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650社のAIスタートアップひしめくAI立国カナダの国家戦略を知り、日本の将来が心配

おはようございます。ドドルあおけんです。

このnoteでは、月〜金日替りテーマでIT系のビジネストレンドなどをできるだけ噛み砕いてご紹介しています。

今日は実はAIの領域で世界をリードしているのがカナダ、というお話です。なぜシリコンバレーではなくてモントリオールなのか、どうしてそんなに強くなっちゃったのか、その長期的で緻密な国家戦略をざっくりと理解できる回となっています。

AIグローバル・パートナーシップ

先月、経産省からAIに関するグローバル・パートナーシップというプログラムが立ち上がったというプレスリリースがありました。

その内容の一部を抜粋してみます。

我々、オーストラリア、カナダ、フランス、ドイツ、インド、イタリア、日本、メキシコ、ニュージーランド、韓国、シンガポール、スロベニア、イギリス、アメリカ、欧州連合 は、ここに合同で、AI に関するグローバル・パートナーシップ(Global Partnership on AI - GPAI、ジーパイ)を設立する。設立メンバーとして、我々は、OECD による AI 勧告に詳述されているように、人権、基本的自由、そして我々が共有する民主主義の価値観に調和した形で、責任ある、人間を中心とした AI の開発と利用を支持する。
そのため、我々は他の関心を有する国やパートナーとの協働を期待する。(中略)
GPAI は、パリにある OECD による事務局と、モントリオール(カナダ)とパリ(フランス)に所在する 2 つの専門センターによって支援される。

ジーパイです。先進国がだいたい入ってる感じですが、アジア圏からは日本と韓国が参加してて、中国は入っていません。
雰囲気としては、中国 vs ジーパイのAI戦争という感じでしょうか。中国はAIのエリアでは国家主導でいろいろな社会実験ができるのでかなり手強いので、中国に負けないようにジーパイでがんばろう!ということと勝手に思っときます。(ジーパイってなんかいい響きです。)

それで、ここからが本題なのですが、最後のパリとモントリオールの専門センターというところにひっかかりを感じました。シリコンバレーでもなければ、東京でもない。

そういえば、モントリオールはAI研究のメッカと言われていて、シリコンバレーよりも研究開発が盛んということを聞いたことがあったので、少し調べてみたら、日経XTECHの記事に「AIサプライチェーンの整備を急ぐカナダ、周回遅れの日本」という記事を見つけました。

ということで、ここからはカナダがどんな感じでAI立国を進めているのかを学びながら、自分の見識をアップデートしたいと思います。

カナダのAI都市三兄弟

カナダは国家戦略として、トロント、モントリオール、エドモントンの大学や研究機関に世界中から人材を集め、優秀なAI人材を育成する、ということを長年やってきたようです。まずは位置関係から見てみましょう。地図の元ネタはこちらのサイト。

カナダ留学について(Apprez_

トロントとモントリオールは右下のほう、エドモントンは左のほうにあります。都市によってAIの中でもこのタイプのAIに強い、というのがあるようで、深層学習(ディープラーニング)についてはトロントとモントリオール、強化学習(レインフォースメントラーニング)についてはエドモントンが強いんだとか。

強化学習と深層学習

この深層、強化のふたつの学習についてWikiで調べてみましたが、難しくてよくわかりません。一応コピペしておきます。

強化学習(きょうかがくしゅう、英: reinforcement learning)とは、ある環境内におけるエージェントが、現在の状態を観測し、取るべき行動を決定する問題を扱う機械学習の一種。エージェントは行動を選択することで環境から報酬を得る。強化学習は一連の行動を通じて報酬が最も多く得られるような方策(policy)を学習する。環境はマルコフ決定過程として定式化される。

AI囲碁とかの話がでてくるので、ああいう対戦型でお互いの手を読み合うみたいな領域で活躍するAIという理解にしておきます。羽生型と名付けておきます。

ディープラーニング(英: Deep learning)または深層学習(しんそうがくしゅう)とは、多層の人工ニューラルネットワーク(ディープニューラルネットワーク、英: deep neural network; DNN)による機械学習手法である。
21世紀に入って、ヒントンらによる多層ニューラルネットワークの学習の研究の成果、特にオートエンコーダなどによる技術的問題の解決と、インターネット社会による学習データの流通も側面からこれを後押しした。
その結果、音声・画像・自然言語を対象とする諸問題に対し、他の手法を圧倒する高い性能を示し、2010年代に普及した。

