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*脚本の本棚*神様への遺書

【監督・脚本・撮影】 籾井 洋太  
【制作】 Artistmarks
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○バー
店内

男と店員の女(ツカサ)が話をしている。
ツカサが男に本を渡すと、男①は本を開き読み始める。

男①「――あれ? この人って確か……スポーツ選手? だっけ? ちょいちょいテレビとかで見たりする人だよね?」

ツカサ「うん」

男①「神さんってこう言う本とかって興味あるんだぁ」

ツカサ「んー興味あるって言うか……」

男①「あ、もしかしてファンとかだったり?」

ツカサ「そんなんじゃないよ~」

男①「え? じゃあ知り合いとか?」

ツカサ「んー知り合いって言うか……まぁ良いから良いから。ちょっと読んでよ」

男①「まぁ良いけど。んー『僕はこの遺書を神様に送るために本にしました』だって。まぁ良いか、続けるよ」

本を開き、声に出して読み始める男①。

男①(M)「――死ぬのが怖くないかと言われたら、それは当然怖いに決まってる……」

× × ×

(フラッシュ)

家で首を吊ろうとしている男。
しかし、いざ決行しようと思ったところで失敗。
その場に蹲る男。

× × ×

真(M)「――でもそれよりも、生き続ける事の方が怖いだけだ。突然こんな身体になって、優しく接してくれる人も、助けてくれる人もいる。でもそれが全て同情に見えてしまう。助けてもらう度に、優しくしてもらう度に自分自身が嫌いになっていく。
神様を呪いたくなってしまう。だから僕は――」

