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どうなる?Twitterの未来 対話形式でわかるイーロン・マスク【第2話】

第2話:天才少年の片鱗

「お待たせしました!」
キンキンに冷えたウーロン茶が2つ届く。

一口飲んで息をつくと、針金男が話し始めた。
「9歳の時に両親が離婚すんねん」
「……なんとなく、そんな予感はしてました。イーロン・マスクはどちらについていったんですか?」
「お父さんや」
「……え!」
「意外やろ。これは彼にとって、初の本格自伝「イーロン・マスク未来を創る男」にも書いとるけど「父が孤独でかわいそうだと思った」そうや」
「優しい子だったんですね……」
「……とはいえ、父の厳しさは変わらず、タイヘンな毎日を送ったらしいで。……でも、そんな中で一つ素晴らしい事件が起こるんや」
「……事件ですか?」
「まあ、事件というより〝出会い〟といった方がいいかもしれんな。10歳の時にパソコンを買ってもらったんや。……で、独学でプログラミングを学んだ」
「……ちょっと待ってください、10歳が独学でプログラミングですか?」
「信じられへんやろ」
「神童にもほどがありますね……」
「これもさっき教えた自伝に書いてあるけど、普通は半年かかって学ぶテキストを3日で読破したらしいで」
飲んでいたウーロン茶を、はじめが軽く吹く。
「……! なんや自分、汚いなあ!」
「いやいやいや! だって普通驚くでしょ。まだ10歳の少年が、普通は半年かかるテキストを、わずか3日で終わらせるなんて!」
「異常やな。
そのテキストだって、子供用には作っとらんからな。普通の大人でもやる気がなかったら、半年かかっても終わらんやろ」
「ものすごい集中力ですね……」
「集中力! まさにそれや。それこそ、イーロン・マスク、最大の武器やな。シングルタスクが、脅威的なスピードと成果につながっとるんや」
「……いや、本当にすごいですね」
「……フフフ、驚くのはまだ早いで」
「……?」
「このパソコンを使ってな、12歳でソフトウェアを作ったんや」
「……!」
無言でウーロン茶を飲み干すはじめ。
「……急に、どないしたんや」
「ビックリしすぎて、気持ちを落ち着かせるために飲みました……。
すみませんウーロン茶おかわり!」
「ハハハハハ!」
笑いながら、はじめの背中をバンバン叩く。
「……! やめてくださいよ、結局むせるじゃないですか!」
「すまんすまん、いやホント、マジでビックリするよな!」
「……それでお金も?」
「500ランド(南アフリカ)手に入ったらしいで」
「いまだに副業で0→1突破できない、ぼくは何なんですか……」
「まあまあ、イーロン・マスクを基準にする方が間違いやで。
あんまり落ち込むなや!」
店員から、2杯目のウーロン茶を受け取ると、はじめは何やら考え込む。
「……ん? はじめちゃん、どうかしたんか?」
「いや、ここまでイロイロ話を聞かされて、ギモンが浮かんできたんです」
「……ほーーー、なんやねん?」
「イーロン・マスクにとって、南アフリカって場所は、さぞ窮屈だったんじゃないかって……」
はじめの言葉を聞くと、針金男がニヤッと笑って言う。
「……さあ、そこや」

人生が動き出す、いざ新天地へ

針金男はウーロン茶をあおると、一息ついてから話し始める。
「10歳でパソコンに興味を持ったように、彼の視線の先には、最新テクノロジーがあった。目指すべきは当然……」
「アメリカ、ですよね」
「その通りや。
でも当時まだ17歳。お金もなければアメリカでのツテもない。そこで頼ったのが、お母さんのメイさんや。メイさんはカナダの国籍を持っとったからな、イーロン・マスクもカナダ国籍を取得できたんや」
「……じゃあ、まずはカナダに?」
「せや。1988年6月、カナダに降り立った。そこからの1年間は、資金を作るために肉体労働や」
「あの、イーロン・マスクがですか!」
「従兄弟の小麦農場で働いたり、チェーソーで木を切ったり……」
「今の姿からは想像もつきませんね……」
「中でも製材所のボイラー清掃は過酷やったらしいで……」
「……ホント、泥くさいこともいとわない人なんですね」
「泥くさいといえば、この後の話もすごいで〜」
「……?」
「カナダにわたって1年後、1989年にオンタリオ州(カナダ)にあるクィーンズ大学に入学して、弟のキンバルと合流すんねん。……で、二人して新聞を読みまくった」
「……新聞? 何のためにですか?」
「面白そうな人を探すためや。主に実業家やな。……で、かたっぱしから電話をかけて、会ってくれないかとランチに誘うんや」
「……え!? アポなしですよね」
「当たり前やん、ツテなんてないからな。まあ大抵は断られるが、この型破りな方法で、カナダ五大銀行の一つ、ノバ・スコシア銀行でインターンをするチャンスをつかむんや」
はじめは、腕を組み考え込む。
「どや、思うところは結構あるやろ」
「……そうですね。これだけネットやSNSが普及した今だと、なにかとオンラインでことを済ませることが多いです」
「せやなあ、今だとSNS経由でこと足りることも多いしな。……でもなあ」
針金男はそこで一呼吸置くと、はじめに体を向けて言う。
「人の思いや情熱って、実際会ってみんと分からん。そう思わんか?」
「……そうですね」

