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●詩「狂ったアパートで」

隣の部屋の住人は、おしゃべりがお好きなご様子。
朝から晩までたった一人で。
食パンが美味いだとか、天気が良いだとか、新しい靴が欲しいだとか、
狂ったように喋り続けている。

上の部屋の住人は、ダンスがお好きなご様子。
朝から晩までたった一人で。
ワルツだとか、サンバだとか、ヒップホップだとか、
狂ったように踊り続けている。

下の部屋の住人は、呪いがお好きなご様子。
朝から晩までたった一人で。
黒魔術だとか、丑の刻参りだとか、こっくりさんだとか(これは呪いだっけ)、
狂ったように呪い続けている。

狂った住人たちに囲まれて、私だけは正常さを保っている。
私は喋ることもせず、踊ることもせず、呪うこともせず。
ただただ日常を生きている。

そして何より、私は一人じゃない。
あなたがここにいる。
喋ることも、踊ることも、呪うこともできなくて、
ただ腐っていくことしかできないあなただけれど、
私はこんなにも愛している。

私とあなた、
この狂ったアパートで、
いつまでも。

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