見出し画像

「ベッドが見えてきた」

今の家に引っ越してきて10年弱になる。
当初はまっさらだった部屋も、今ではすっかり生活感がこびりついている。
子供が大きくなるにつれ、服やおもちゃ、本などまさに雑多なモノが増えていった。
間取り上は2LDKだが、モノの量は次第に「生活圏」である部屋を一つ一つ確実に覆い尽くしていった。
ベッドのある寝室は、ベッドの上はもちろん床が見えないまでにあらゆるモノで埋め尽くされ、最近ではドアの開け閉めすら容易ではなくなってきた。

毎月それなりのお金を払って住んでいるわけだが、このままでは生活の場を「物置き」が圧倒してしまうという危機感が強くなっていった。
掃除はおろか、換気することもできないので、単にモノを置いているだけではなく、埃や淀んだ空気の存在を感じざるをえないのだった。
最近ではそれが精神的にも悪影響を及ぼし始め、「あの部屋は何のためにあるのか」とか「人よりモノが主役の家に意味はあるのか」などと考え込んでしまう。
そして「物置きのために部屋にお金を払っているのではない」とか「ベッドも使わないのなら捨てたらいいのに」などと語気を強めて言ってしまう。
子どもたちに「片づけなさい。ゴキブリの棲家になってしまうぞ」と言っても聞かないし、妻も「何とかしたいけど、1人ではどうにもできない」とイライラを募らせている。

状況が変わらないまま数年が経過した。
ところが今日、なぜか子どもたちが片づけを始めた。
きっかけは「ゴキブリ」である。
マンションの比較的高層階に住んでいるせいか、今まで一度もゴキブリを見ることなく暮らしてきた。
ところがついに先日、やつが姿を現したのだ。
子どもたちはゴキブリに恐怖を抱き、あの部屋を片づけなければゴキブリが繁殖してしまうと思ったのだ。
せっせと部屋の整理を始め、あっという間にごみ袋数袋分のゴミが出た。
空いたスペースにはすかさず掃除機をかけ、アルコールスプレーで拭いている。

リビングでくつろいでいると、上の子が「ベッドが見えてきた」と嬉しそうに近づいてきた。
僕は部屋に向かい状況を確認した。
まだ散らかってはいるけれど、確かにベッドが姿を現した。
よくがんばったなと彼らを褒めた。

片づけなんて大したことではないかもしれないが、我が家にとっては長年の懸案。
これが進めばきっと心も整理され、モノに圧迫される生活から解放されるだろう。
片づいた後の部屋をどうするか、家族で話すのが楽しみだ。
さああと少し。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?