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ChatGPTの出現で、人は高い壁に登れなくなるかも?

ChatGPTを使い始めて数ヶ月、独りで仕事をすることの多い私にとって、すでに「頼れる相棒」的な存在になっている。

AIの予想を超えた進化スピードの速さに、世界ではAI規制論が高まっており、日本政府は今のところ活用に前のめりの姿勢を示しているが、果たしてどうなることやら。

この3月にイーロン・マスクらIT業界の大物たちが、AI開発を6ヶ月間ストップし、その間に高性能AIに関わるリスクについて検討しようと呼びかけるオープンレターに署名したニュースは大きな話題を呼んだ。

たかが6ヶ月の中止では大した効果は見込めないことに加え、マスク自身はAI開発に関わっているじゃないかという批判はあるが、著名人たちが声を上げたことで、世界中の関心が集まったのだから、それなりに意義はあったと思う。

具体的にAIのどんな点が脅威を招いているかと言えば、
・個人情報や機密データが漏洩する恐れ(すでに漏洩の事実がある)
・AI自律型兵器が開発される恐れ
・巧妙なフェイクニュース生成に悪用され、社会の混乱や分断化を招く恐れ

などが挙げられる。
要するに、・悪い人(国・組織)が悪用する恐れがあるということだろう。

現段階のAIは、まだ人と同じように柔軟な思考ができる汎用人工知能(AGI)には遠く及ばないので、AIの反逆が人間を滅ぼす、「ターミネーター」的な未来の到来を恐れている人は少数派のようだ。

さて、話は私事に戻るが、私は仕事上、いくら考えても調べても正解が分からず、悩むことが結構ある。そんなとき、これまでどうしていたかと言えば、がむしゃらに考え、調べまくって、なんとかそれらしい答えを出すしかなかった。
ものすごく大変で苦しいし、考えすぎて眠れなくなる時もある。
それでも、頑張った末に答えにたどり着いたとき、充実感と達成感、そして安心感に満たされ、「頑張ったなあ」と実感する。
振り返ってみると、学生時代に難解な数学の問題に取り組んでいたときも、ちょうど同じような気持ちだったと思う。

ところで、Mr.Childrenの名曲「終わりなき旅」の歌詞に、こんな一節がある。
高ければ高い壁の方が
登った時気持ちいいもんな

「今は苦しくても頑張ろう」と気持ちを奮起させてくれる、素晴らしい歌詞だし、まさに真実を言い当てている。「高い障壁を乗り越える気持ちよさ」は味わったことがある人しか分からない、究極のご褒美である。

ところが、ChatGPTが利用できるようになってから、私は難題にぶつかったとき、考えるより先に、ChatGPTに聞いてみる誘惑に勝てなくなってしまった。
もちろんChatGPTは万能ではないし、間違える可能性も少なからずあるので、完全な丸投げはできない。でも、得られるヒントの精度の高さは相当なものなので、確実に仕事の効率アップにつながるし、何より間違う可能性がだいぶ減る。
となれば、使わずにいられるだろうか?

かくして、仕事のペースはたしかに速くなったし、リサーチの負担が減って楽にもなった。でも、言うまでもなく、あの「そうか! わかったぞ!」という、あの「ユリイカ」的瞬間は完全に失われてしまった。

もし私がいま学生だったらと想像してみる。
私の時代と違って、周囲には娯楽があふれており、テレビ番組や映画を早送りしてみなくてはならないほど、時間が足りない時代。
そこへ出現したChatGPT。長時間を費やして努力しなくても、それらしい回答を教えてくれるなら、使いたくなるのが人情というもの。絶対に我慢できないだろう。

例えば、イギリスのケンブリッジ大学などは、「シンプルな回答や定型的な回答をAIに任せて、学生はもっと創造力を使う、問題を解決するタスクに集中できるようになる」と、生成型AIの使用を奨励しているようだが、果たしてその目論見通りに行くだろうか。私は怪しいものだと思う。

インターネットやSNSの興隆で、現代人はすでに集中力や洞察力がだいぶ衰えている。今後、生成型AIが発達すれば、「考えることができない人間」が増えてゆくのは避けられないだろう。
「高い壁に登れなくなる」ことを、「高い壁に登らなくて済む」と喜ぶべきではない。楽をすることで何を失ってしまうのか、しっかりと見据えるべきなのだ。

そうは言ってみたものの、私自身、ChatGPTを活用しまくっているのだから、「空虚なタテマエ」でしかない。
AI開発競争は止められないだろうし、私も当面はChatGPTの利用を続けるだろう。

このまま行けば、近い未来、「あれは終わりの始まりだった」と分かる日が来るのだろうか? そうならずに済むように、今のうちにAI開発はストップした方が賢明な気もするが、奢れるものは久しからずということで、これも人間という生き物がたどるべき運命なのかもしれない。

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