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「イネーズ」たくさんの世界の中で その1

6月に入る頃には「前に居た別の場所」と同じように新しい場所で自分の場所を「自分の場所」にできた。

それは「わたしちゃん」も「おれくん」も同じことで、それぞれがそれぞれ自分の場所を作っていた。

でも、「おれくん」たちのところはこの頃からとても「ざわざわ」が大きくなってきていることを俺は感じていた。

そのざわざわの原因はわかってる。

それは「足元の住人」「水中の住人」「空中の住人」がやたらと「おれくん」たちの周りを回ったり喋ったりいろんなことをしていたからだ。

それまでは「うねうね」とか「もにょもにょ」していたものが

「ごそごそ」とか「ぺしぺし」してくるようになったといえばわかりやすいのかな。

そういう「動き」が鮮明になろうとしている時期なのか、すごく話しかけられることも多いし、話しかけることも多い。

でも、決して他の領域まで手を出そうとしない彼らを不思議に思って毎日を過ごしていると「わたしちゃん」たちが話しかけてきた。

「そっちはにぎやかで随分と過ごしにくそうね」

俺はそう言われたのだけど、そんなことは微塵も思っていない。
この状況を苦痛だと感じて「我慢」した覚えはないし、それよりも「住人」たちが自分と同じように成長してくのを楽しみに「待ってる」ほどだった。

「そうでもないよ?うるさくはないし賑やかで楽しいよ」

そう俺が返すと「わたしちゃん」たちはこう返した

「こっちはいいよ、静かで。わたし達しか居ないから気を使う必要ないし」

気を使う必要は無いのかもしれないけど、俺は知ってた。

「わたしちゃん」たちが毎日「自分の仲間に挨拶」をしたり調子を気にしたりとかそういう「わたしちゃん」同士の会話は常に聞こえて来ていた。

それと「おれくん」たちの状況は別物なのだろう。

どっちが楽なのかは俺にもわからなかったけど、ただ一つだけ言えるとしたら「わたしちゃん」達のところには「わたしちゃん」しかいなくてなんだか寂しそうだった。

空を見上げると曇天と晴天が繰り返されてやがて雲が泣き出す時期になってきた。「ひと」が「梅雨」と呼ぶそれが来ようとしていた。

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