顔を出す有名なシーン。
わずか2秒を撮るのに2週間190を超えるテイクを費やしたそうだ。
そんな狂気とも言える執念の完全主義があったからこそ、
『シャイニング』は時代を超越できる作品になったのだと思う。

そんな創作姿勢は、
僕の漫画『バクネヤング』での執筆スタイルとも共通する。
あれは全742ページの原稿を描き上げるのに7年の歳月をかけた。
新人漫画家でそんな執筆ペースで描く人は稀だったと思う。
と言っても最初からそんなペースで描こうと思って始めたのではなく、
暴力や殺戮の狂気を描いてるうちに
作者自身が狂気に取り込まれてしまったのかな?
自然とそうなってしまった、
1ページ描き上げるのに2日3日と費やすスタイルに。
でも、
それを「正しい」と思って「強気」でいたわけではなく、
ただ仕方なくでやっていた。そうするしかなかった。
本当は(週刊は無理でも)
せめて月刊30ページくらいのペースでやりたかった。
だけど(たぶん)、僕の能力では、
そんなペースで『バクネヤング』を
後世に残る可能性を持つ作品には仕上げられなかったと思う。
とまあ、
そんな弱気が完全主義に走らせたわけだ。
そう、「完全主義」とは、
決して我が儘や自信に満ちた神経が生じさせるものではなく、
実は強迫観念によって生まれてしまう病的行為なのだ。
決して「主義」なんかではない。「症状」だ。
不安なのだ。実は怖いの。胃潰瘍で執筆中に血ぃ吐いたし。
たぶん、完全不安症候群とか完全強迫症候群とか
そういった呼び方をするのが正しいんじゃないかな?
おそらく、
キューブリックもそうだったと思う(知らんけど)。

と、話がそれたので戻そう。
『シャイニング』を25年ぶりに視聴して気づいたことは、
主人公ダニーが超能力少年だという意味が希薄。
と言うか、
別に超能力少年でなくても物語が成立するラストだった。
だから僕の記憶に、シャイニング=超能力
という認識が消えていたのだと思う。

伝え聞くところによると、映画『シャイニング(1980年)』は、
原作小説に大幅な改変を施し、ほとんど別作品になっているという。
当然、原作者であるスティーヴン・キングは激怒し、批判しまくった。
そのリベンジとして彼自らが製作総指揮を執って脚本を書き、
90分3話、全4時間32分のドラマ版として
真のシャイニングを1997年に映像化している。

というわけで、どの程度の改悪が行われていたのか、
ドラマ版『スティーヴン・キングのシャイニング』を視聴。


スティーヴン・キングのシャイニング

ドラマ版『スティーヴン・キングのシャイニング』1997年

1997年 米国 ホラーテレビドラマ
製作総指揮 : スティーヴン・キング
原作 : スティーヴン・キング
脚本 : スティーヴン・キング
監督 : ミック・ギャリス
出演 : スティーヴン・ウェバー / レベッカ・デモーネイ /
   コートランド・ミード

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視聴している間、ずっと複雑な気持ちだった。
父親役がジャックニコルソンとは全くキャラが違う。
あのようなアクの強さは皆無の善良そうなお父さんって感じ。
「仕事ばかりで遊ばないジャックは今に気が狂う」
という短文を無限にタイピングすることもない。

母親役も全く性格が違う。
あんなおどおどした弱々しいキャラではなく、
夫よりも気が強くヒステリックで性欲も旺盛。

そして主人公・息子ダニーも、
もう一人の人格トニーは指人形ではなく、
他人には見えない青年トニーとして登場。
ラストは超能力(テレパシー)を使って危機から脱出する。
雪壁の迷路なんて存在しないし、父親は斧で襲ってきたりしない。
斧ではなくゲートボールの木槌で叩いてくる(なので怖くない)。

物語として綺麗に終わらせてあるのは、
当然かも知れないけど、スティーヴン・キング版。
それを破壊して面白くしたのがキューブリック版。

破綻、混沌、矛盾。
何が起こるか予想できない面白さを生む三大要素だ。
面白さとは、視聴者や読者の想像を凌駕すること。
綺麗にまとまった物語では簡単に先を予想されてしまう。

たぶんキングは腹が立つというより、悔しかったんだと思う。

だからといってキューブリックが勝ったわけではない、
作品をゼロから生み出したわけじゃないから。

にしても……
なんかどっちの気持ちも分かるなあ。。。

ただ、映像作家たちに対し、声を大にして言いたいことは、
小説なり漫画なりを原作とした映像作品を撮るにあたって、
勝手にストーリーを改変してはダメってこと。

スタンリー・キューブリックはね、
映像ノ超天才サンだから許されるの(原作者は許さなくても)。

凡人は真似しちゃダメ!

原作付きの作品なんか撮ってる時点ですでに凡人だからね。
キューブリックも僕から言わせれば、物語作家としては凡人。

何か新しい物を撮りたい、革新的な冒険をしたい、
っていう野望があるならゼロからやりな、ってこと。わかった?
映像ノ超天才サン以外はね。

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