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売上1.3兆円! ヤマト運輸を巨大ロジスティクス企業に育てた小倉元社長のチーム作りを学ぶ

おはようございます。ドドルあおけんです。

さて、経営戦略・事業開発の火曜日。今日は、先週に引き続きヤマト運輸を巨大ロジスティクスカンパニーに育て上げた小倉氏の著書「経営学」を先週に引き続き取り上げます。今回は組織・チームビルディング編です。この本は今後を考える上で大いに勉強になりました。

ちなみに、西野さんオマージュの冒頭のあいさつは、誰も幸せにしない可能性がでてきたのでいったんお休みです。(笑)

雇用を守る

前回の記事でヤマト運輸が多角化に苦戦しているところにオイルショックが起き、アルバイトと新規雇用抑制し約1000名の人員削減をした際、正社員をひとりも切らなかったというお話をしました。

この時の小倉社長の決断は中長期的に非常に重要になってきます。ヤマト運輸含め大手企業は労働組合の力が強いため、経営が新しい方針を打ち出したり、新規事業を提案したりする際、労使関係がうまくいっていないと必ず交渉が難航し、経営がやりたいことができない、ということが起こる、ということのようなんですね。

こうした経営判断に対して信頼を得られるかというのは、これまでどれだけ従業員に対して経営者が真摯に向き合ってきたか、その歴史がものをいうわけです。会社がオイルショックのようなどんなに難しい時も正社員は切らなかった。その実績・手腕があってこそ、誰もが難しいと思っていた宅急便事業に対して、社長の判断を信じてついていこう、という気持ちにさせたのです。

労使共同で努力

労使の関係について小倉社長は次のように話しています。

かつてはヤマト運輸でも、会社と労組は深刻な対立関係にあった。それが労使協調路線に切り替わったのは、宅急便を始める際に、会社と労組は運命共同体であることを理解してもらい、カタチがばかりの労使の駆け引きを廃止したからだ。現在では労働条件の向上を実現するために労使共同で努力をする。そんな考え方が社内に定着している。

さらに労働組合がないと経営が成り立たないと思っている小倉社長の視点が面白いんです。理屈ではなく、経営者としてリスクをとって事業を起こし、運営し、結果を出し続けてきたからこその視点。

会社を経営してて、方針を示し、具体的に目標を設定しても、それが会社の組織の末端まで伝わっているのかどうか、心もとない思いをしているのが実際なのである。管理職に聞いてみると大丈夫です、という。ところが、労使の会議などの折りに、組合から「会社の幹部はうまいことをいっているけれど、現場の一部では本社の指示とはまったく違うことをやっているのを知っているか」と指摘され、そのとおりだったことが再三あった。
要するに管理職は、現場をあまり見ていないし、また都合の良い報告はするけれど、悪い報告は社長に一切しないのである。
社長とは孤独である。その孤独とそこから派生する弊害を補ってくれるのが、労働組合なのである。(中略)労使問題は、つまるところ労使の信頼関係に帰すると思う。それには、経営者が組合から信頼されるようにすることが出発点である。

社員の最大の関心事である重要人事の変更についても役員会の途中で、労働組合の幹部に伝えるなど、経営の状況について徹底的に情報開示を行い、信頼構築にきめ細かい配慮を行っていたため、宅急便事業へ乗り出すという経営判断について、理解を示し共に前向きに検討してくれたのは経営幹部よりもむしろ組合の幹部だったということです。なかなか凄い話です。

宅急便の副産物、感謝

社員をポジティブな方向に向かわせた要素としてかなり重要だけど、小倉社長自身も予期できていなかったのが、B to BからB to Cにビジネスを大きく変えたことにより、主婦を中心としたエンドユーザに直接サービスを提供して、それによって感謝や労いの言葉を直接聞く機会を社員が持つようになり、仕事に対して充実感を持つようになったということです。

法人相手の時はできて当たり前、三越のように半ば下僕のように扱われ、苦役でしかなかった運転手の仕事が、B to Cモデルに変更することで、わざわざ遠くから持ってきてもらってありがとうとか、本当に翌日届いてびっくりしたとか、もう毎日お客さんに感謝をされるわけです。

