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■要約≪キャズムver2≫

今回はジェフリー・ムーア著のキャズムを要約していきます。新商品をブレイクさせるマーケティング理論を体系化した古典的な本であり、2010年代になり最新事例を取り入れアップデートしたVer2を要約していきます。プロダクトグロースに纏わる理論ということで概略は昔から知っていましたが、理解を深めようと考えこのタイミングで読んでみることにしました。本書は主にテクノロジー業界を想定したプロダクトライフサイクルの概要死の谷」にあたるキャズムをどう乗り越えるか?というテーマに関する考察が中心となります。


キャズムver2」


■ジャンル:マーケティング・開発管理

■読破難易度:低(身近なプロダクトの事例が豊富に記述されており、イメージしやすいです。本書特有の用語やカタカナがたくさん登場する為、アレルギーのある方は一定数るかもしれません。)

■対象者:・ハイテク業界のマーケティングに興味のある方全般

     ・「キャズム」の概念に関する理解を深めたい方

     ・非連続の成長・変革を牽引していく責任をお持ちの方


≪参考文献≫

■INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 前編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪INSPIRED 熱狂させる製品を生み出すプロダクトマネジメント 後編≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■ジョブ理論

■要約≪ジョブ理論≫ - 雑感 (hatenablog.com)

コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART1≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART2≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART3≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART4≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART5≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART6≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART7≫ - 雑感 (hatenablog.com)

■要約≪コトラー&ケラーのマーケティング・マネジメント PART8≫ - 雑感 (hatenablog.com)


【要約】

プロダクトライフサイクルと顧客セグメント

・新商品市場には初期市場メインストリーム市場と呼ばれる2種類の市場セグメントが存在します。プロダクトライフサイクルが進展し、市場を拡大するにつれて初期市場→メインストリーム市場と移行します。初期市場→メインストリーム市場への移行時には顧客セグメント・インサイトが大きく変容し、PMFできるかどうかの境目になる鬼門になり、これをキャズムと呼ばれます。

・初期市場はイノベーター・アーリーアドプターの2セグメントで構成され、メインストリーム市場はアーリー・マジョリティー・レイト・マジョリティー・ラガードの3セグメントで構成されます。プロダクトグロース過程ではまずはイノベーターを取り込み、そのインサイトと実績をベースにアーリー・アドプターを顧客層として取り込みます。その後、メインストリーム市場におけるアーリー・マジョリティー(実利主義者)を顧客層に取り込むことが最大の関門である為、本書ではそのフェーズ(アーリー・アドプター→アーリー・マジョリティーへの移行期)にフォーカスして考察・提言がなされます。


■各顧客セグメントの特徴

・初期市場を構成するイノベーター(テクノロジー・マニア)はテクノロジーの価値や仕組みを理解し好んで消費することのできる選好性を持ち合わせています。テクノロジーによりユーザーや日常の生活体験がどのように変化・向上するかということに関心があり、それを突き詰めたい・進化に寄与したいという志向性があります。テクノロジー民主化があるべき状態と認識し、「技術革新・仮説検証を自ら行っていくことを信条とする」ような顧客セグメントです。真新しさそのものが価値であるということです。

・初期市場を構成するもう一つのアーリー・アドプター(ビジョナリー)はイノベーターと異なり、テクノロジーそのものではなくテクノロジーがもたらすビジネスアウトカムに着目してプロダクトを雇用する傾向があるので、ビジネスストーリーや課題設定ポイントなどを明確にビジョンとして語ることがプロダクトマーケティングにおける要諦とされます。アーリー・アドプターはイノベーションを推進していくプロジェクトの中でプロダクトを雇用する傾向が強いので、プロダクトビジョンと機能的価値を明確に言語化し、顧客と対話しながら購買プロセスを踏んでいくステップでユーザー獲得・定着・LTV向上を狙っていくことになるとされます。アーリー・アドプターはイノベーターから紹介されて情報を経てプロダクトにアクセスすることが多く、執行役員以上の変革を牽引するロールの中で「自社のビジネスストーリーにプロダクトがマッチするか?」という観点で吟味検討することになるケースが多いとされます。

キャズムを越え、PMFするにはメインストリーム市場のアーリー・マジョリティー(実利主義者)を顧客層に取り込むことが最低条件とされます。アーリー・マジョリティーはイノベーターやアーリー・アドプターと異なり、リスク選好性に乏しく実利を明確にしていくことでプロダクトを雇用する傾向が強いとされます。その為、他社事例や機能的価値・体験価値をシャープに言語化することやマーケティングチャネルもこれまでと異なる大衆向け法人営業組織などを設けて深耕していく必要性に迫られるケースが多いです。これを成しえるには初期市場と異なる戦略・コトを遂行するケイパビリティの人材資源・投資資金が必要な訳でこの適合・人材アロケーションは鬼門とされる所以です。尚、アーリー・マジョリティーは購買コストを下げる為に、複数の業者を雇用して競売にかけるようなやり方を好む傾向があります。アーリー・マジョリティーマーケットリーダーを好んでプロダクト雇用する傾向があり、加えて自分の評価の為にプロダクトのビジネス貢献度合いを測定できるようなアウトプットを好む傾向があります。これは汚いのではなく、セグメント特有の行動形式なだけです。

