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確証バイアスのモデル化と応用の話

この記事では、確証バイアスの概要とモデルについて説明するとともに、「実社会で確証バイアスという知識をどう使えばいいの?」という問いに対する自分なりの答えを書き出してみようと思います。

確証バイアスとは

自分が確かめようとしている命題を肯定(確証)する情報ばかりに注目し、否定する情報には注目しない傾向のことを確証バイアス*1と言います。

Twitterで見られる確証バイアスの例を取り上げてみましょう。
ある特定の政治家が嫌いなツイッタラーのaさんはその政治家を批判する意見ばかりをいいね・RTする一方、肯定するツイートは注目しないか、あるいはそのツイートに対する否定的なリプライを探し出します

このように確証バイアスは、情報収集の方法や情報に基づく判断が歪め、合理的な思考を妨げてしまうのです。

最近、この確証バイアスを「行動経済学」の用語として取り上げる例をよく見ますが、元々は心理学の概念です。経済学というからには経済学的に解釈・表現してみたいものです。ということで現実世界で起こるこの確証バイアスを意思決定モデルとして捉えてみましょう。

確証バイアスのモデル化

ある男性Aが自動車の購入を検討しており、トヨタ車(T)かマツダ車(M)で悩んでいるとしましょう。

Aさんはインターネットや雑誌を使ってTとMについて情報を集めます。AさんにとってTがベストである場合、得られた情報が「TはMよりも燃費がよくて快適(T>M)」という確率をθ、M>Tの確立を1-θとします。

仮にAさんが「やっぱりTだよな~」とH推しだった場合、T>Mという情報は正しく解釈できるものの、M>Tの情報は確証バイアスによって誤って(あるいは都合よく解釈して)T<Mと判断するものとみなし、その確率をq(0≦q≦1)と置きます。

当初のAさんはT, Mに対する選好は同等であるものとし、t回新たな情報を収集したとします。その場合、AさんがTを好むことの事後確率はベイズの定理を使うことで(雑)、以下のように示すことができます*2。

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詳しい計算・計算結果の記述は省きますが(省くんかい)、モデルを基に計算することで確証バイアスによる影響が明らかになります。

確証バイアスによる影響

自明ではありますが、確証バイアスの程度が増すごとに、誤った判断を犯す確率が高まります

例えば、M推しのAさんによる情報収集の結果、Tを推薦する情報量>Mを推薦量だったとしても、M推しによるバイアスでTの推薦を正しく解釈できず、「Mの推薦量が多い⇒Mが良い」と判断する可能性があります。
先の前提で言うとq、つまり確証バイアスの程度が高くなればなるほど、この誤りの発生率も高くなります。

確証バイアスとどう付き合うか

確証バイアスという知識を得た上で私たちは何ができるのでしょうか。
独り言レベルの内容ではありますが、実社会への適用を検討しようと思います。

モデルをどう使うか

モデルとして表現されている以上、前提となる数値がわかっていれば結果の予測が可能となります。

例えば、「会員登録するだけで500ポイント獲得!」なんて施策は、合理的経済人であればCVR(ここでは会員登録する確率)は100%になるはずですが、実際はそうなりません。実際は確証バイアスを持つ頑固者(e.g. 競合A社が好きだからB社なんて使わないもん!)や合理的に思考しない人たちはたくさんいます。

そのような場合に、施策対象者に対して確証バイアスの程度、規模を推定し、モデル化して計算することでより現実的な予測を導くことが可能となります。

ただ、確証バイアスの程度は数値としてどう設定すべきか、何を根拠とすべきかなど課題はいろいろありそうです。

ビジネスでどう生かすか・注意すべきか

はじめに、新規事業や商品開発など新たな取り組みに関するマーケティングリサーチに着目してみます。

取り組みをリードする立場の人間は「このα(何らかの市場領域やサービス)には価値がある!」と息巻いているはずです。このような場合、彼らはαについてニーズがあること、成長性があることばかりを集めてしまい、相対するβ、γに関するニーズやαのリスクを軽視する可能性が高いです。

確証バイアスによる誤りを防ぐためには、一定の評価軸で競合他社も含めて調査するように設計することや、そもそもリサーチ自体を第三者である調査会社に依頼することが有効となります。

次に、何らかの商品・サービスに関する情報提供(たとえばサービスの紹介ページ)に着目します。

たとえば、Zoomに対抗するオンライン通話サービスAをリリースするとしましょう。Zoom大好きなみなさんが何らかの理由でAのサービス紹介ページに飛びます。この場合、Zoom大好きなみなさんは「Zoomの方がいいに決まっている」という確証バイアスがある状態で情報探索することになります

これを逆手にとり、ページ内に「Zoomで十分だと思ってるんだけど何が違うの?(リンク)」、「Zoomみたいに○×機能はあるの?(リンク)」など、確証バイアスにより生じる問題意識に対応する"問い"をリンクとして設定し、リンク先で何がZoomより優れているか具体的に示します

単にサービスの特徴やベネフィットを語るよりも、その人の問題意識に合わせた表現の方がより効果的に伝わるはずです。私自身マーケターとしての実務経験はなく、A/Bテストしたわけではないので実際に効果があると断言できませんが、一つの案としてこういう考え方もあると思っていただければと思います。

おわりに

今後も行動経済学や社会心理学に関する記事を投稿しようと思っています。よろしくお願いします。

参考資料

*1 社会心理学 補訂版 (New Liberal Arts Selection) 池田 謙一 , p.16
*2 Behavioral Economics (Routledge Advanced Texts in Economics and Finance), pp.212-5
ベイズの定理についてはこちらが参考になります。
ちなみに、ネット上にconfirmatory bias(confirmation bias)のモデルを扱った論文があったので詳細を知りたい方は見てみてください。

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