「イネーズ」生まれたての前夜に その4
その穴は落ちていることに気が付けない穴。
みんなが落ちているから「ああここが地面なんだと」思って
空を見上げる思考を止めて、自分の頭上に踊る美しい月にすら気がつけなくなってしまってる。
「そうですか、不思議ですねエネルギーが消えるなんて」
俺はそう返していた。
「ええ、不思議なんですよ」
それからというもの、俺は隣のやつと今日の天気はとか近所の子供が虫を見に来てたなとか自分の身の周りで起きたことを話しながら過ごしていた。
決まって夜になって周りが静かになると、やっぱり「わたしちゃん」たちからは「気を使う言葉」がちらちら聞こえてきた。
俺たちはその言葉を聞きつつも自分たちの成長を促していた。
葉も根もまだ立派とは言えないが、隣のやつと競い合うように伸ばしていった。
もちろん、俺達の中にも臆病な奴が居いて、最初のうちは全然成長を見せなかったが何か自分の中で答えが見つかったのだろう、この時期くらいになるとだいたい俺たちの葉や根は同じくらいになっていた。
時期はもうすぐ5月。
俺たちは新しいステップを迎えようとしていた。
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