「あの」ヒョードルが書いた心理学論文:総合格闘家の倫理観に関する考察
エメリヤーエンコ・ヒョードルといえば、40歳以上ならたいてい耳馴染みのある名前だと思います。日本総合格闘技団体、PRIDEの元王者で、「皇帝」、「60億分の1の男」、「人類最強の男」とも呼ばれた選手です。
引退後、ロシアのスポーツ省特別補佐官として政府の仕事をしていたようですが、最近、現役に復帰。昨年もBellatorの大会でKO勝ちをしています。上に公式の動画があります。
ヒョードル選手の論文
総合格闘技の選手として現役に復帰しただけでなく、他にも新たな活動をしているようです。論文の検索をしていたらたまたま筆頭著者になった総合格闘家の心理を調べた論文が引っかかったので覗いてみたらびっくりしました。論文の先頭に著者としてヒョードル選手の写真が載っており、筆頭著者にもF. V. Emelianenkoがという名前があったのです(ご存じの方も多いと思いますが、ヒョードルが名前、エメリアネンコが名字です)。
今は大学院生
この論文の筆頭著者であるF. V. Emelianenkoは、ベルゴロド州立大学の大学院生。こうやって論文を出版したのを見る限りヒョードル選手は心理学の研究を大学院ではじめ、研究者としての道を(も?)歩みはじめたのでしょう。総合格闘技の世界でトップ中のトップとまで昇りつめたヒョードル選手が、40代半ばで全く違う世界で挑戦をする。その姿に頭が下がります。
論文の内容
この論文では、Emelianenkoたちは総合格闘家の倫理観や礼儀正しさについて検討しました。ロシアにおいて、倫理観の向上は教育面で重要な課題であるものの、格闘技の訓練場面でもそれが体系的になされていないという報告があります。そこで現状を調べるため41人の総合格闘家の倫理観や礼儀正しさを心理学的な観点から検討しました。それにあたり、(1)倫理に関する自尊感情、(2)攻撃的な性格傾向、(3)礼儀正しさについて心理尺度を用いて測定しました。その結果、ロシアの総合格闘家は、これらの3つの測定について、一般的な平均値と比べだいぶ低い値となりました。この結果は、総合格闘技のトレーニング場面における体系的な教育の必要性を強く示唆しています(注1)。
引用文献
・Emelyanenko, F. V., Kondakov, V. L., Kormakova, V. N., & Kopeikina, E. N. (2022). Criteria for the formation of spiritual and moral qualities of the personality of mixed martial arts athletes. Theory and Practice of Physical Culture, (6), 22-24.
(注1)この論文ですが、心理学の研究としてはあまり高く評価できません。まず3つの心理尺度がよくわからない。引用文献もついていないし得点化の手法もわかりません。分析も「平均」より大きいか小さいかだけをまとめた結果だけが出ており、数値そのものはわかりません。その「平均」はおそらく尺度作成時の大規模集団における平均だと思われます。データをくれれば俺が分析するのに、私の大学に来ればもっと丁寧に指導するのにと思ってしまいました。論文のクオリティとしては、ちょっと残念な感じです。
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