たくさんの情報から特徴をとらえて判定するみたいな感じですかね。ちょっと探偵ぽいので任三郎型としておきます。(古畑です)

任三郎型のトロント&モントリオール、羽生型のエドモント

カナダは、AI冬の時代と呼ばれた1990~2000年代も途絶えることなく、AIに投資を続けてきということです。トロント、モントリオール、エドモントンには、深層学習(任三郎型)や強化学習(羽生型)を発展させてきた大学や研究機関がいろいろあり、優れたAI研究者をたくさん育てているということです。以下記事からの抜粋です。

現在のディープラーニングの隆盛は、トロント大学のジェフリー・ヒントン(Geoffrey Hinton)氏がモントリオール大学のヨシュア・ベンジオ(Yoshua Bengio)氏や、ヒントン氏の弟子であるヤン・ルカン(Yann LeCun)氏と2004年からカナダ先端研究機構(CIFAR、Canadian Institute for Advanced Research)で始めたニューラルネットワークの研究プロジェクト「Neural Computation & Adaptive Perception(NCAP)」に端を発する。ヒントン氏が2006年に発表した論文で、ディープラーニングという概念が生まれた。
それ以来、トロントとモントリオールはディープラーニング研究の世界的な中心地だ。

2004年から腐らずにがんばってきてようやくAIの花が開いたということですね。ここで登場するカナダ先端研究機構(CIFAR、Canadian Institute for Advanced Research)のサイトに数字的なサマリがあったのではっておきます。

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AI都市3兄弟には代表的な研究機関があり、国家戦略としてのAI投資はいったんこの先端研究機構(CIFAR)を通して以下の研究機関を中心に支援が行われてます。

・トロント:ベクター研究所
・モントリオール:モントリオール学習アルゴリズム研究所(Montreal Institute for Learning Algorithms、MILA)
・エドモントン:アルバータ機械知能研究所(Alberta Machine Intelligence Institute、AMII)

具体的には、カナダ政府は2017年3月に「汎カナダ人工知能戦略(Pan-Canadian Artificial Intelligence Strategy)を打ち出し、CIFARが上記のベクター研究所、MILA、AMIIの3研究所に対して、1億2500万カナダドルの資金を投じると発表しています。1カナダドルが80円くらいなので、約100億円をAIにぶっこんだ、ということでね。AIなんてのは、何かモノとか建物が必要なものではないので、純粋に優秀な人材がそのお金で囲われることを意味すると思います。

イノベーション・スーパークラスター戦略

さらにカナダ政府は2018年2月に「イノベーション・スーパークラスター戦略(Innovation Superclusters Initiative)」を発表しました。

AIスタートアップを支援する「SCALE.AI」を設立し、小売業や製造業、通信業、運輸業などあらゆる産業に属する企業とAIスタートアップを橋渡しする事業を開始しました。

今どきスーパークラスターというと歌舞伎町のホストクラブっぽいですが、もともとの「房」「集団」「群れ」の意味です。イノベーションを起こすAIの専門家集団・集積地を作ろうということですね。

人材というのはより魅力的な研究環境や報酬があるところへ移っていってしまうので、優秀な研究者が国外に流出しないようにAIスタートアップの起業の支援や、AI人材の活躍の場として国内外から有力企業のAI研究開発(R&D)拠点や事業拠点を誘致しています。記事ではカナダのAIについての国家戦略を次のように説明しています。

AIスーパークラスターは、カナダ企業にとってAI技術やAI人材の供給源、すなわちAIサプライチェーンである。AIサプライチェーンはカナダ企業がデジタル変革を推進するうえで、非常に強力な武器となる。カナダ政府がAI振興を進める狙いは、単にAIスタートアップの育成にあるのではない。カナダ企業のデジタル変革を促進し、国の産業全体を底上げすることにあるのだ。

具体的には以下の3つを結びつけながら、サプライチェーンを築こうとしています。

(1)AI研究を推進する有力大学
(2)有力大学と産業界が連携してAI人材を育成するNPO(非営利団体)のAI研究所
(3)大学やAI研究所が輩出したAI人材による起業を支援するスタートアップアクセラレーター

