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シン・セカイ b

サン・ジェルマンの足元には、キッズのフットボール。
年長者達の心配を余所に、サン・ジェルマンは、白い歯をみせた。
「3rdダウンで焦らない事だ」

ここは、知られていない人々『ペルディドス』の町。規則などない。ただ、生きて、きちんと死ぬ事だけが使命。サン・ジェルマンを中心に、北ペスプッチ地区の反モニトレオ主義者が集まったコミュニティだ。

モニトレオとは、人間の体内で『氣』を増幅させる医療機器の事。全ての人類が、それを接種することが義務付けられている。
人体に入り込んだモニトレオは、免疫をコントロールできる。何らかの疾病に罹患したとしても、自己治癒力を促進して状態を回復できるようになった。モニトレオ発明以後、人間は不健康という悩みから脱却できた。

ただ、モニトレオは健康面ばかりではなく、個人の行動監視の機能を備わっている。モニトレオは持ち主の居場所だけでなく、考え方も感知できるため、正確な個人情報と、個人の思考も、中央のビハーバと呼ばれる、この世界の全てのシステムを司る名称に送信されるのだった。

そのモニトレオに反発し、それを除去した人々の総称を『ペルディドス』と呼ぶ。彼等は、誕生・成長・死・感情・希求・葛藤といった人間の条件を明示し、また自然回帰を望んでいるのだ。

「息子の居場所はわかったのか?」
サン・ジェルマンは、目元をサングラスで隠しているが、口元を見れば、彼の機嫌がいい事がわかる。

「ティオーネ様から、現地にいるリサ様とカルロ・ダリオ氏にその情報に関する連絡があったとの事」

ジョセフ・カレハは毎日、65個の丸薬を服用している。そうしなければ小人症の彼は、いくつかの合併症を引き起こしてしまうのだった。

「タイミング的には最高だ。ザ・マンの準備もできている。こちらからの呼びかけに、奴は簡単に応じるだろう。俺の名前を出してもいい。リサにそう伝えろ」

「ただ、残念なお知らせがあります」

続く

一日延ばしは時の盗人、明日は明日…… あっ、ありがとうございます!