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【サイケ映画の系譜①】【廃盤プレミア】「白昼の幻想」('67米)

カリフォルニアに●麻や幻●剤を決めて狂ったような色使いの服を着た、フラワーチルドレンとかヒッピーと呼ばれた非生産的な若者が街角に沢山たむろしていた時代の幻●剤(サイケデリックス)を扱った映画です。

サイケデリックとはよく使われる言葉ですが、現実にはありえないような色彩に彩られた風景が歪んで見えたりする、いわゆる幻覚ですね。幻覚は普通、頭がおかしくなくなった人が見るものですが、40年代にLS●という薬物が偶然発見されて、正常な人間でもこれを服用すればありえない光景が見られるというので、60年代のヒッピーの間で大流行しました。

しかし幻覚で錯乱した若者が自分はカラスになったと勘違いしてビルの屋上から飛び降りたりしたものですから、これはヤバい薬だというので世界中で禁止されております。

しかしなんでヒッピーはそんなことをしたのかというと、これまでの自分の殻を脱ぎ捨てて「本当の自分」度向きあうというか、まあ禅などの宗教的な修行を経てようやく至る悟りの境地に、簡単に達することができると考えたからなんです。実際どうなのかは分かりませんが、建前としてそういうことになっています。なのでL●Dのような幻●剤を「インスタント禅」と言ったりします。

それでこの「白昼の幻想」なんですが、60年代のヒッピーがLS●を飲んで一億光年の彼方にぶっ飛んで行く様子を「興味本位で」「面白おかしく」描いております。

いや本人達は大真面目に撮ったのかもしれないですが、監督がアメリカの新東宝というか、B級映画の帝王ロジャー・コーマンですから、真面目なのか不真面目なのか分からない映画になってます。

それでこれ、主演がピーター・フォンダとデニス・ホッパーで脚本がジャック・ニコルソンなんですよ。そう、この2年後くらいに「イージーライダー」でハリウッド映画に革命を起こすトリオです。

ロジャー・コーマンは50年代から「原子怪獣と裸女」とか「忍者と悪女」とか「X線の眼を持つ男」などのB級映画を量産していたアメリカの新東宝みたいな人なので、根底に興味本位があるのですが、この映画を撮るにあたり、主演俳優と共にコーマンも●SDを服用して宇宙の真理に触れたりしています。結構、勉強熱心です。

映画の冒頭に「これは幻●剤の危険を知らせる作品であり、奨励するものではない」と、とってつけたような警告文が流れるのですが、配給会社がビビって入れたもので、脚本のジャック・ニコルソンや監督の意志ではないということです。

全体は中世の衣装に仮面をつけた男達が意味もなく馬に乗って現れたり、サイケな光線を浴びながら男女がサックスしたり、街角のコインランドリーの洗濯機を見て宇宙を感じたピーター・フォンダが回転する洗濯機を見てワンダフルを連発しながら愛撫したりと、間抜けなシーンが続出します。

この映画が撮られた67年当時の映画技術ではリアルな幻覚の映像化は無理だったみたいなんですが、しかし68年の「2001年宇宙の旅」の別の宇宙にワープするスターゲートの場面はキューブリックなりのLS●の幻覚描写だと言われております。「白昼の幻想」はあそこまでの予算はないですから、ピーター・フォンダが洗濯機を愛撫するのがせいぜいでしたが、これはこれで、L●Dを服用した人間が客観的にはどれほどマヌケか分かり、貴重な映画かもしれません。

このDVDは廃盤で、プレミアというほどではないですが、そこそこの値段で取引されてます。なんと言ってもアメリカン・ニューシネマの傑作「イージーライダー」の3人が関わった映画として、映画史的にはそれなりの意味があるということです。

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