『アラーム』

【あらすじ】新幹線の席で隣り合わせた佐藤と田中。2人は全くの他人。佐藤が本を読んでいると、隣の席で寝ていた田中のスマホのアラームが鳴り始める。気付かず寝続ける田中。それを佐藤は注意するが…

【登場人物】
本を読んでいる男 佐藤
寝ている男 田中

新幹線の車内。
前から1列目、通路側の席で足を伸ばして熟睡している田中。足元には大きなカバンが、座席の台にはスマホが置かれている。

アナウンスが流れる。
今日も新幹線をご利用下さいましてありがとうございます。この電車はのぞみ号新大阪行きです。途中の停車駅は、品川、新横浜、名古屋、京都です…

佐藤が前方出入り口から入ってくる。チケットを見ながら席を確認する佐藤。通路側の席で足を伸ばして熟睡している男を、訝しげに思いながら、跨いで窓側の席に座る。

佐藤心の声
何だこいつ…今東京駅出たばっかりなのに熟睡してるよ…

カバンの中から小説を取り出し読み始める佐藤。

座席の台に置かれたスマホのアラームが鳴り出す…

田中:(全く起きない)
佐藤:(チラッと田中を見る)
田中:…
佐藤:あの…ちょっと…アラーム鳴ってますよ。
田中:(起きて、頷いてまた寝る)
佐藤:ちょっと、寝ないで。アラーム鳴ってますって。
田中:(起きる)え?
佐藤:いや、アラーム、止めようよ。
田中:あぁ…(スマホを操作し出す)あれ…止まらないな。

スマホの操作を続けるが、全然止まらないアラーム。

佐藤:あの、デッキに出ようか。
田中:え?一緒にですか?
佐藤:何でよ。いや、ここでやってるとうるさいからさ。
田中:あぁ。出た方がいいですかね?
佐藤:出た方がいいでしょ。周りに迷惑かけてんだから。
田中:あぁ。そうか。そうかもしれないですね。
佐藤:いや、そうだよ。かもじゃなくて。
田中:あれ…これどうすんだろ…止まらないな…
佐藤:いや、とにかくデッキに出ようよ、とりあえずさ。
田中:あぁ…(スマホを置いて通路に出ようとする)
佐藤:いやいや、スマホ持っていかないと意味ないじゃん。
田中:あぁ…(スマホを手に取り通路に出てスマホをいじっている)
佐藤:あの、通路じゃなくて、デッキに出ていじりなよ。
田中:あぁ…

前方出入り口からデッキに出る田中。

佐藤:何だ、アイツ(小説を読もうとする)
田中:どうやるんだろ、これ…(ドアが開きっぱなしになっているデッキでスマホを操作している)
佐藤:ちょっと、奥でやってよ。ドアの側でやると開きっぱなしになるからさ。
田中:あぁ…(ドアから離れる)

ドアが閉まる。
閉まっても聞こえてくるアラーム音。

佐藤:もう、うるさいな。何であんなデカいんだよ、あのアラーム音。

鳴り止まないアラーム音。

佐藤:全然止まらないじゃん。

ドアが開く。
アラームが鳴っているスマホを手に席に戻ってくる田中。

佐藤:ちょっと、止まってないじゃん。
田中:やり方がわかんないんですよ。
佐藤:何でわかんないの?自分がセットしたんでしょ。
田中:まだ、買ったばっかりで操作がよくわかんないすよ。
佐藤:いや、セットした時の逆でしょ。
田中:それがやってんすけど止まらないんすよ。(言いながら席に座る)
佐藤:座るなよ。ちょっと貸して。これどこの携帯?
田中:あ、そうです。Docono(ドコノ)です。
佐藤:え?どこの?ドコモじゃなくて?
田中:Docono(ドコノ)です。
佐藤:どこの携帯だよ…
田中:ドコノです。
佐藤:聞いた結果知らないんだよ。これどうすんだ?本当にわかんねーな。
田中:(他人事のように欠伸をしながらぼーっとしている)
佐藤:おい、お前のだろ。何で他人事なんだよ。
田中:あの…それ、デッキに出てやった方がいいんじゃないですか?
佐藤:何で俺が?てなるよ。これお前のだろ。
田中:はい。
佐藤:お前が持って出ろよ。うるせーから。(スマホを渡す)
田中:ああ…(渡されたスマホを座席の台に置いて席を立とうとする)
佐藤:待てよ。スマホ持ってけって。
田中:あぁ…(首を傾げながらスマホを手に通路に出る)
佐藤:何でちょっと不服そうなんだろこいつ…(つぶやく)
田中:(通路でスマホの操作をする)
佐藤:だから、デッキに行って止めて来いって!
田中:あぁ…。(首を傾げながらデッキへ向かう)
佐藤:ヤバいヤツだな…

前方出入り口から出ていく田中。
ドアが閉まり、アラーム音が更に大きくなる。

佐藤:何で音がデカくなるんだよ。どういうシステムだよ?