・メインストリーム市場を構成する3セグメントの1つであるレイト・マジョリティーは「購買金額が大きいが、変化を極めて嫌いぞんざいに扱われることを避ける」傾向にあります。その為に、トータルパッケージで販売することや非注力セグメントとせず丁寧に対応すると、競合の少ない粘着性の高い顧客層が出てくることも多いという性質があります。レイト・マジョリティーは変化対応を好まないために、UXデザイン既存プロダクトからのスイッチングコストが低い導線を引くことが購買を促進するとされます。このフェーズになると、業界セミナー・レポート・業界団体への参画活動などによるリード顧客の生成やブランド構築という中長期的な顧客資産構築の為にリソースを割く必要が出てきます。それ故に、ブランドマネージャー・プロダクトマネージャーが専門で役目を引き受けることが多くなります。


キャズム越えの要諦

・初期市場からメインストリーム市場へ移行しPMFするにはホールプロダクト化競合と市場を創造する人材のアロケーションの3つがポイントとされます。3つを遂行するにあたり、まずは「購入の必要性がある顧客セグメントを見出すこと」が大事で、その為には顧客価値定義や顧客インサイトの深い理解を常日頃から行うことが欠かせません。その上で、提供者側が掲げるバリュー・プロポジションと顧客が享受する価値には明確に差分があり、その穴埋めをする補完機能・プロダクトをもってプロダクト体験を完結させるというホールプロダクトの思想を以てプロダクト開発していく必要性があるとされます。

・ホールプロダクトを推進する上では具体的にはアライアンス締結M&AUXデザインなどが戦略オプションとしてなされ、プロダクトを構成する重要KPIツリーの構築・重要仮説を検証するアジェンダ遂行(プロダクトロードマップで優先順位付け・言語化・合意形成していくステップ)するのが一般的とされます。この過程は「MVP開発~仮説検証をしていくことでプロダクトグロースの方向性・種を把握する」プロダクトマネジメント機能と「販売戦略のトータルマネジメントをする」プロダクトマーケティングマネジメント機能がカギになり、それぞれ専属の役割をする最高の人材で遂行するのがセオリーとされます。

・また、アーリー・マジョリティー(実利主義者)はマーケットリーダーからの購買を好み、他社事例や確固たる機能実績の証明、比較検討購買プロセスなど特有の商慣習を持ちます。これは購買者の所属する企業フェーズ・職務要件などに起因する所であり、ハイテク業界の新規性が仇となるという皮肉でもあります。その為に、潜在・顕在競合するプロダクトとの差別化類似競合・市場そのものを一定育てる活動にリソースを割く必要があるとされます。この考え方・切り口はジョブ理論が有効とされます。

※詳細はジョブ理論要約ブログを参照ください。

・上記のようなプロダクトフェーズの変容に伴い、過去の成功体験や資産を一部捨てながら変革する必要がキャズム越えにはあり、具体的には人材資源のアロケーションが必要になります。目指す山・為すべきことが変容するので、必要な能力・経験も変わるということです。その為に、外部からの積極的な人材採用や既存社員の配置・役割変換・資金調達をしながら先行投資をするなどの戦略オプションを遂行しながら「狙って変革を牽引する」必要性があるとされます。お金を払ってでも解決したいペイン・得たいゲインを持つ顧客がどれだけいるか?・それはなぜか?という初期仮説の構築・解像度深化を研ぎ澄ますことも欠かせなく、混沌とした局面をプロダクト提供企業は迎えるとされます。この人材の環境適応の問題に対峙する為に本書としてはターゲット・マーケット・セグメントマネージャーとホールプロダクト・マネージャーと呼ばれプロダクトマネジメントとプロダクトマーケティングの移行を専門で扱うポジションをつくり専念させるべきであるということを提言されています。前者は業界別マーケティングマネージャー、後者はPMMが本来になっている役割です。「顧客のセグメンテーションと市場規模の推定」・「重要KPIの設定」・「ファネル分析・コホート分析による定量と定性のバランスを取り続ける」など特有の管理業務のような要素を遂行します。


【所感】

・本書はマーケティングとエンジニアリング分野に大きな功績をもたらしたとされています。モバイル機器クラウドコンピューティングなどの技術の発展により、ソフトウェアプロダクト市場が急拡大し、プロダクトマネジメントが経営や事業のトレンドになったことでキャズムは再考されるに至ったとされます。

・名前とキャズムそのものの現象だけは昔から知っており、敢えて読む必要はないと高をくくっていましたがもっと早く読むべきであったなと後悔するくらい非常に面白い内容の本でした。サービスのプロダクト化・プロダクトグロースに寄与するマーケティングマネジメントなどに自身が関心があり、間接的に一部関与する役割をする中で非常にタイムリーな内容でした。「顧客セグメントとユーザーストーリーの解像度を常に高くできるようにリソースを投下し続け、プロダクトグロースポイントを抑える」・「グロースポイントに寄与するアジェンダ選定・論点を解くといったことをどれだけやれるかが大切」という変革を牽引する上での要諦を再認識させられました。


以上となります!

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