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尊敬する後輩

「え、あいつが亡くなった?…ウソだろ?」


年下、もしくは後輩だけど尊敬する人というのは誰しもいるのではないだろうか?
ぼくは心の底から尊敬している後輩がいる。

後輩に出会ったのは、4年前。あいつは新卒だった。

新卒はOJTで先輩と仕事をしながら仕事を覚えていき、一人前になっていく。よくあるパターンだろう。

「今年入ってきた新卒の中ですごいヤツがいる」

そんな噂を5人から聞いただろうか。
そんな新卒の話は今まで聞いたことがない。よっぽど優秀なのか。

自分は仕事柄、社内システムを新卒全員に教えるので、全員の顔と名前を覚えている。
そんなにできそうな雰囲気のヤツ、いたべっか?

なんとも失礼な話だ。
ほどなくしてあいつのすごさを知ることになる。

「あいつは頭の回転が早くて、新しいことをスポンジのごとく吸収する。茶目っ気を活かしてまわりを巻き込んで、ぐいぐいプロジェクトを進めていくんだよ」

という同僚評。一緒に仕事をしている同僚はベタ誉めだ。

コントロールがむずかしいプロジェクトに抜擢されても、プレッシャーをもろともせずにあいつはガンガン突き進んでいた。

ある日、あいつからPCの不具合について相談された。
たいした不具合ではないので、直しながら雑談。

「外からでもファイルサーバーを見られるようにできないですか?」

ちょうどその頃、オンラインストレージを比較検討していた。

「ちょうど検討してるから、試しに使ってくれる?」

「使いたいです!ありがとうございます!」


使ってもらって3日後。忙しい合間をぬってあいつからメールがきた。

「これすごくいいですね!使いやすいです!」

「よかった!導入にむけて自信になったよ。ありがとう。」

具体的な使い心地や気になった点をヒアリングしたが、どれも的を得ていて、参考になる指摘ばかりだった。

あいつは本当にすごい。

優秀過ぎてすぐ転職するんじゃないか?
そんな余計な心配をするぐらい、優秀であることを肌で感じた。
尊敬できる後輩。

オンラインストレージの全社浸透への突破口として、あいつがいるプロジェクトから試してもらうことにした。

これが功を奏し、全社展開がうまくいった。

「今度おごってくださいよ~」

「いいけど、そっちの方が忙しそうだよな」

「連絡しますから!」

なかなか都合が合わなかった。
1回だけ飲みに行った。

ただ、大人数での飲みだったので、同じ場所にあいつがいた程度。話した記憶はない。

お互い遠い席に座っていたので、ひと言も話すタイミングはなかったが、あいつは楽しそうに飲んでいた。

今度、自分から連絡してみるか。


次の日。

「え、あいつが亡くなった?…ウソだろ?」

事故だった。

突然すぎる。昨日あんなに元気だったじゃないか。

あいつが亡くなった日は、晴れていた。



そこから数週間の記憶はほぼない。社会人になってはじめてスーツ姿で上司の前で泣いたのは覚えている。

あいつとはしっかり話すこともなく、もう会うことはなくなった。

よく聞くフレーズ。

『良いヤツに限って短命』

なんであいつが。早過ぎるだろ。

もっと早く飲みに誘えばよかった。
いまだに後悔している。


色々の事情があり、昨年はじめてあいつのお墓参りに行った。

お墓参りの日はよく晴れた日だった。同僚と一緒に行った墓地は、空気がおいしく、見晴らしの良い場所だった。

「良いところにお墓つくってもらったな」

「本当。景色が良いよねー」

一緒に行った同僚とたわいもない会話。


「あいつ、『こんな楽しい会社はないよ。会社の人にすごく感謝してるんだ』って家族に話してたんだって。」

あいつはどこまで良いやつなんだ。
鼻の奥がツンとした。けど我慢した。

「それはうれしいね」

「うれしいね」

お互いのあいつの思い出を一通り話した。
優秀だった、良いヤツだった話しか出てこない。

「あいつのためにできることって、前を向いて生きていくことだよね」

うん。そうだよな。それしかない。



今日はあいつの3回目の命日。

正直、今でも現実を受け入れてないのかもしれない。

過去2回は命日に話すことすらできなかった。
こうやって文字にすることもなかった。

3年前、心に決めたことがある。

思いついたことはすぐ行動する。

死生観がガラッと変わった。生き急いだかもしれない。

もう後悔を重ねたくない。
重ねない。


そっちの世界はいったいどんなんだい?
俺もそのうち行くけどさ

そんな時までめーいっぱい
悩むこともあるけれど
自分なりに生きてゆくよ

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