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「臓器提供の意思表示って記入めんどいよね」と放置してたら死にかけた話

保険証とか免許証の裏、書いてますか?

 臓器提供に関して○をつけるあれ。
 書いてますか?

免許証の裏のあれ

 筆者は免許証をもらった20歳の時に初めて読んだ。
「死後」とか「臓器」とか、ドキっとする言葉が並んでいて、車を運転することの重みを改めて突きつけられて身が引き締まったのと、「これからは自分のことは自分で決めるのか」という、大人の階段登る的な感覚を味わった記憶がある。

なぜ臓器提供の話をするのか

 それは、筆者が臓器移植の当事者になったからだ。病気になって死にかけて臓器をもらう側の人間になった。
 現在筆者は32歳で肝臓の難病を患っている。肝臓移植以外の根本的治療法は今のところなく、2, 3年後くらいに移植手術になるだろうと言われている。
 しかし、日本では移植を希望していても実際に臓器移植を受けられる確率は、ガリガリ君の当たりくらい低い(3%)らしい。ガリガリ君なんて1回も当たったことないよ……。
 調べてみると、日本の移植医療は海外と比べて遅れていて、臓器提供の数がとても少ないらしい。どうして日本は海外よりも遅れているんだろうか?

 そもそも臓器提供って何? という方はこちらの記事を読んで欲しい。

で、お前は免許証の裏、書いたの?

 ここまで読んだ方は思ったことだろう。

「みんな臓器提供の意思表示しようぜ!」的な話を始める匂いをプンプン醸し出しているお前。「そんなお前はちゃんと意思表示のとこ記入してるのか?」と。

 そりゃあもちろん書いた。

 ……最近。

 最近書いた。
 厳密には病気になってから書いた。

 正直に言おう。自分が当事者になって初めて書いた。

 ちょっと待って!
「お前、自分が当事者になったから書いただけじゃねーか!」とか言わないで! 石を投げないで! 正直に言ったし許して!


 20歳の頃は、まさか自分が10年後に臓器移植の当事者になっているとは思ってもみなかった。「臓器移植なんて自分とは関係ないだろう」というのが本音だった。だから「よくわかんないし後でいいか」と記入してなかった。

 だが、この「臓器移植なんて他人事」という本音こそがまさに記入率が低い原因じゃないだろうか。

 あなたは興味ないアンケートを「よかったら記入してくださ〜い」と呼びかけられて記入するだろうか?

 しないだろう。
 臓器提供の意思表示をするのなんて、よほど社会的意識が高い人だけだろう。

意識ではなく行動を変える施策を

 友人やSNSで移植提供について聞いてみたところ、臓器提供に大きな抵抗があると言う人はいなかった。
 むしろ多くの人は「せっかくなら誰かに役立ってもらいたい」と思っている印象だ。

 その思いが行動まで至っていないのだ。
 とてももったいない。人の思いと行動には乖離がある。
 痩せたいと思っていても、実際に食事制限や運動するのは面倒だ。

「臓器移植ってこんなに人を救えるんですよ〜記入してくださいね〜」というのは、意識に訴えかける施策である。
 しかし、意識に訴えかけるだけでは実際の記入という行動にまで至らないのだ。

 だから、行動を変える施策が必要なのだ。


 再びダイエットの話をしよう。

 これまでなかなかダイエットできなかった人を、なんとかして成功に導きたい。
 この場合
1.痩せることのメリットや肥満による健康リスクを力説する。
2.とりあえずジムに入会してもらって仕事帰りにジム行く生活を始めてもらう。
このどちらがダイエット成功するだろう?

 どちらかだけ選ぶとしたら後者だ。後者は行動を変えている。

 大前研一も「人間が変わるには意識よりも行動を変えることが大事だ」的なことを言ってた(注1)。

注1)正確には「人間が変わる方法は3つしかない。一番目は時間配分を変える。2番目は住む場所を変える、3番目は付き合う人を変える。この3つの要素でしか人間は変わらない。もっとも無意味なのは『決意を新たにする』ことだ」

大前 研一(2005)『時間とムダの科学』プレジデント社

記入するきっかけを生み出す

 では具体的にどういう施策を行えばよいだろうか?
 筆者は記入するきっかけを生み出すのが良いと考えている。

「意思表示欄に記入する」という行動自体は、たいして時間はかからない。だからきっかけを作ることが肝だと思う。

 例えば、以下のような施策はどうだろうか。

  • 運転免許証やマイナンバーカードは、配布時にペンを渡して意思表示欄への記入を促す。同時に、記入時に臓器提供の概要を数分で簡単に説明する動画を見てもらう。

  • 健康保険証についても、免許証と同様に配布時に記入を促す。企業はそのような取り組みをCSR活動の一環として発信する。

  • 意思表示欄に記入した人は公共施設の割引が使える。

 こういった感じの施策を行えば自然と記入するきっかけが作り出せるはずだ。

 このような施策に加えて、記入欄の中身も「もっと記入しやすい」ようにしたら良いと思う。「記入しやすい」記入欄についてはこちらを合わせてお読みいただけると嬉しい。

参考になりそうな施策  

1.アメリカのセカンドチャンスチケット

 軽微な交通違反をした際、ドナー登録をしていた場合は警告で済むセカンドチャンスチケットを渡す。「他の人の人生にセカンドチャンスを与えているあなたにも、セカンドチャンスをあたえましょう」

臓器移植の普及啓発について/第54回 臓器移植委員会 資料2-1 2021.5.19 P26〜P31

 記入することが具体的なメリットにつながるので、記入しようという気になりそうだ。

2.献血ルーム

 献血ルームは、しっかり献血のモチベーションが上がるように考えられている。

・多様なジャンルのマンガや書籍、雑誌を1,000冊以上取り揃えています。
・挽きたて・淹れたてのおいしいコーヒーとお菓子を提供しています。
・無料Wi-Fiを整備、スマートフォン等も充電できるコンセントを設置しています。
・献血していただいた方にハーゲンダッツのアイスクリームをお渡ししています。

横浜Leaf献血ルーム

 献血最高かよ。

 臓器移植に関する記事は以下のマガジンにまとめているので参照して欲しい。

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