前方出入り口から、アラーム音が大きくなったスマホを操作しながら席に戻ってくる田中。

佐藤:え?ええ?
田中:(席に座ってスマホを台の上に置いて寝ようとする)
佐藤:おい、どうでもよくなってんじゃねーよ。
田中:はい?
佐藤:はい?じゃねーよ。諦めたろ、アラーム止めるの。
田中:はい。
佐藤:諦めんなよ、うるせーだろって、で、色んな人に迷惑かけてんだよ。
田中:あぁ…それが何なんすか?
佐藤:え?お前それマジで言ってんの?
田中:え?はい。
佐藤:ヤバいな…いや、とにかく止めろよ。さっきより音がデカくなってんじゃん。

車内の他の客がザワザワし始めて、チラチラ見にくる人が現れる。

田中:(アラーム音に小刻みに頷いてリズムに乗りだす)
佐藤:おい、おい、何、BGMみたいな感じでリズムに乗ってんだよ。たしかに慣れてきてるかも知んないけどさ…いや、慣れてねーよ。周りも騒ぎ出してんだよ。心地良くなってんじゃねーよ。うるせーだけだからな。
田中:(スマホを台に置いて席を立ち)ちょっとトイレ行ってきますね。
佐藤:(手にスマホを持って)おい、置いて行くなよ。俺のみたくなるだろ、持っていけよ。
田中:(行ってしまう)
佐藤:おい!何だよアイツ。クッソ…とにかく止めるか…(必死に操作するが一向に止まらないアラーム音)どうすんだよ…どうやったら止まるんだよ…

他の乗客が様子を見にくる。

乗客:あのさ、それデッキに出てやってくんない?さっきからうるさいよ。
佐藤:いや、これ僕のじゃないんですよ。
乗客:あんたが持ってんだからあんたのでしょ。
佐藤:いや、これね、隣の…
乗客:とにかく出てやってよ、他の人達も凄く迷惑してんだからさぁ。

他の乗客も何人か集まってくる。

佐藤:いや、僕のじゃないんですけどね。
乗客:いいから出てよ。
佐藤:すみません…(席を立つ)

スマホを手に前方出入り口から佐藤がデッキに出ると…
田中がデッキの奥で誰かとスマホで話している。

佐藤:おい、お前何やってんだよ。俺のせいになってんだろが。持ってけよ、これ。
田中:うん、14時26分着だわ。うん、うん。
佐藤:おい、もう一台持ってんのかよスマホ。で、何、悠長に話してんだよ!
田中:ごめんなさい、ちょっと、今話してるんで。
佐藤:あぁ、じゃあ話し終わってからでいいよ。よくねーよ。これお前のだろが。

田中にアラームが鳴りっぱなしのスマホを渡して席に戻る佐藤。
佐藤からスマホを受け取りもう一個のスマホで話しを続ける田中。

デッキから戻ってきた佐藤が席に着くと、またアラームが鳴り出す。
車内がざわつく。

佐藤:え?何?どこからだよ。

田中の足元にあった大きなカバンに気付く佐藤。

佐藤:このカバンからじゃん。

鳴り止まないアラーム音。
ざわつく車内。
佐藤がカバンを開けると無数の壊れたスマホが入っている。

佐藤:何だよ、これ?スマホだらけじゃん。気持ちわる…どれから鳴ってんだよ。

佐藤がその無数の壊れたスマホからアラーム音が鳴っているスマホを探していると、また新たにアラーム音が鳴り始める。

佐藤:え?違うスマホからまた鳴り出してるじゃん。どれだよ…

佐藤の元に集まってくる他の乗客。

乗客A:おい、さっきから何やってんだよ!いい加減にしろよ!
乗客B:外出てやれよ!
乗客C:何個持ってんだよ!

佐藤:すみません、僕のじゃないんですよ。

謝りながら必死にアラーム音が鳴るスマホを探す佐藤。更に次々とアラーム音が鳴り始める。

無数に飛び交う乗客からの罵声
おい、うるーせんだよ!早く止めろよ!外出ろよ!出てけよ

佐藤:どんどん増えてく…もうなんだよこれ!

アラーム音と罵声の激しさが増していく。
前方出入り口のドアが開いたり閉まったりしている。
そこにスマホで話しながら不気味な笑顔で佇む田中。

佐藤:あ〜!!!おい、どうなってんだよ〜!

全ての音が止み、暗闇に包まれる…。

新幹線の車内。
前から1列目、通路側の席で足を伸ばして熟睡している佐藤。足元には大きなカバンが、座席の台にはスマホが置かれている。

アラーム音が鳴る。

窓際の席に座っていた田中がアラームに気付き話しかける。

田中:あの…ちょっと…アラーム鳴ってますよ。
佐藤:(起きて頷いて寝る)
田中:ちょっと寝ないで鳴ってますよ…(ニヤリと笑う)

終わり。




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