時よ、穏やかに

「めがね」という映画を観た。
とある春の穏やかな海。黄昏れにきた人々が砂浜のベンチに何をするでもなく座っている。南の島のペンションの一幕が、なまぬるい風と共にのっぺりと画面に流れ続けていた。

日常からワンテンポ以上遅い時間の流れが心地よかった。桃源郷かと思った。研究室を抜け出して通った喫茶店や大学最後のモラトリアムに過ごした五島の海辺を思い出す。ぼけっと何もするわけでもなく時間がすぎ、全てを手放せる自由な場所。

熱すぎないコーヒーに角砂糖を入れた時、すっと溶けて一体化していく。
完璧な比喩じゃないけど、時間と自分が混ざり合ってマージされていく。
透明になっていく体に充足していくと、心が見えてくる。
カチコチと音鳴らす時計の前で過ごすために、針が止まりそうな穏やかな時間が必要なんだ。



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