「選ぶ」を支える エピソード2〜「色を選ぶ」支援〜
美術の時間。「言葉でやりとりが(今は)できない全盲の方の色選びってどうしたらいいんだろう?」とある同僚が呟いていました。そこで、以前、研修会で聞いた「りんごの赤色」など身近な実物と関連づけて提示するアイデアを話しました。
アイデアがあってもそれを実際に形するためにはハードルがありますが、その同僚はすぐに下の写真のような色の手がかり半実物カードを作ってしまいました。ほんと素晴らしい。
さらにその同僚の工夫は続きます。一個一個の色とカードのマッチングの説明を毎時間して、2択が何となくできるようになったところでその生徒さん用に
「画用紙の大きさがわかる枠」
「絵の具のトレイの固定」
「色の手がかりカード提示」
を段ボールと新聞紙で作りました。
すると、生徒さんは自ら「色手がかりカード」に手を伸ばし色を確認しながら絵の具トレイへ。たっぷり手に絵の具をつけて画用紙に戻りペタペタ色塗りを始めました。しかも、枠がなかった時は、画用紙の中心部だけに固まっていた色が、枠をつけたことで画用紙全体に広がっていきました。生徒さんもこの活動が大好きで今では、美術のある日の朝には、手でペタペタするジェスチャーをするようになりました。
ここで一つ注意です。この生徒さんは、ベタベタの感覚が大好きだったので直接絵の具でも大丈夫でしたが、それが苦手な方もいます。教材図鑑でも書きましたが、見えにくさなどの感覚の制約のため外界からの情報が受け取りにくいと子どもは、自己防衛的になり自分の世界に閉じこもってしまっている場合があります。そうなると手を伸ばして触るという行為自体が、はじめから自発的に起こるものではありません。まずは触りごごちの良い毛皮のようなものを提示し、心地よいので「もっと触りたい」という能動性を引き出すことが重要です。いろいろな感覚に慣れさせようとザラザラした触りごごちに悪いものや学校でよく使われる絵の具やスライムなどベタベタしていて触って気持ちの悪いものを提示すべきではありません。実際にベタベタという触感覚が苦手な子どもも少なくありません。子どもにとって触るのは怖いことかもしれないと想像することが大切です。まずは、安心して触れるものを作るのが重要です。子どもはそれを心の拠り所にしつつ、少しずつ世界を広げていきます。
絵の具のベタベタを軽減して、サラサラな触りごごちにするために、トロミ剤を混ぜる場合があります。トロミ剤を混ぜると仕上がりに凸凹ができて立体的な作品になり触っても楽しめるという効果もあります。
詳しくは、以下の報告書のP67からの「<報告2> アセスメントの結果蛍光色が見えることがわかり、視覚を使って楽しむ美術の授業を展開していった事例」をご覧下さい。
ところで、画用紙や絵の具の色を選ぶような場面は学校でも多いと思います。そんな時、はっきり選んでくれない人もいます。「興味がない」「色がわかりにくい」「なぜ色を選ぶのか意味がわからない」など様々な理由が考えられます。色が際立つように、背景整理しコントラストをはっきりさせて提示することも有効ですが、
さらに、今回の工夫のように選択肢の色を実物に関連させて提示すると色のイメージがより明確になり選びやすくなるかもしれません。
「興味がない」「なぜ色を選ぶのか意味がわからない」場合は、本人が興味が持てるような、つまり自分も作ってみたいと思えるような素敵な完成品を提示し、全体像をイメージできるようにすると取り組みやすくなるかもしれません。
ところで、同僚も一緒に工夫してくれると本当に楽しいですね。仲間っていいなと実感できます。生徒さんの嬉しそうに取り組む様子を見たらもう工夫せずにはいられません。そして、その工夫が他の生徒さんの役に立つ可能性もある。今の時代、学校でも本業(子どもとの学び合い)とは関係ないところでいろんな厄介なことはありますが、それでも特別支援学校の仕事は、生徒さんと同僚と共にそれぞれの可能性を気づける素敵な仕事です。
今回は以上です。
最後までありがとうございました。
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