スペードのAをさがして #3『初恋、カタルシス。』紹介


はじめに

アセクシュアルやノンセクシュアルの要素が登場する作品を紹介していくシリーズ【スペードのAをさがして】、第三弾はノンセクシュアルを取り上げている漫画を紹介したいと思う。

※アセクシュアル・・・他者に対して性的欲求を抱かない傾向にあるセクシュアリティのこと。無性愛と表現されることもある。日本では特に、他者に対して恋愛感情も性的欲求も抱かないアロマンティック・アセクシュアルを指して用いられることが多い。

※ノンセクシュアル・・・他者に対して恋愛感情を抱くが、性的欲求は抱かない傾向にあるセクシュアリティのこと。ノンセクシュアルは日本特有の呼称で、海外では同様のセクシュアリティを指して、ロマンティック・アセクシュアルという呼称が用いられることが多い。

作品情報

今回紹介するのは、鳩川ぬこ『初恋、カタルシス。』(リブレ、2019年)だ。

この漫画は、鳩川先生がイラスト・漫画・小説コミュニティサイト「pixiv」に投稿していた同名の漫画作品を書籍化したものである。ノンセクシュアルの青年とその同僚が過ごす1年が1冊にまとめられている。「pixiv」でも閲覧することが可能だが、書籍版には描き下ろしの短編集・エピローグも収録されているため、気になった方はぜひ書籍版を購入してほしい。

あらすじ

物語は、風邪を引いた青年、一騎のアパートに別れたばかりの元恋人・唐木田が見舞いにやってくる場面から始まる。

「この人に出会うまで、オレは恋なんてできない奴なんだと思ってた」(Kindle版 No.21/ 229)

性的欲求を持たず、ノンセクシュアルを自認する一騎は、唐木田との初恋に自ら区切りをつけた。フラれたにもかかわらず、献身的に看病する唐木田の姿に一騎は戸惑う。そして、物語の時計は巻き戻り、二人の馴れそめが語られていく。

美術教室の講師を務める一騎は、唐木田と職場で知り合い、徐々に親交を深める。恋愛において来るもの拒まずな唐木田は、一騎から向けられる好意に気が付き、積極的に距離を縮めていく。やがて二人は交際を始めるが、好きだからこそ性的な関係を結びたい唐木田と、性的な行為に忌避感を抱く一騎の想いはすれ違い始めてしまう。

終わらせたはずの一騎の初恋は、果たしてどのような結末を辿るのか。

♠注目点

ノンセクシュアルであり、(おそらく)ゲイセクシュアルでもある一騎の葛藤や、切実な苦しみが非常に丁寧に描かれている。恋愛感情には必ず性的な欲求も伴わなくてはいけないのか、ならば、唐木田へのこの想いにどう名前を付けろと言うのか……。一騎の自問自答は、読者の恋愛観を見つめなおすきっかけをもたらすのではないだろうか。そして、そんな一騎の姿を見守る唐木田がどのように彼と向き合っていくのか、唐木田の心情が変化していく過程も、この作品の見どころだ。

次回予告

次回の記事は、#3.5として、『初恋、カタルシス。』について、私の個人的な感想を書いていきたいと思う。作品の結末についても触れたいと思っているので、作品を読んでからの閲覧をおすすめしたい。

【お願い】
この記事を収録するマガジン【スペードのAをさがして】では、引き続きアセクシュアルやノンセクシュアルを扱っている作品の紹介をしていく予定です。何かおすすめの作品等あれば、ぜひコメントで教えていただければ幸いです。


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