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【ホラー書評】澤村伊智「ぼぎわんが、来る」

読書の秋。

自分の中のホラーブーム(3年ぶり4度目)の起爆剤となった、とあるホラー小説を紹介します。
(そしてまた変な投稿シリーズを増やして自分の首を絞めていく…)

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澤村伊智「ぼぎわんが、来る」(2015年、KADOKAWA/2018年、角川ホラー文庫)

【あらすじ】

幸せな新婚生活を営んでいた田原秀樹の会社に、とある来訪者があった。取り次いだ後輩の伝言に戦慄する。
それは生誕を目前にした娘・知紗の名前であった。原因不明の怪我を負った後輩は、入院先で憔悴してゆく。
その後も秀樹の周囲に不審な電話やメールが届く。一連の怪異は、今は亡き祖父が恐れていた“ぼぎわん”という化け物の仕業なのか?
愛する家族を守るため秀樹は伝手をたどり、比嘉真琴という女性霊媒師に出会う。
真琴は田原家に通いはじめるが、迫り来る存在が極めて凶暴なものだと知る。はたして“ぼぎわん”の魔の手から、逃れることはできるのか……。
(出所:KADOKAWAウェブサイト

【書評】

※ネタバレ注意※

本書を読んで、3回鳥肌が立つ衝撃を受けた。

1度目は本書の序盤、平和な家族を襲う怪異「ぼぎわん」の、王道でありながらも凄まじい恐怖の描写。

会社員・田原秀樹の生まれたばかりの娘を執拗に狙う「ぼぎわん」は、彼が幼少期に出逢っていたかもしれない怪物だった。周囲のものを傷つける「ぼぎわん」に対して、秀樹は生まれたばかりの娘を守ろうと必死に試みる。

怪物の振る舞いはある種の昔話・民間伝承的なステレオタイプだが、クライマックス直前のシーンを敢えて冒頭に挿入するなど、構成が極めて洗練されており、読者にとっては「どこかで聞いたことのある話なのに怖い」という強烈な印象を受けること必至だ。


2度目はその家族の裏側を語る、別の観点からの描写。家族を守るため自己を投げうって奮闘する田原秀樹の姿は、妻の香奈には極めて異様なものに見えていた。

秀樹は「勘違いイクメン」で、「家族のために頑張る自分」が可愛いだけで家事の負担を妻に押し付けイクメン仲間と飲み歩くような独善的な男であった(と、妻は思っている)。それでも香奈や娘・知紗は「ぼぎわん」への対抗策を講じる中で出会った霊能者やオカルトライターと交流を深めていくが、そこに「ぼぎわん」が再び襲い来る。

叙述トリック的な手法で、サスペンス的なファクターが作品に加わったことで、読者にとっては語り手すら信頼できなくなってしまう演出効果が見事。


そして3度目は「ぼぎわん」の正体と、その標的となった家族をめぐる因縁の真実が一気に明らかになる様子だ。視点は再び変わっており、家族にとっての余所者であるオカルトライター・野崎のものに移る。第3者の目線から「ぼぎわん」がなぜ今になって田原家を襲うようになったのかが、精密に積み重ねられた伏線回収で明らかにされる。

そして野崎や霊能者・比嘉姉妹は「ぼぎわん」との決戦に挑む。第1部の恐怖描写と、第2部の卓越した心理描写がここでも余すところなく活かし切られ、奇跡のように(悪夢のように?)満ち足りた読書体験をもたらしてくれる。

ここ数年ネット掲示板の「洒落怖」まがいのラノベレーベルに堕しつつあった角川ホラーに投じられた衝撃の一作。細かいことはいいから、とにかく読んでほしい。


ん、映画化?
意味ありげなのに結局回収されなかったオリキャラの伏線?
超大掛かりな儀式?
オムライスの歌?

そんなものありましたっけねぇ…
(黒木華の演技は本当に鬼気迫っててよかった)

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ここまでお読みくださりありがとうございました!

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