動的平衡ダイアローグ 世界観のパラダイムシフト
生命現象の核心を解いた「動的平衡」、 「動的平衡2」に続く、「動的平衡」待望のシリーズ第3弾をご紹介。本書では福岡生命論における新機軸を示している。
小説、建築、文明、芸術、科学など各界をリードする8人の識者と、福岡伸一動的平衡論が共鳴する中でカズオイシグロ氏の登場という事でnoteに書評を残さずにはいられなかった。一つの一つの対談のレベルが高く、読んでいて楽しめた。
カズオイシグロ氏といえば私の一番好きな小説「日の名残り」
そして「私を離さないで」
本書ではカズオイシグロさんとの対談では記憶について、記憶は固定的ではなく時とともに変わっていくこと「まさに動的平衡」が書かれており、この「記憶も常に書き換えられる」という部分において深く感銘を受けた。
先日、拝読させていただいた以下の書籍でも書いたが、人の細胞は数カ月で入れ替わり、どこまでが自分でどこからが違う自分なのかという話を書いた。
普段はタスクが次々に生まれて記憶を回想している暇もなかったのだが、私は17日間、留置場で過ごすことになり房では「事件についての記憶を遡る」作業を刑事さんから指示を受けた。
しかし無実の記憶などあるわけもなく、起訴ありきで進む犯罪者扱いに心をぎゅっと潰されそうになりながら思い返すのはノスタルジーを掻き立てられる幼少期の記憶だった。
私たちの多くは、安全な「気泡」なようなもののなかで守られて育つが、子供はやがていつか大きくなり、現実に向かって歩き出す時が来る。しかし、多くの場合、大人へと成長する過程で失望を覚える。
それは、世界が優しい場所だと信じていたからです。私もそういう気持ちを強く残して50歳を迎えようとしているが今回は流石に考えを改めざるを得ないと思った。
本書は「生命の本質」を鮮やかに喝破し、生命観のパラダイムシフトをもたらした動的平衡が新たに提示する世界のありようについて、われわれに必要な哲学とは何かについて考える内容となっている。
そして著者は生化学分野での動的平衡という事実が広く科学・工学・芸術・宗教等の分野においても普遍的な概念であることをダイアローグにより実証しようと試みている。
私も全く新しい視点なので興味が湧き、それを確かめたいと思う。しかし、著者は対話者の作品や人柄までも熟知しており、動的平衡をその中に見いだした上でダイアローグに臨んでいる。
私はこの後に自分の身の回りの経済や社会現象のなかから、動的平衡らしきものを探し始めることにした。
素晴らしき良書に巡り合えたことに感謝したい。
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