タイトルイン【神様への遺書(仮)】

○ バー
店内

一人の男(佐久間真)が机に伏して座っている。
それ以外にもう客はいない。
そこへ店員の女(ツカサ)がやってきて、真の方を叩く。

ツカサ「あの~大丈夫ですか~」

だるそうに体を起こし、辺りを見回す真。

真 「……あ、あれ? あいつらは?」

ツカサ「こいつも家近いから大丈夫~って言って先帰っちゃいましたよ」

真 「え? マジですか。ごめんなさい。なんで起こしてくんないんだよ」

フラフラと立ち上がり、杖を突きながらゆっくりと出口に向かう真。

真 「あ、お金って」

ツカサ「うん。もらってますよ」

真 「良かった。それじゃあ、ご迷惑おかけしました」

フラフラと出口に向かう真。
それをジッと見つめているツカサ。

ツカサ「ちょっと!」振り返る真。

真 「はい?」

ツカサ「……ちょっとだけ、飲んでいかない?」

真 「は?」

ツカサ「いいじゃん。どうせもうお客さんもいないしさ」

真 「あ、いや、でも」

ツカサ「大丈夫、お金はいらないから」

真 「いや、そう言う事じゃなくて」

勝手に飲み物を準備し始めるツカサ。

ツカサ「はい、どうぞ」

真、しぶしぶ席に戻り、飲み物を飲む。

真 「……水?」

ツカサ「うん。別にお酒とは言ってないでしょ~」

真 「まぁそうですけど」

ツカサ「なに? お酒飲みたかったの?」

真 「いや、そう言う訳じゃ」

ツカサ「酔い潰れて寝ちゃってた人に起きてすぐ酒飲ませたりしないって~」

真 「あ、ぁ……いや、すいません」

ツカサ「いえいえ~」

真 「……あの、確か、神様?ですよね」

女の胸についてる名札を見る男。
『神 司』と書いてある。

ツカサ「え? あぁ、うん。まぁあだ名みたいなもんだけどね。誰かに聞いたの?」

真 「あぁはい。何となくあいつらが言ってたの覚えてます。それって苗字が――」

ツカサ「うん、そう。『ジン』って言うからね。それにどこかきっと神々しさみたいなのがあるのかもねぇ」

真 「……」

ツカサ「ちょっと! 少しは笑うとかなんとかしてよ」

真 「あ、すいません」

ツカサ「まぁ謝られてもだけど。そっちは?」

真 「え?」

ツカサ「名前」

真 「あぁ、佐久間です」

ツカサ「下の名前は?」

真 「あぁ、まことです。佐久間真」

ツカサ「真さんねぇ。ちなみに私はツカサです」

真 「……あの、なんで?」

ツカサ「ん? なんでって?」

真 「いや、なんで引き留めたのかなぁって。そりゃまぁ確かにまだ頭寝ぼけてるし、酒残ってるし、心配されたのかもしんないですけど」

ツカサ「なに~? 余計なお世話だった?」

真 「いや、そう言う訳じゃないんですけど。もうお店閉めるんじゃ?」

ツカサ「まぁそうだけどね」

真 「だから、なんでかなって」

ツカサ「何か……んーなんて言うか……」

どう言おうか空を見上げるツカサ。

ツカサ「……んー、死にそうな雰囲気出してたから」

真 「……え?」

ツカサ「……」

真 「……」

ツカサ「……ん? なに? もしかして当たっちゃった?」

真 「あ、いや……」

ツカサ「こう言う所なんだよなぁ~だから神様とか言われちゃうんだなぁ」

真 「……」

ツカサ「で? なんで? もしかしてもう試しちゃった事あるとか」

真 「え?」

ツカサ「単純に落ち込んでるとか、何かショックな事があったとか。そんなんでも死にたいとか平気で言っちゃう人いるけどさ、そう言う人って結局ただ言いたいだけだったりするし。そんな程度の事とはなんか違う雰囲気? な気がしたから」

真 「いや……別に」

ツカサ「話したら何かスッキリしたりするかもよ」

真 「いいですよ別に」

ツカサ「私結構聞き上手だと思うよ~」

真 「ホント良いですって」

ツカサ「いいじゃんいいじゃん。話してみなよ~」

真 「ホントに大丈夫ですよ」

ツカサ「えー聞かせてよ~」

真 「ホント、やめてください」

ツカサ「やだ、やめない~」

真 「やめてくださいよ!」

ツカサ「……」

真 「なんでって、見てわかんないですか!? コレですよコレ!」

真、動かない自分の片方の脚を叩く。

真 「こんなん話したって普通の人にはどうせ分んないでしょ! 急にこんな風になって今までやって来た事も全部無駄になって普通の生活すらできなくなって、周りからは同情されて。そりゃ死にたくもなるでしょ!」

ツカサ「……」

真 「……あ……すいません。ちょっとまだお酒が残ってたのかな。ホントすいません」

ツカサ「……それだけ?」

真 「……は?」

ツカサ「……それだけで死のうと思ったの?」

真 「……それだけって」

ツカサ「……」

真 「あなたに何が分るんですか? 僕は子供のころからずっと〇〇だけやってきたんですよ。中学も高校も大学も、周りの友達がずっと遊んでる中ずっと練習だけしてようやくここまでこれたんですよ。それなのに急にコレですよ? あなたみたいに普通に生活が出来てる人には分からないかもしれないですけど、今まで積み重ねてきたものが突然こんな――」

ツカサ「普通って何?」

真 「……え?」

ツカサ「確かに私は自分では普通に生活できてると思ってるけどさ、そもそも普通ってなんなのかな?」

真 「は? 何言って――」

ツカサ「分かるよ」

真 「え?」

ツカサ「まぁ全部じゃないとは思うけど、大体は分かるかな」

真 「……いや、分かる訳ないじゃ――」

男、女の視線が少し不自然な事に気が付く。

真 「……え? もしかして」

ツカサ「気が付くの遅くない~? まだ酔っ払ってんの~? まぁそれだけ私の演技力が上達したって事かな」

真 「……見えて……ないんですか?」

ツカサ「うん」

真 「いや、でも、普通に飲み物とか……」

ツカサ「だから言ったじゃん。自分では普通に生活できてると思ってるって。まぁもうこうなってから私は長いしこの店の事ならなんとかね」

真 「……すいません」

ツカサ「何で謝るのよ~謝られても何も嬉しくないの真さんなら分ってるでしょ~」

真 「いや、でも……」

ツカサ「だからまぁ分るよ。死にたくなる気持ちも。周りの全てが変わって、優しくしてくれる人ですらただの同情に感じじゃったり、そう考えちゃう自分も嫌になったり。ホント、 神様は何で自分だけにこんな仕打ちをするんだって思ったり」

真 「……」

ツカサ「で? さっきなんて言ってたっけ?」

真 「いや……ホントすいません」

ツカサ「ははは~冗談だよ冗談~で? 結構すごかったの? 〇〇は? オリンピック出れるくらいだったとか!?」

真 「……」

ツカサ「まだ何も言わない気なの~?」

真 「……いや……正直言えば、ちょっと自分の限界? みたいなのを感じてきちゃってた所でした。そりゃ〇〇をやってる以上はオリンピック目指してましたし、もう少しの所までは来てると思ってたんですけど。どう足掻いてもそれ以上いける気がしなくなってきて、やっぱり才能の差みたいのが――」

