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ねこ俳句せんせい

「我が輩はねこ的なファンタジーなので俳句がはじめられてみました」
 と、せんせいは前足の爪をひとしきりネチネチした後に、私の方を振り向かれたのです。


右:猫せんせい、左:弟子のギョ子


 その頃のせんせいはまだ戸車付きの引き戸なら猫でも簡単に開けることができるということをご存じなく、戸棚のカリカリを盗み食いすることもなければ、入っちゃだめな部屋の触っちゃ駄目な花瓶をチョイチョイしてみたり、仏壇の上で寝てみたりされることもなかったのですが、私のいる玄関までは自由に行き来されていて、お立ち寄りになる際には必ず水面を舐めてゆかれるのでした。
 せんせいと初めて言葉を交わしたのは、イタズラで金魚鉢の中にカエルの置物が投げ込まれた翌日でした。置物のせいで狭くなった鉢にげんなりして水面近くに浮かんでおりますと、頭上へふいにピンクのぷにぷにが降りてきたものですから私は慌てて深く潜ろうとしたのですが、件の置物が緑色の笑顔でそれを遮るのでした。
 私の命もこれまでか、と思った時、せんせいは何故か手を引っ込められたのです。せんせいは好奇心は旺盛でいらっしゃいましたが手足が濡れることを毛嫌いされるたちで、それが幸いしたのでしょう、そういうことならハイクを学びなさい、と私をガラス越しにジーッと見つめられたのでした。


せんせいと弟子、近影


 こうして私はせんせいと親しくお話しさせていただくようになったのですが、せんせいのハイクに対する昏い情熱をその時はまだ少しも理解していなかったのです。


奥:俳句執事ロボ、リリィ




 あとがき

 キャラを語尾で担保すべく「弟子でし」の押韻を使おうと思ったのに、すっかり忘れて文字入れしてしまったことが悔やまれます……笑
 ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

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