はじめは胸をつかれたような顔で、ウーロン茶をちびりと飲む。
「……二人はどんな気持ちで電話をかけまくったんでしょうね。……9割方、断られる電話。ろくに用件も聞かずにガチャンと切られることもあったでしょう。それでも諦めずに電話をかけ続ける……」
「楽しかったんちゃうかな」
「……え」
「チャンスがない南アフリカにいた頃を考えればそうやろ。かなり壮絶ないじめにもあってたらしいからな」
「……え! あのイーロン・マスクがですか?」
「階段から落とされたり、気絶するまで殴られたり……。
あのまま南アフリカにいたら、今のイーロン・マスクは絶対ないな。だからこそ、過酷な肉体労働をやろうが、アポを取れるあてもない電話をかけようが、全然苦じゃなかったんやないかな。目をらんらんと輝かせながら、弟のキンバルに「次、誰にかける?」ってやってたと思うで」
「……指輪物語」
「え?」
「さっき、J・R・Rトールキンの指輪物語が好きって言ってたじゃないですか。
きっとRPGでもやるみたいな感覚で、毎日電話をかけていたのかもしれませんね」
「そうそう、人生は冒険やからな。そして舞台はいよいよアメリカに移るわけや」

夢の舞台、アメリカへ

「あれ? もともとはクィーンズ大学(カナダ)でしたよね? 一体どうやってアメリカに……」
「奨学金を受けて、ペンシルバニア大学に編入したんや。
当時、彼は人類の進歩に貢献する分野は3つあると考えていたそうや」
「3つ、ですか」
「……なんやと思う?」
はじめは考えてしまう。
「これまで彼がやってきたことを考えれば、おのずと答えはわかるで」
「……テスラは電気自動車ですよね、化石燃料からの脱却。ロケットはそのまま宇宙で、Twitterは……ネット」
「正解や。クリーンエネルギー、宇宙、インターネット。この3つや」
「……というか、人類の進歩を軸に考えるのがすごいですね」
「せやな、普通の人はみんな、自分の生活を守るだけで精一杯や。人類の未来のことなんて考えへんもんな。その辺りからしてスケールが違うねん。
……で、ペンシルバニア大学で経済学と物理学の学士を取得する」
「……いま、さらっとすごいこと言いませんでした?」
「お、よく気づいたな。
せやねん〝経済学〟と〝物理学〟2つの分野を同時に勉強したってことや。大谷翔平も真っ青の二刀流。この辺りが規格外なんや。だからこそ、テスラやスペースXの製作現場でも技術者たちと対等に渡り合えんねん」
「……しかもお金の話も通じる。本当に一人の人間ですか?」
針金男は笑いながら、ウーロン茶を飲む。
「……驚くのは早いで」
「……?」
「……イーロン・マスクはさらに高度な物理を学ぼうと、1995年にスタンフォード大学の大学院へ進むねん」
「……あのー、ものすごくバカな質問してもいいですか?」
「なんやねん」
「スタンフォード大学ってどのくらいすごいんですか?」
「……せやなあ、まず入学すること自体がめっちゃムズカシイ。合格率は3〜4%。全米でも最難関の大学と言われとる。卒業生もそうそうたる顔ぶれや。
アメリカ大統領やら、アメリカ国防長官やら、宇宙飛行士やら、インターネットの父、GPSの父なんて呼ばれた人……、Netflixの創始者なんて人もおる。
はじめちゃんにもパッとわかる人だと、ハリウッド女優のシガニー・ウィーバーさん(代表作:「エイリアン(1979年)」「アバター(2009年)」も、スタンフォード大学出身や」
「大統領から宇宙飛行士、ハリウッド女優まで……。才能の宝庫ですね」
「今までのアメリカを作ってきた人材を輩出してきた名門……、と言っても過言ではないな。さあ、ここでもう1回驚いてもらおうと思うが……」
「これまでさんざん驚かされましたからね、だいぶ免疫はついてきましたよ」
はじめの言葉をきき、針金男はニヤッと笑う。
「……この超名門大学を、たった二日で中退したんや」
針金男の言葉に、おもわず天を仰ぐはじめ。
「……つねに予想の斜め上をいきますね。一体どうしてですか?」

