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課金成功に不可欠な オーディエンス・ジャーニー 【イノベーション・リポート】

イノベーション・リポート4回目のテーマはプロモーションとコネクション。読者開発は出会いから深い関係へと進んでいきます

前回の記事に対して「言ってることは正しいが実践できるかが問題」という反応がありました。その通りです。そして、実践するためのヒントもこのリポートには詰まっています

その種明かしは、連載の最後に説明しようと思います。

上手くいくにはマーケティング

読者開発を実現するためにニューヨーク・タイムズ(NYT)がディスカバリーの次に掲げたのが「プロモーション(コンテンツの宣伝)」です。

「宣伝」という言葉を嫌がる記者もいます。「記者たるもの、自分が書いた記事をひけらかすなんてもっての他、記事で書いたことがすべて」という侍のような態度です。

NYTは英メディア「ガーディアン」のソーシャルメディア担当の言葉を引用してその態度を戒めています。

うまくいっている組織の多くは上手にマーケティングしている。やり方が汚いという人もいるが、それが現実だ。

2020年の今になっては、ソーシャルメディアでコンテンツを届けるなんて当たり前のようになっています。ですが、実際にソーシャルを活用できていると胸を晴れるメディアがどれほどあるでしょう?

日米で比較してみましょう。

「炎上が怖い」はSNSを使わない理由にならない

NYTのTwitterリスト「NYT Journalists」にはNYTの記者、編集者、フォトグラファー、プロデューサーらの679アカウントが登録されています。

海外のメディアカンファレンスに登録する際には、個人のソーシャルアカウントの記入欄があり、そこでやり取りするぐらい、記者のソーシャル利用は世界では当たり前のことです。

日本の新聞社の中でデジタル化に積極的な日本経済新聞、朝日新聞、毎日新聞は積極的な施策をとっており、記者のTwitter利用が盛んです。

しかし、いまだに社員にTwitterの使用を制限している新聞社やテレビ局がたくさんあります。「炎上が怖い」という理由も聞きます。

BuzzFeed Japanの編集長時代、常々言ってました。

「炎上には2種類ある。自分が悪い場合と、論争があるテーマに触れる際に敵認定されて燃やされる場合。前者はきちんと謝罪・訂正する。後者は毅然と対応する(かスルーする)」

前者を怖がるなら、可能な限り間違えないように努力すればいいし、後者を怖がるなら、この仕事を辞めたほうがよいでしょう。

「読者の旅」の伴走者になる

ソーシャルはたんに読者にコンテンツを届けるだけの役割にとどまりません。読者はソーシャルや、検索や、プラットフォームなどでコンテンツと出会い、そこから旅が始まります。

オーディエンス・ジャーニーです。

イノベーション・リポートでいう読者開発の「プロモーション」から「コネクション」はこうやって繋がっていきます。

広報会議への寄稿でも書きましたが、ソーシャルアカウント、特に記者個人アカウントが素晴らしいのは、認知からファン化まで、オーディエンス・ジャーニーの伴走者になれることです。

一つの媒体にはいろんな記事が載るため、ある一人の読者にすべての記事を読んでもらうことも、気に入ってもらうこともほぼ不可能です。しかし、記者個人ならそれができる。

古くて新しいニューズレターの威力

だから、ソーシャルアカウントだけではなく、記者個人のニューズレターも威力を発揮します。

「ニューズレターなんて古臭い」と思う人もいるかもしれませんが、世界のメディアでは今、大ブームです。僕は世界中のメディアのお気に入りの記者や気になるトピックのニューズレターを何十と取っています。

日本では、なんといっても日経。記者個人が書く内容の濃いニューズレター「NIKKEI Briefing」 を有料会員向けに増やしており、僕は12通全て登録しています。こうなると、課金の解約なんてもうできません。

TEDを目指してイベント開催

イノベーション・リポートにはソーシャルメディアや検索だけでなく、コンテンツを制作するシステム(CMS)の中に、読者に届けやすい機能を組み込むことを推奨しています。

例えば、記事の中にクイズやアンケートなどを簡単に付加する機能などです。読者がより記事に親しみやすく、シェアしやすくする。BuzzFeedの
CMSにはそういった機能があります。

コメント欄も読者との繋がりを強化します。

書き込みが自動的に並ぶだけだと、攻撃的なコメントが目立ち可能性があります、アルゴリズムや人力で調整すれば、NYTファンの質の高いコメントを読むことができます。

そして、このリポートが読者開発で最後におすすめしているのが、イベントです。こう記しています。

TEDトークが7500ドルのチケットで開催しているようなイベントを、NYTが作れない理由はない。TED幹部はこう言っている。「我々の最大の懸念はNYTのような組織がイベントプログラムを始めることだ」

読者を信じなくて、どうして信じてもらえるのか

炎上が怖いとソーシャルをしない。ひどい言葉がならぶからとコメント欄を閉じる。人が来ないからとイベントを開かない。お金を払ってくれないと課金を始めない。

「どうせ〜だから〜しない」というのは、社会や読者を信じていない態度ではないでしょうか。社会や読者を信じないメディアが、社会や読者から信じてもらえるでしょうか。

連載の1回目で書いたようにイノベーション・リポートの1行目は「私達のジャーナリズムは勝っている」から始まります。自分たちの力を信じ、読者を信じる。そうして始めた改革が読者に支持され、V字回復に繋がりました。

今回のまとめ

・上手くいくにはマーケティング
・「炎上が怖い」はソーシャルを使わない理由にならない
・「読者の旅」の伴走者になる
・古くて新しいニューズレターの威力
・TEDを目指してイベント開催
・読者を信じなくて、どうして信じてもらえるのか

次回からはイノベーション・リポートの最終章「編集局の強化」です。





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