これからは運転手じゃない。セールスドライバー(SD)として、最前線に立ってお客さんのために主体的に判断、行動して欲しいと考えていた小倉社長の考えを最初は多くの運転手が否定的にとらえていたといいます。

接客のようなことをするために運転手になったんじゃない、とか、俺は車の運転が好きだからこの仕事についたのに、とか、社長の方針が理解できない現場の不満と混乱が多くあったといいます。

でも、実際にお客さんから直接感謝や労いの言葉をかけられることで、仕事自体に意味を見出し、お客さんに喜んでもらうためにどうしたらよいか、と主体的に考えるドライバーが増えていったといいます。

これは、社長の方針の素晴らしさもありますが、実際に社員を変えたのはお客さんに喜ばれるという体験だったのです。小倉社長は当時の様子をこう振り返っています。

社員たちも、実際にSDの仕事をやってみれば、運転以外の仕事にも慣れてくる。それに、一連の仕事を分業していたときに比べ、すべての仕事を一人でこなし、ひとつひとつ完結していくのは、やり甲斐があるし、面白い。
仕事に責任を持つことは大変であるが、反面、達成感があり、やり甲斐があることに皆、気がついたのである。

寿司職人たれ

宅急便の事業構想をする中でこれまでのB to Bモデルからの大きなビジネスモデル変更を実現するために最も大事なのは、いかに売上=集荷につながる情報を会社としてセンサーのように検知するか、その点にある、と考えます。当時のことを小倉社長は次のように述べています。

私は考えた。結局、第一線のドライバーがアンテナを張り、出荷の情報をつかんで対応する以外に方法はない。そこでヤマト運輸では、宅急便を始めるにあたって、第一線のドライバーを中心とした営業および作業の体制を作ることとし、ドライバーの呼称をそれまでの「運転手」から「セールスドライバー(略称SD)」に変更した。
宅急便というものは、地下水を一滴一滴集めるようなもので、第一線のSDの働きからすべてが始まるのである。だからSDによくこう言ったものである。――ヤマト運輸では、社長も営業部長も一円も稼いではいない、SDがお客様のところから一個一個荷物を集荷する以外に収入の道はないのだ。
つまりフォワードであるSDがシュートをしなければ一点も入らないのだ。シュートは、仲間からの的確なパスを受けて初めて有効なシュートができる。仲間が集荷して遠隔地から送られてきた荷物を確実に誠意をもって配達すれば、受け取った荷主から新規の取引が始まる可能性がでてくる。

SDの判断と行動力が収入の増加につながることを理解してもらう。そのために組織の考え方やSDへの権限譲渡などを大胆に行っていきます。

組織図の変更

SDの判断と行動がすべて。このことを社員に伝えるために小倉社長は組織図の書き方、ありようから見直していきます。当時のことを小倉社長はこう振り返ります。

組織図の書き方も変えた。商業貨物を扱っていたときは一番上に支社長がおり、その下に営業課長、また下がって営業係長、一番下に運転手何名という具合に、運転手は十把一からげに書かれていた。それを宅急便ではサッカーチームのメンバー表のように、一番上にフォワードであるSDの名前を連ねて書き、一番下のゴールキーパーのところに支店長の名前を置くように変えた。SDにチームの中心プレイヤーになってほしいからである。

CMでセールスドライバーという言葉を聞いた時、ちょっと違和感を感じた記憶がありますが、そこにはヤマトというチームのフォワード、中心メンバーという位置づけがあり、そういった内部の社員に対してのメッセージという意味合いも大きかったんだろうな、というのが、このエピソードから感じられます。

権限移譲

ボトムアップ、ボトムアップ。経営にアイデアや決断力がない時に決まって出てくる言葉です。ボトムアップされたものを的確に判断できるトップがいる、もしくは、わからないから任せる、のどちらかがないとボトムアップはあまり意味がない、と個人的には思います。

