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スペードのAをさがして #2『峰くんはノンセクシャル』紹介

アセクシュアルやノンセクシュアルの要素が登場する作品を紹介していくシリーズ【スペードのAをさがして】、第二弾はノンセクシュアルを取り上げている漫画を紹介したいと思う。

※アセクシュアル・・・他者に対して性的欲求を抱かない傾向にあるセクシュアリティのこと。無性愛と表現されることもある。日本では特に、他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かないアロマンティック・アセクシュアルを指して用いられることが多い。

※ノンセクシュアル・・・他者に対して恋愛感情を抱くが、性的欲求は抱かない傾向にあるセクシュアリティのこと。ノンセクシュアルは日本特有の呼称で、海外では同様のセクシュアリティを指して、ロマンティック・アセクシュアルという呼称が用いられることが多い。

はじめに

今回紹介するのは、伊咲ウタによる漫画『峰くんはノンセクシャル』(2019)である。

この漫画は、当初はコミティアで同人誌として販売されていたが、昨年2020年にSNS上でも公開され、話題となった。現在では、Kindleなどで電子版を購入することができる。全50Pほどの短編作品で、非常に読みやすい長さの作品だ。

SNSで公開された当初は、作中のノンセクシュアルに関する描写を巡って様々な論争が繰り広げられたようだが、同人誌版のあとがきや最後の1Pに書かれている内容もこの作品の重要な部分であるため、ぜひ同人誌版を購入して読むことをおすすめしたい。

あらすじ

物語は、主人公の村井ともえが意中の青年・峰くんに告白する場面からはじまる。

意を決して思いを告げた村井に対して峰くんから返ってきた言葉は、「村井はさ、俺より幸せになれる人がいると思う」の一言。

峰くんに嫌われているのかと思いきや、彼は村井のことが女子の中で一番好きだと言う。彼が村井の告白を受け入れられない理由は、彼自身の性質にあった。

「村井 俺さ バイよりの恋愛感情はあるけど性的欲求のないノンセクシャルなんだ」
「俺はセックスできないしキスもできればしたくない」

(Kindle版 8-9/50)

峰くんは、自分が男女ともに恋愛対象であり、性的欲求を抱かないノンセクシュアルであることを村井に告白する。

村井は峰くんの告白を受け止め、キスやセックスをしないという条件付きで二人は交際を始める。

映画鑑賞、お泊りでのDVD鑑賞会、ショッピング……と普通の恋人らしいイベントを重ねていく二人。その一方で、村井は何が峰くんの逆鱗に触れるのか測りかねていた。

果たして、二人の恋の行方は……?

♠ 注目点

恋人同士になったら、手をつないだり、キスをしたり、セックスしたりするのが当然だと考えてきた村井と、恋愛は心のむすびつきであって、身体的接触が絶対に必要なわけではないと考えている峰くん、という対比的な描かれ方に注目しながら読んでほしい作品である。

精神的なつながりに重きを置く峰くんと、手をつなぐこともできないこの関係は果たして友人関係とどう違うのかと悩む村井の姿を通して、自分の中の恋愛感情や恋愛関係の定義を問い直すきっかけにもなるのではないだろうか。

セクシュアリティの問題に限らず、私たちは大なり小なり、他の人と異なる性質を持っているはずである。『峰くんはノンセクシャル』は、違う者同士が手を取り合って生きるには、どのように折り合いをつけるべきか、何を貫くべきか、人間関係の最も重要な部分を描いている。

もし自分が村井の立場であったら?あるいは峰くんの立場であったら……?そんな風に想像を巡らせながら、この作品を読むことで新たに出会えるものがあるのではないだろうか。

次回予告

次回の記事は、#2.5として、『峰くんはノンセクシャル』について、私の個人的な感想を書いていきたいと思う。作品の結末や、同人誌版のあとがきの内容についても少し触れたいと思っているので、作品を読んでからの閲覧をおすすめしたい。

【お願い】
この記事を収録するマガジン【スペードのAをさがして】では、引き続きアセクシュアルやノンセクシュアルを扱っている作品の紹介をしていく予定です。何かおすすめの作品等あれば、ぜひコメントで教えていただければ幸いです。



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