ツカサ「え!? マジ!? 半分冗談で言ったんだけど、本当にオリンピックとか目指せるレベルだったんだ!?」

真 「いや、だから――」

ツカサ「いやいやすごいでしょ! そもそも目指そうと思える位のレベルの人ってだけでも十分才能ある人しかなれないんだから」

真 「んーまぁそうかもしれないですけど」

ツカサ「神様なんていないって思ったでしょ」

真 「は?」

ツカサ「もしくは、神様はクソだ! とか、俺は嫌われてるんだ!とか不公平だ!とか」

真 「……まぁ確かに」

ツカサ「それがそもそも違うと思うんだよね」

真 「……ん?」

ツカサ「お金持ちになりたい! って神様に願ったって、神様は都合よく宝くじを当ててくれたりはしないって事。みたいな?」

真 「……いや、意味が――」

ツカサ「分んないよね。ごめん、今のは私が悪いな。でも、ホントにちゃんと頑張ってる人のその願いは聞いてはくれてる気はするんだよね。きっと」

真 「……」

ツカサ「私ね、コレってむしろ私の才能だと思ってるの」

真 「え?」

ツカサ「別に強がりとかで言ってるんじゃなくてね。だって、もし私が言ってる事は同じでも、普通に目が見えてる私だったら何か言葉が軽くなっちゃうと思わない?絶対に何か説得力みたいなのも違うでしょ?」

真 「まぁ、それは確かに」

ツカサ「普通に目が見えてるときはホントなんの目標も才能もなくて、ただただそれなりに生きてるだけで、何かやりたいと思っても大した行動も起こさない様な。そんな感じだったの」

真 「……」

ツカサ「だから、むしろ才能を与えてくれたって今は思ってるんだ。前の私じゃ出来なかった事が今では出来るし。ホント、今の方が充実して生きてるって感じするし」

真 「……」

ツカサ「限界感じてたんでしょ?」

真 「え?」

ツカサ「オリンピック目指してたけど、これ以上はもう無理なんじゃないかって自分で思っちゃってたんでしょ?」

真 「まぁ、そうですけど」

ツカサ「無理だったんだよきっと」

真 「は?」

ツカサ「そのまま続けてても無理だったんだよ」

真 「……そうかもしれないですけど、人に言われると何か」

ツカサ「でもチャンスを与えてくれたんだよ」

真 「え?」

ツカサ「いくらオリンピック出たくたって、そう神様に祈ったって、そんな都合よく神様は叶えてくれたりはしなかった。でも、神様はチャンスは与えてくれた」

真 「……」

ツカサ「……そう言う事!」

真 「……」

ツカサ「……」

沈黙の後、突然笑い出す真。
それに合わせるようにツカサも笑い出す。

真 「あーあ、少なくとも、同情で言ってるようには聞こえないですね」

ツカサ「同情する気もないしね」

真 「確かに、神様ですね」

ツカサ「え? なにそれ?」

真 「いや、むしろ神様の代弁者って所か。ツカサだけに……」

ツカサ「どっちにしても良く分かんないし~なに一人で納得してんの~??」

真 「まぁ、何でもないです」

ツカサ「えーそう言うの一番気になるんだけど~」

ワイワイと話をする二人。

真(M)「――僕のこの遺書が誰かの目に触れることにならなかったのは、この神様の代弁者へ出合わせるためだったのかもしれない」

〇バー②店内

男①が本を開き、声に出して読んでいる。
その向かいでそれを聞いているツカサ。

男①「『今僕がこうしてこの本を書けているのも、あの時僕が死ななかったからであり、彼女に出会ったからでもある。だから僕にとっての神様は、僕に才能を与えてくれたのは、紛れもなくこの時このバーで出会った盲目の神様だ』」

ツカサ「……」

男①「あ! もしかしてコレって――」

ツカサ「いや~なかなかいい話だぁ!」

男①「もしかしてこの――」

ツカサ「よし! ありがとね!」

男①「ちょっと神さん!?」

ツカサ「さぁ仕事しなきゃ~」

男①「ちょっと! それズルくない!? ねぇ!」

ワイワイとする男①とツカサ。

真(M)「――だからこそ僕はこの遺書を彼女に送りたいと思う。きっと彼女は笑い飛ばして投げ捨ててくれそうだから。パラリンピック金メダリスト 佐久間 真」





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