有力大学でいうと、トロント大学やモントリオール大学などがあり、産学連携のAI研究機関としては、2017年に発足したベクター研究所(Vector Institute)が代表的です。

このベクター研究所は、トロント大学のヒントン氏が主任科学顧問を務めていて、オンタリオ州政府が5000万カナダドル、グーグル欧州アクセンチュア(Accenture)、米ウーバーテクノロジーズ(Uber Technologies)など民間企業30社が8000万ドルの資金を投じて設立されていて、まさにAI領域における産学連携の象徴のような存在です。

さらに、ベクター研究所はAI研究を推進するだけでなく、大学を既に卒業したエンジニアや研究者に対するAI教育も実施しているということです。

この研究所は非営利団体ということになっていますが、そうはいっても最終的にはそこでの研究成果を営利活動に使う目的なので営利のための非営利団体です。

また、AIスタートアップを育成する機関としては、トロント大学に隣接するMaRSディスカバリー・ディストリクト(MaRS Discovery District)や、トロント近郊のマークハムにあるベンチャーラボ(ventureLAB)などがあり、AI研究、AI人材育成、AIスタートアップ育成機関のすべてがトロント周辺で完結する環境が整えられていて、まさにAIのスーパークラスターを実現しています。

トランプさんの政策を利用するしたたかさ

カナダ政府は、大学でAI人材を育てるだけでなく、大学と産業界が連携するNPOベースのAI研究所でもAI人材を育成し、AI人材によるスタートアップ起業の支援にも力を注ぐことでエコシステムを作り上げています。
これによって、一流のAI人材を目指すエンジニアを国内だけでなく、広く世界中から引き寄せることに成功しています。

カナダのシャンパーニュ国際貿易大臣はインドからの留学生について次のように話をしています。

移民政策に対して消極的なトランプ政権が米国で発足した2017年、インドからカナダに来た留学生は前年の7万人から14万人へと倍増した。
カナダの人口はわずか3600万人。我々が世界で戦っていくには、世界中からタレントを引きつける以外にない。

自国の雇用を優先し、海外の人材受け入れに消極的なトランプさんの政策を逆手にとり、積極的に優秀な人材をインドから招き入れるしたたかさはなかなかのもの。こうした留学生がAI人材となり、カナダで起業してイノベーションを促進する、これがカナダ政府の狙いなんですね。

出遅れる日本

モントリオールのエレメントAI(Element AI)が2018年5月に発表したレポート「Canadian AI Ecosystem 2018」によれば、カナダには650社のAIスタートアップが存在し、その数は2017年に比べて28%増加したといいます。1年で28%増はすごいですね。

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上のカオスマップにはそれらのスタートアップのロゴがぎっちり入っていますが、これらの会社がモントリオールやトロントで日々切磋琢磨を繰り返しているわけです。

それに対して、日本はこれからAI人材育成を始める、ということのようで、カナダと比べると何周か遅れている状態にあります。AIは今後のデジタル化の要となる領域です。ここでの出遅れはかなり心配。

昨年78歳のIT担当相として竹本科学技術・IT担当大臣が任命された際、その選出理由が、”スマホでSNS投稿ができる”だったことが話題になりましたが、個々の企業はがんばっているとしても、AIの国家戦略というところでは、脱力感が否めませんね。

引退したら孫さんにIT担当相になってもらったらもう少しよくなると思うのですが。。

ということで、気持ちがネガティブになる前に、最後カナダのAIスタートアップ企業を3つほど紹介して終わりしたいと思います。

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(master.of.code - AIを使った自動応答・会話ソリューション)

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(dynatrace - 法人向けのクラウド最適化ソリューション)

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(coveo - データの統合・分析プラットフォーム)


ということで、本日のお話は以上です。

日報

備忘録として。

・高崎舞い戻りお参り(AM)
・機種変
・PMとシンクアップ(5pm)

(独り言)上半期の邪気を払う最後のお参り。あとは、一歩一歩前進あるのみ。

明日は、ライフハック・教養の土曜日。アウトプットの大切さを学びます。

マーケティングの月曜日
経営戦略・事業開発の火曜日
EC・ロジスティクスの水曜日
DX(デジタル・トランスフォーメーション)の木曜日
グローバル・未来の金曜日
ライフハック・教養の土曜日
エンタメの日曜日


それでは今日もよい一日を。



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