●エッセイ「ポケットの中」

 ドラッグストアの店内に一人の男の子がいた。言葉はちゃんと話せるが、まだまだ赤ちゃんぽさが残る可愛い子だ。
 私を見つめた後、徐にズボンのポケットから何かを取り出し、見せてくる。その小さな手の中にはピンクの物体。

「それ何?」
「粘土」

 なぜ粘土がズボンのポケットから、と驚きつつも、実は私のスカートのポケットには折り鶴が入っていた。ちゃんとした折り紙で折ったものではなく、いつぞやの美術館の入場チケットで折ったものだ。
 ピンクの粘土を見せてくれたお礼に、折り鶴を見せる。男の子は折り鶴を数秒見つめた後、私ににこりと笑う。私もにこりと返す。通じ合えた気がする。

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