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青レンジャー派の人に知ってほしい話

あなたは戦隊モノだと何レンジャー派だろうか?
そして、あなた自身は何レンジャータイプ?

38年前に生まれた私のメジャー戦隊は「ゴレンジャー」であるが、私自身は“赤レンジャーに憧れる黄レンジャー”タイプな気がしている。何となく「赤」はかっこいい主役、「黄」はムードメーカーのお調子者、のように色ごとのイメージがあると思う。

私の専門は古代ローマ史なのだが、世界史かつ古代史となるとどうしても「ヨコモジ覚えられない難しいつまんない」という拒否反応を起こされ、入り口の時点でシャッターを下ろされてしまうことも多い。
そこで今回の記事は、私が愛する初代皇帝アウグストゥスをレンジャーやジャンプ漫画のキャラクターに例えることで「名前だけでも覚えて帰ってもらおう」という試みである。

なるべく多くの人がイメージしやすいであろう存在に例えていこうと思うが、完全に私が生きてきた世界観における例えなのでご了承頂きたい。(異論は認めるが、あくまでも個人の感覚なので“解釈の違い”を楽しんでもらえると嬉しい。)

それではレッツゴー!

古代ローマ史の最強ヒーロー・赤レンジャー「カエサル」

アウグストゥスについて語る時、大前提としてカエサルを紹介しないことには話が始まらない。アウグストゥスが慕った義父であり、彼が初代皇帝たり得る知識や経験のほとんどを授けてくれた師でもある。

古代ローマ史を代表する英雄カエサルは、彼を知る誰もが「赤」レンジャーだと認める男だろう。”どうしても真ん中に来てしまう主役キャラ”である。

ここで各年代を代表するジャンプ漫画のキャラクターに例えて、カエサルという男について見てみよう。

【1980年代】ドラゴンボール▶︎悟空
しょうもない部分もあるなと思いながらも、気付けば協力してしまう憎めないヤツ。周りがこぞって巻き込まれていく台風の目のような存在。

カエサルは落ちぶれた貴族の生まれだったため資産がほとんどなく、借金をしてどうにか活動していた。「貸した金返せ」と取立てに来た人を「出世払いで何倍にもなるからもっと貸した方が得だぞ」と言いくるめ、借金は積み上がるばかり。それでも嫌わず、むしろ期待を抱くからさらに貸すわけで、そんな彼の人間的魅力を伝えるエピソードは数多く残っている。

【2000年代】ワンピース▶︎ルフィ
夢や信念は、どこでも誰にでも恥じることなく口に出す。大風呂敷を広げに広げまくって話題の人物になるタイプ。

戦によってローマの支配地域が広がる一方で、市民の多くが疲弊している内情に危機感を抱いたカエサル。「ローマの栄光を長く継続させるために改革が必要だ!そのためには自分がトップに立つべきだ!!」と、常に大きな声で人々に発信する。そのカリスマ性により市民や軍人からの人気が非常に高かった反面、伝統を重んじる“保守派”からは危険人物として目をつけられてしまう。

【2020年代】鬼滅の刃▶︎炭治郎
自分を攻撃する敵にもナチュラルに懐の深さを見せ、余計イラつかせるという危なっかしさを持つ天然ヒーロー。

カエサルを潰そうとあらゆる策を講じる“保守派”だったが、何度邪魔をされてもカエサルは彼らを責めなかったし、有利な立場になっても罰を与えたり役職から外したりすることはなかった。そうやって何度も許してきた一人が、カエサル最期の言葉として有名な「ブルータス、お前もか!」のブルータス。カエサルの“寛容さ”こそ古代ローマの誇りであり、同時に夢半ばで暗殺される要因にもなったのは皮肉な話である。

ということでカエサルは、ジャンプ漫画では主人公、バンドではボーカルやギター、吹奏楽ではサックスやトランペット、一杯目はとりあえず生、が好きな人におすすめの人物と言えばイメージが伝わるだろうか。

「そりゃあ歴史に名も刻むわな」という、THE赤レンジャーである。

帝国の礎を築いたクレバーな男・青レンジャー「アウグストゥス」

さぁさぁ、それでは私の本命アウグストゥスについて見ていこう。

彼はゴレンジャーで言うと「青」レンジャーである。
ポジションは常に赤レンジャーの隣でありながらも、決して目立とうとはしない。赤が正義感で暴走しようとしたり、想定外の事件が起こって皆がアタフタしている時、冷静沈着かつロジカルに“最適解”を導き出して丸く収める。他人と適度な距離を保ちつつも決して冷たいわけではなく、心に静かな炎を燃やす実は人情派。そんなイメージだろうか。

(ただの青レンジャーの説明なのに、アウグストゥスを想像しながら説明すると熱がこもる。好き。)