現場が主体的に考え、実行する組織を目指すのであれば、権限移譲は必須です。それをできる組織というのは、21世紀でもなかなか難しいのに、小倉社長は昭和の時代から積極的に権限移譲をしていきます。

具体的には、何か荷物を破損したなどのトラブルがあった時に、その解決のためにSDが自分の判断で解決するための処理権限を30万円までと設定したのです。

リッツカールトンでも現場の権限で使える予算があったと思いますが、この時代にドライバーにそういった権限を与えるのはかなり先進的だったのではないかと思います。

しかし、費用対効果というエコノミクスを考えても、それが合理的だということを小倉社長は理解していました。

事故が起きたら翌日には現金をもってお詫びに行き、即座に解決してほしい。上長など人が介在し、時間が長くなればなるほど会社として支払うコストは大きくなる、という判断がそこにはあったのです。

初期の対応が遅い、もしくは誤ったために、上長、そのまた上長がひっぱり出され、長時間拘束されるのであれば、その人件費の高い人達の給料分会社としては高いコストを払うことになる、という非常に合理的な視点でもこの制度は導入されています。おまけにSDは、自身の裁量・権限を持つことでより責任感を感じながら仕事に対するコミットメントを深めていきます。

社員を”スター”に据える

社員と経営を支配するもの、されるもの、とせず、サポーターとスターに設定するそのデザイン力が小倉社長の優れた経営術です。以下、小倉社長の言葉です。

宅急便を始めるとき、私は宣言した。今後はデパートの大食堂の方式はやめて、寿司屋の方式に変える、と。そしてSDの諸君には、寿司屋の職人になってほしいとお願いした。つまり、荷物を探し、伝票を書き、荷物を運び、コンピュータに入力し、集金し、問い合わせに答えるなど、多様な現場の業務すべてを、SDは一人でこなしてもらわなければならない、と。
どんなお客様にも一人で対応する。これがSDの仕事の基本である。けれども、始めたころ、この方法は昔からいるドライバーたちから拒否された。
寿司屋ではオーナーや女将さんは脇役である。職人がスターでなければならない。宅急便でも、営業所長やグループ長は脇役である。SDがスターでなければならない。

自分が脇役で、社員がスター。考えていることの質量は圧倒的に経営者である小倉社長であることは間違いないですが、そこで奢って、俺が考えたとおりにお前らはやればいいんだー、とやらないのが、凄いというか素敵なところですね。大人の男の余裕です。個人的な欲ではなく、社会のために、という高い視点があるから、こういった思考ができるんだと思います。

全員経営

自律・分散・フラットみたいなことはよく言われますが、なかなか大きな組織でそれをやり切るのは難しいですね。小倉社長は「全員経営」という理念を打ち立て、その実現に向けて試行錯誤を続けます。小倉社長はこの当時にしては斬新な理念をこう説明しています。

「全員経営」とは、全社員が同じ経営目的に向かい、同じ目標を持つが、目標を達成するための方策は社員一人ひとりが自分で考えて実行する、つまり社員の自律的な行動に期待するのである。
社員に目標は与えるが、会社側はやり方について命令したり指図したりせず、社員がその成果に責任をもって行動する、というものである。
「全員経営」の精神は、会社の企業文化である。宅急便のSDは、優しく親切な人が多いといってお客様にほめられることが多い。もちろん社員に対する研修は一通りやっているが、サービスは受けるお客の立場に立ち、どうすべきかを判断し実行するというヤマト運輸の企業文化が、社員の体質に染み込んでいるからだと思っている。

企業経営で一番大事なのはどんなカルチャーを作るか、ということを聞くことがよくありますが、その視点でも小倉社長はかなり先を行っているお方だったんだなぁと思います。

日本の会社に足りないもの

いろいろとコピペしたい内容があるのですが、なんとか気持ちを抑えて、最後に小倉社長が語ったアメリカと日本の働き方の違いの話をもって組織についての本日の話をおしまいにしたいと思います。

小倉社長は年功序列という制度について非常にネガティブであると同時に、単純に実績だけで評価するのもバランスを欠くという考え方をします。そのあたりについての小倉社長のコメントを見てみましょう。

