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「思うより大したことないんだ。」

キッチンから戻ってきて、なんとなくまたベッドに寝転んだ。

昨日寝る前に読んだ、恋愛について説教を垂れる本に書いてあった。
私の大体の過去の恋愛はお粗末で、ただの依存で、今すぐやめるべきだったって。

なんだよ。
マッチングアプリは変な奴しかいないから使うなって言ってきた女友達。結婚相談所は売れ残りがいくところだと書き込んでいたインターネットに住み着いてる男。出会いは引き寄せればいいといってきた胡散臭い手相占い師。

なんだよ、なんなんだよ。みんな。
じゃあ、私はどうしたら正しい恋愛ができるわけ?

スマホを無意味にスクロールし、可愛らしい犬やら猫やらが戯れてる動画を眺める。気づけば呼吸は浅くなり、反比例して思考は深くなる。
画面のかわいらしい動物が、犬か猫かなんて、どうでもよくなった瞬間だった。

頭の中に全ての疑いと、それに追随する怒りがぽんぽんと出てくる。

昨日読んだ本にはこうも書かれていた!
私の過去の恋愛が上手くいかなかった理由が、私の足りないところを浮き彫りにしてるって!

「浮気はされる方が悪いってこと?!」

淡い青色の布団に寝転び、天井を見上げながら吐き捨てる。怒りが湧いてくる。昨日読んだ本のタイトルは、もう、忘れていた。

呼吸が浅くなり、涙が出てくる。
世の中は不平等で、私がどれだけ努力をしても認めてくれない、真っ暗な世界な気がしてしまう。手を強く布団に叩きつける。

昨日読んだ本に当たった。

「いったいなぁ!もう!」

起き上がり、怒りに任せてその本をベットから叩き落とす。
タイトルが見えた。
『正しい恋愛の仕方 これさえ実践すれば、モテモテになれる魔法の本』

少しの間。

こんなに阿呆らしいタイトルだっけ。
途端に怒りが消える。
こんな本が私を暗闇に落としてしまったのか?
こんな本ごときに、私は感情的になってしまったのか?

時計の針の音がする。

視線を部屋に移した。

テーブルの上にある、今朝淹れたコーヒー。
まだ、湯気が立っている。

そういえば、まだ一日は始まったばかりだったな。

コーヒーに手を伸ばし、一口飲み、テーブルに戻した。
スマホの画面をひらけば、ゴールデンレトリーバーがブランコで遊んでいる。

自然と笑みが溢れる。

昨日の夜読んだ本のタイトルは、また忘れた。





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