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長谷川和彦「太陽を盗んだ男」アルティメット・スペシャル・エディション

1976年の監督デビュー後、撮った映画は「青春の殺人者」と「太陽を盗んだ男」のたった2本しかない「現役の映画監督」、長谷川和彦の代表作であります。

高校の理科教師・沢田研二が原子力発電所からプルトニウムを盗み出し、自宅のアパートで原爆を製造して日本国政府を脅迫する、日本映画を超越したスケールの大きな話です。

冒頭、頭の逝かれた老右翼が猟銃でバスジャックし、「陛下に会わせろ」と叫んでバスで皇居に突っ込む場面があるのですが、本当に皇居前広場でゲリラロケを敢行したというから度肝を抜かれます。撮影時は役者スタッフ全員が下着と歯ブラシを用意して逮捕に備えたそうです。

沢田研二は盗んだプルトニウムを精製し、放射能に犯されて歯が抜けながら原爆を完成させます。

沢田はプルトニウムを仕込んだダミー原爆を国会議事堂に置き、日本政府に電話をかけて脅迫を開始。

ところがその要求が「プロ野球のナイターを最後まで中継しろ」「ローリングストーンズの日本公演を武道館でやれ」というものなのです。

沢田が交渉相手に指名したのが、皇居に突っ込んだバスジャック犯を取り押さえた山下警部(菅原文太)で、この2人による丁々発止のやり取りで映画は進行します。

プロ野球中継を最後までやれとか、取り止めもない要求しかしない犯人の見当がつかず、捜査は暗礁に乗り上げますが、犯人の第3の要求が「現金5億円を渡せ」でした。沢田研二は原爆を作る費用をサラ金から借金しており、その返済を迫られていたのです。

現金受け渡しなら、必ず犯人と接触するチャンスが生まれると読んだ菅原文太は、犯人逮捕に執念を燃やすのでした。

本作は80年代にビデオになりましたが、これが廃盤になると鑑賞の機会がなくなり、長らくカルト映画となっていた作品です。

5億円の引き渡し時、警部の罠にハマって逃げられないと感じた沢田が、警部に「5億円をビルの屋上からばら撒け」と命令して空から降ってきた現金に群衆が狂乱状態になる中を逃走するなど、脚本(レナード・シュナイダー)が非常に良くできており、本格的なカーチェイスも実現した日本映画史上の傑作と言えます。

沢田研二は、国家を脅迫する力を手に入れたはいいが何をすればいいのか分からない、心に虚無を抱えた孤独な青年を好演。スケールの大きなブラックジョークです。ケースの造りが豪華。再生一回のみ。

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↑プライム・ビデオ「青春の殺人者」(長谷川和彦第一作)


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