具体的には、役職への昇進から年功序列の要素を取り除くこと、実力主義で適材適所を進めることが必要である。
同時にポストのいかんを問わず、企業への貢献度に応じて報酬を決める制度を採用する。評価を表面上の実績でやることには問題がある。なぜならある時点で業績が上がっても、それは前任者の功績かもしれない。
それより人柄の善し悪しを評価の要素に取り入れることの方が、大事だと思う。人柄の善い人を評価することは、長い目でみて企業の発展にプラスになると思っている。

ある一時点での数字を切り取ってそこのポストに(たまたま)いたものを評価する、というよくある実力主義についてその欠点を見抜いているのはすごいですね。”人柄”という評価軸を重視するのも、倫理観というのを経営する上でとても大事にする小倉社長らしい判断軸と思います。

また、日本の雇用形態については、学生野球のようだ、とし、プロ野球的なアメリカの雇用形態との比較をしています。

それによるとアメリカの場合、採用というものは会社が必要とする能力を明示した上で、それを持っている人に労働条件を示し合意すると契約を結ぶ、という構造になっている。その条件を前提に、契約上の能力を発揮できない人とは契約を解除するという考えであくまでも契約が基本。そういった意味でプロ野球に似ていると言います。

一方で、日本は学生野球。入学した体格のいい生徒を勧誘し、入部してから先輩がグランドで技術を教えてる。能力がなくても、3年間なり、4年間なりきちんと在籍したんだから、最後はレギュラーとして出場させてあげようじゃないか、ということになったりするが、それでは強い・勝てるチームにはならない、ということですね。

この日本型の経営は違った意味での全員経営かもしれませんが、小倉社長の掲げるものとは全く違うものです。

今でこそ小倉社長が考えていたようなことを理想的な組織として実現しようとする動きが色々ありますが、昭和のあの時代にすでにこの着想と実行力を持ってヤマト運輸を成長させ続けてきた小倉社長の手腕には只々感服です。

ということで、今日のお話は以上です。

一応大枠では前回、今回2回で大枠はお伝えできたと思いますが、小倉社長の話に出てきた財務的な話を少し深堀りするのと、番外編としての官僚組織との対決の話は今後どこかで取り上げようと思います。

学び・気づき

なかなか学び多き本でした。770円にどんだけのバリューが詰まってるかという話です。それでは、この本からの学び・気づきをまとめてみます。

・経営者が従業員に対してどう真摯に向き合ってきたか、それが新しいチャレンジの時に試される。リスクをとる、やってもうまくいかないかもしれない、そんな状況で一緒に前のめりにやってくれるのは誠実に向き合ってきた社員

・社員が自律的に動く組織を作るためには、お客さんからのありがとう、感謝が一番効果的。

・年功序列、ピラミッド組織は弊害が多い。やるべき仕事がまず定義され、その仕事を実現できる能力がある人と契約する、という欧米式が合理的。ただ、単純にある期の実績だけ見て、実力と判断するのは浅すぎ。人柄・人格も含めた判断をすることで長期的に企業の業績に貢献できる人材の確保と育成ができる。

・お客さんに接する最前線のメンバーがスター、経営者、管理職は脇役、ということを口で言うだけでなく、本気で示すために組織図の書き方から何から色々工夫する、その姿勢が大事。そのために権限移譲も大胆に。

日報

お仕事備忘録。

・コンビニのUXをチェックして資料化(PM)
・アダム(CEO代行)とSyncup (5:30PM) →Pから嬉しい知らせが届いたとのこと、いい感じ
・P案件内部Syncup (7PM) 

明日はEC・ロジスティクスの水曜日。以前取り上げたShopifyのパートナー戦略を学びたいと思います。

マーケティングの月曜日
経営戦略・事業開発の火曜日
EC・ロジスティクスの水曜日
DXの木曜日
グローバル・未来の金曜日
ライフハック・教養の土曜日
エンタメの日曜日

それでは今日もよい一日を。

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