1995年に変わった世界線

針金男は身を屈めて笑いながら、
「ホンマに面白いよなー。ウィキペディア見ながら「なんで?」「どうして?」って調べとるだけでも楽しくなってくるわ。……で、二日でスタンフォードを中退した理由やが、大学をやめた年が関係してんねん」
「一体いつですか?」
「1995年や。……どやなにか気づかんか?」
「……1995年、1995、1995、95……。あ! Windows95!」
「ビンゴや。この辺りは、オリラジのあっちゃんも動画で解説しとるが、Windows95の登場で、世界が一気にネット社会になっていくねん。
その時代の波を敏感に感じたからこそ「大学院で物理の勉強してる場合やない!」……って高速で思考を切り替えんねん」
「スピード感が異常ですよね。
いくらインターネットの盛り上がりを感じたと言っても、そんな名門大学に入ったらせめて、普通は半年ぐらい様子をみませんか?」
「そこは一流アスリートと同じ感覚かもしれんな」
「……?」
「……ほら、考える前に体が反応するっていうやん。感覚的に「これや!」と思ったら、すぐさま行動に移す! これまで成功してきた人の共通点って、案外こんなことかもしれんぞ」
「……やめて、なにをやったんですか?」
「弟のキンバルと一緒に、Zip2(ジップツー)というベンチャー企業を立ち上げたんや」
「どんな会社なんですか?」
「Googleマップの先駆けみたいなサービスやな。今でこそ、地図アプリを見て飲食店やお店を探すなんてことを当たり前にやるけど、当時はそんなものがなかった。せっかく質の良い商品、サービスがあったとしても情報は口コミのみ。それだとお客さんには情報が届かない。……ということで、地図、電話帳、ニュースなどの情報をオンライン上で提供しようとしたんや」
「Googleマップがない頃に、そんなことを考えていたんですか……」
「一歩、二歩やない、つねに人が考える数歩先の未来を見据えてるねん。
……だから理解されるまで苦労すんねん」
「そういうもんですかね。みんなワクワクして投資するんじゃないですか?」
「いやいやいや。
一歩、二歩先やったら、お客さんも多少は想像がつくからわかってもらえる可能性もある。ところが、さらにその先の世界となると、もはや未知の世界や。
加えて名も知らぬ若者が立ち上げたベンチャー企業。最初の頃は小さなレンタルオフィスに泊まり込んで、毎晩のようにウェブサイトのプログラムを書いていたらしい」
「……猛烈に働く背中で、まわりを引っ張るタイプの経営者ってことですか」
「うーん、それもあるかもしれんけど、これってやりすぎるといつまでも残業して、こっちが帰りづらいモーレツ上司みたいになるやん」
「……それはそれでツライですね」
「イーロン・マスクの場合、彼の頑張りで確実にウェブサイトが進化・改良されていくから、彼について行けば何とかしてくれるっていう、期待感がすごかったんやと思うわ」
「……なるほど、いまは我慢に我慢を重ねて力をためている段階。うまく点火、発進すればロケットみたいに飛んでいく可能性を秘めた男……」
「はじめちゃんの言葉を借りるなら、Zip2(ジップツー)というロケットは見事に飛んだと言えるな」
「……飛んだというのは?」
「3億700万ドルや」
「……え?」
「1999年に、世界的パソコンメーカー、コンパックが3億700万ドルでZip2を買収したんや」
「えーーーーー!」
「これは驚くのもわかる。弟と最初に作った会社が、いきなり日本円でいうと300億円以上の価値を生んでしまったんやからな……」
「そう考えると、スタンフォード大学院をたった二日で中退したのは大正解だったワケですね……」
「先見性もさることながら、ここでも発揮されたのは泥臭いまでの行動力や」
「……そうですね。カナダに渡ったばかりの頃、お金は必要だからと肉体労働を1年間やり通しましたよね」
「いまやるべきことを見極め、これだ!と決めたら惜しげもなく時間を投下する。これがすごいねん。イーロン・マスクの辞書には「普通はこうする」という言葉はないんやろな」
「……まさに普通を壊す男、ですね」
「このイーロンマインド、次に注ぎ込んだのはなんやと思う?」


参考文献&参考動画

「イーロン・マスク 未来を創る男」(講談社)
「72歳、今日が人生最高の日」(集英社)
「中田敦彦のYouTube大学」



これでまた、栄養(本やマンガ)摂れます!