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百物語


 一時期、怪談実話と銘打ったタイトルの本をよく読んでいた。仕事の一環だったが、雑誌の幽も隈なく読んでいて、その時期の実話怪談の書き手に詳しかった。ただ、怪談実話を信じているかというと、僕は全く信じていない。彼等の事を、真面目に嘘をついている連中だと今でも思っている。ほとんどの場合、怪談というのは白々しい。では、なぜ読んでいたのかというと、本当の怪異に僕は触れたかったのだと思う。嘘ばかりの怪談の中に、なにか本当の事が一つでもあるかもしれないと期待して、一話読んで、嘘だと決めつけて、また期待して一話読むという事をしていた。
 怪談実話というのは、終わり方のパターンがあって「それ以来不思議な事は何も起きていないそうだ」とか「今でも○○さんは、その事を時々思い出すそうだ」とか「○○以来、そこには足を踏み入れていないらしい」という、誰が書いても終わり方は「本当にあった事です」と強調する補足を書く。そういう所が白々しくて好きだった。
 そんな嘘ばっかりの怪談の中でも、キングオブ嘘つきは黒木あるじさんという作家だ。これは誉め言葉で、見事な白々しさだ。新耳袋とかに憧れて怪談収集を始めたような人物だろう。「書いたら死ぬ」という実話を書いて、全く死なないという嘘つきだ。また、それっぽい怖い話を書いていて、時に、どうやって取材したのかも、作中に書いていた記憶が僕にはある。非常に真面目な嘘つきなところも好きなポイントだ。
 けなしている訳ではない。実際に、一書店で彼の著書を一か月で百冊売るという結果も僕は残した。(昔、僕は書店営業をしていた)それは偶々、書店の担当者がノリ気になってくれたから。
 その時の本がこれ↓

 装丁が不気味。もう十五年近くも前の事なので、はっきり憶えていないが、それがきっかけで重版が決まったような記憶が……。(武勇伝)
 とにかく、僕は怪談実話が好きだけど、全く信じていないという話でした。

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