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2016

Doubling down on failure/The harsh games in Osaka 2012-2019 より】

2016年

 建設費用の140億円をほぼ寄付金で賄うという前例のない取り組みで計画が進められた吹田の新スタジアムが、この年の春ついに全面お披露目となった。ちょうどその頃、東京五輪への大計たる新国立競技場建設計画は、総費用1600億円の壮大なスケールでお送りする「白紙撤回 -そして再コンペ」という一大巨編で、全米が泣き止むグズグズっぷりを晒していた。まあ前都知事がカバンを使ったモノボケをしたあたりから、すでに呪われた2020年だったのだろう。さておき吹田のスタジアムも構想から完成に至るまでの間、計画が一時頓挫するなどいくつかの危機や困難にぶち当たってきたが、その度に多くの市民や企業に支えられながら、ひとつひとつ着実にハードルを乗り越えてきた。その地道な経過は千駄ヶ谷の拙速なそれとは比ぶべくもない。

 大阪は日帰りを基本としているが、この遠征では空港近くに宿を取って前泊した。新婚旅行以来、大阪では何一つ観光らしいことをしてこなかったこともあり、ベタではあるがギラギラとネオン輝くなんばの街まで足を延ばすことにした。十数年ぶりに訪れた道頓堀は、辺りに様々な言語が飛び交い、大阪というより東アジア共和国といった雰囲気を醸していた。ひと通り街をぶらついた後、行列のできるお好み焼きに食い倒れ、グリコの看板前で慣れない自撮りをして、帰路についた。


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 翌日、いくつもの長い階段を越えてようやく目の辺りにした新しいスタジアムは、初秋の清々しい朝の空気の中で、その美しい輪郭をくっきりと際立たせていた。僕らは隣接する真新しい巨大ショッピングモール内のフードコートで、熱々の「元祖たこ焼き」をはふはふと頬張りながら、その開門を待った。連れはソースのないたこ焼きを前に少々不満げな顔をしたが、僕は「文句は美味しんぼの第77巻を読んでからだ」と跳ね除けた。

 入場時間を迎え、青黒の誇るブランニュー・スタジアムがいよいよ僕らを招き入れた。ミニマルな設えが低コストを感じさせないスマートな印象を与える一方で、ピッチを囲む高い三層のスタンドは4万人規模のスケールと迫力を存分に感じさせた。ピッチの近さを売りにする他のスタジアムにありがちな「スタンドからの死角」もなく、快適な視野でダイナミックなプレーを楽しめる、最高の観戦環境が整えられていた。


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 試合は序盤から激しい打ち合いとなった。最終盤、元祖・国立の怪物のゴールで青赤が突き放すも、残り時間もあとわずかというところで、青黒が同点弾を叩き込んだ。吹田で現地観戦するといつも劇的な幕切れを迎えるが、結果だけを見ればどれもエンパテ、というのがなかなか微妙なところだ。

 ちなみにこのゲームでは、青赤の10番が持ち前の変態的プレーを随所に見せた。自らの決定機にパスを選択するなど要所でチームメートを新喜劇ばりにズッコケさせたが(しかもオフサイドw)、それもまた彼が孤高の天才ゆえと思うことにしている。こんな事を言ったら青赤のサポーターに吊し上げを食らうかもしれないが、もし全盛期の彼が、万全のコンディションで「青黒のユニフォーム」をまとい、「浪速のガチャピン」の隣で毎日プレーできる環境に身を置いていたら、日本代表の歴史は大きく変わっていたかもしれない。そんなNTR的妄想をしながら、夜の万博公園に煌々と輝く日本最高のスタジアムを後にした。

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上記含む、2012から2019年にかけての大阪遠征をシーズンごとに短くまとめたエッセイ集を販売しています。ぜひご利用いただければ幸いです。


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