カエサルと比較しやすいように、同じ漫画のキャラクターで例えてみる。

【1980年代】ドラゴンボール▶︎(未来から来た)トランクス
自分が活躍することよりも世の中や周りの人が幸せになるよう虎視眈々と計画を立て、時には自己犠牲もいとわない正義漢。

アウグストゥスは生まれつき病弱であるが、決して戦が弱いわけではなかった。しかし自分が活躍する場所は戦場ではないと認識し、戦はアグリッパという親友に任せた。アグリッパは生涯忠実な右腕として、彼の理想実現に向けて多くの戦果をあげた。「強みを持つ人に任せ、信頼関係を結ぶ」能力に長けたアウグストゥスは優秀な側近たちの力を最大限活かして、誰も見た事がない“新しいローマ”を見事に描き、築いたのである。

【2000年代】ワンピース▶︎サンジ
余計なプライドを持たず敵を作らない親しみやすい性格である一方、人一倍周りを見ていて“ここぞ”という時に重要な働きをするキーマン。

カエサルのような人間性が垣間見えるこぼれエピソードはあまり残っていないアウグストゥスだが、数少ない逸話をみると普段は優しく穏やかな性格だったようだ。しかし表に立つと、規範を破った者は側近であろうと容赦無く罰を与えるといった厳しさも見せた。自身の感情よりも全体最適を徹底的に貫く姿勢は“反カエサル派”からも信頼と尊敬を集め、古代ローマ初となる「皇帝」の土台を固めていった。

【2020年代】鬼滅の刃▶︎冨岡義勇
多くを語らずとも内に秘めた芯の強さと深さを感じさせ、受けた恩を忘れない義理堅い男。立場を得ても決して驕らず、自己研鑽し続ける努力家。

アウグストゥスはとても辛抱強い。尊敬する義父カエサルの意思を継ぎながらも、結果を急がす良きタイミングが来るのをじっと待っていた。何かを成し遂げようとした時に「殺されないこと」が最も難しい時代、戦場だけでなく敵は身内にも大勢いる。彼は必要以上に持論を説かず、周りに求められるようになってから少しずつ自身の想いを形にしていった。カエサルの遺言で後継者に指名されていたにも関わらず、彼がトップの座を受け入れたのはカエサルの暗殺から実に17年後のことだった。

ということでアウグストゥスは、漫画では独自の世界観を持つ「ちょっと何考えてるか分からない」イケメンキャラ、バンドではベースやドラム、吹奏楽ではクラリネットやトロンボーン、お酒は多少高くても美味しい年代物、が好きな人にぜひともおすすめしたい。

レンジャーが出会うとエモい歴史が生まれる

いかがだろうか。
古代ローマ史に残る圧倒的英雄カエサルと、彼の意思を引き継ぎながらも異彩を放つ初代ローマ皇帝アウグストゥスについて、何となくイメージを持ってもらえたなら幸いだ。

ぶっちゃけ本記事の知識をもって「私はカエサルよりアウグストゥス派だな〜」とドヤって頂ければ、そこらのローマ好きには充分通用する。
あなたはカエサル派?アウグストゥス派?

ところで私には一つの疑問がある。アウグストゥスは、カエサル同様の「赤」では潰される危険性を感じて「青」を演じたのか。それとも「赤」のカエサルが、あえて自分と違うタイプの「青」であるアウグストゥスを後継者として育てたのだろうか。
答えはきっと永遠に分からない。真実は神のみぞ知るのである。私はこれこそ歴史の面白さだと思っている。

いずれにしても、この2人が同じ時を生きていたことは間違いなく奇跡だ。もし彼らの出会いが10年ズレていたら。もし彼らが出会っていなかったら。歴史は大きく変わっていたに違いない。もちろん歴史にifは無いのだが、ふと想像してみるだけで「一期一会」の面白さを感じさせてくれる。どんなにすごいカリスマでも、一人きりではエモい歴史は生まれない。

自分の“キャラ”が生まれた時代や環境によって相対的に決まるのは、現代を生きる我々も同じだろう。何レンジャーだとしても、カエサルやアウグストゥスのように信念を持って真っ直ぐ生き抜けたなら、きっと幸せだ。

こうなってくると緑・黄・桃の各レンジャーも揃えたくなってきた。しかしこれ以上長くなるとさすがに嫌がられそうなので、別の機会にとっておく。
それでは、私は古代ローマレンジャー探しの旅に出かけるとしよう。


※前回の初記事は知り合いだけでなくたくさんの方に読んで頂き、自分の変だと思っていた部分を面白がってもらえることが分かってすごく嬉しかった。感謝感激。

「歴史はよう分からんけど、アウグストゥスという名前を覚えてしまった」と大好評の初記事、ぜひご覧あれ。

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