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「報道に信頼を取り戻す提言」に現役記者ら100人超が署名 組織の壁を超えて求めるあるべき姿とは

報道のあるべき姿とは何か。新聞記者と東京高検検事長の「賭け麻雀」事件を受けて、現役・元記者やメディア研究者らが実名で声をあげました。「ジャーナリズム信頼回復のための提言」をまとめて公開し、日本新聞加盟社に送付。7月18日夜にはオンラインで公開シンポジウムを開催します。

組織の壁を超えて抜本的な改革を提言

組織の壁を超え、現場の声も交えた改善への動きは、これまでなかったものです。提言書には発起人6人と、賛同人135人の名前が連なっています。賛同者をさらに募っており、その入力フォームも公開しています。

提言は今回の賭け麻雀が単独の問題ではなく、日本メディアの職業文化に根ざしていると指摘し、抜本的な改革を求めています。

問題視されている職業文化とは何か。

「オフレコ取材」偏重が生む5つの問題

記者が関係者に水面下で関係者に近づいたり、閉ざされた記者クラブ内の懇談で共有されたりして得た情報を匿名で報じる「オフレコ取材」が重視され、評価される。

提言書はそういう現状が5つの問題につながっていると指摘しています。

権力との癒着・同質化
記者会見の形骸化・情報公開制度の活用軽視
組織の多様性の欠如
市民への説明不足
社会的に重要なテーマの取りこぼし

若手や女性が目立つ提言への賛同

発起人の一人となった朝日新聞記者で新聞労連委員長の南彰さんによると、提言書に名前を載せた賛同人とネットでの募集を含め、「新聞協会会員社の記者らだけで100人を超える賛同が集まっている」といいます。

特に若手や女性が多く、次のような声が寄せられたそうです。

「社会の常識とメディアの慣行が乖離し、信頼を失っている。このままでは存在意義を失う」
「朝から晩まで取材するのが記者の勲章と思って頑張ってきたが、体力も思考力も奪う。このままでは個人もメディアも持たない」

筆者(古田)はニュースメディア業界に関わる人たちが個人単位で参加・交流する「Online News Association」の日本支部オーガナイザーで、個人としても全国のメディア関係者と勉強会を開いています。こういった組織のあり方や働き方への不満は、あちこちから聞こえてきます。

たんに長時間労働が辛いという話ではありません。それだけ頑張っていても、根本的に自分たちが信頼されていないことへの危機感があります。

データとしてもそれは現れています。

記者と読者の認識に世界一の落差

ロイタージャーナリズム研究所が世界各国のメディア状況を調査報告するデジタルニュースリポート2019年版。「ニュースメディアは権力を監視しているか」と各国の市民とジャーナリストに聞いたところ、監視していると答えた市民が最も少なく、ジャーナリストが最も多かった国は日本でした。

日本の記者は世界で一番、自分たちは権力監視していると思っており、読者は世界で一番そう思っていないという衝撃のデータです。

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多様性の欠如に繋がる長時間労働とセクハラ

女性からの賛同が目立つのも、働き方の問題が関係しています。提言の「組織の多様性の欠如」の項目にはこう書いています。

早朝夜間の自宅訪問、および公人を囲んだ飲食などを共にする「懇談」形式での取材の常態化が、長時間労働やセクシュアルハラスメントの温床となってはいないか。また、日本人男性会社員記者中心のムラ社会的取材体制を固定化し、視点の多様性を阻害していないか。

近年、新聞社やテレビ局の新入社員の男女比率は改善してきました。ところが、ここで指摘されている水面下の取材が多い政治部や社会部の当局担当者は、今も男性が多く、幹部の多くはそれらの持ち場の経験者です。

結果として、意思決定をするのはベテランの男性中心となり、組織の多様性は欠如し、報道のあり方も多様性が欠如します。

そして、今回の問題も含め、取材現場はいかなる原則や手法で情報を得ているのかの市民への説明不足は、信頼感の喪失に繋がる。情報源が新聞やテレビや雑誌やラジオに限られていた時代とは違う。新聞やテレビも検証される時代だ。

では、これらの問題をどのように改善していくべきか。6つの方針が提言されている。重要な部分なので、そのまま引用します。

開かれたジャーナリズムを目指す6つの提言

報道機関は権力と一線を画し、一丸となって、あらゆる公的機関にさらなる情報公開の徹底を求める。具体的には、市民の知る権利の保障の一環として開かれている記者会見など、公の場で責任ある発言をするよう求め、公文書の保存と公開の徹底化を図るよう要請する。市民やフリーランス記者に開かれ、外部によって検証可能な報道を増やすべく、組織の壁を超えて改善を目指す。
各報道機関は、社会からの信頼を取り戻すため、取材・編集手法に関する報道倫理のガイドラインを制定し、公開する。その際、記者が萎縮して裏取り取材を控えたり、調査報道の企画を躊躇したりしないよう、社会的な信頼と困難な取材を両立できるようにしっかり説明を尽くす。また、組織の不正をただすために声を上げた内部通報者や情報提供者が決して不利益を被らない社会の実現を目指す。
各報道機関は、社会から真に要請されているジャーナリズムの実現のために、当局取材に集中している現状の人員配置、およびその他取材全般に関わるリソースの配分を見直す。
記者は、取材源を匿名にする場合は、匿名使用の必要性について上記ガイドラインを参照する。とくに、権力者を安易に匿名化する一方、立場の弱い市民らには実名を求めるような二重基準は認められないことに十分留意する。
現在批判されている取材慣行は、長時間労働の常態化につながっている。この労働環境は、日本人男性中心の均質的な企業文化から生まれ、女性をはじめ多様な立場の人たちの活躍を妨げてきた。こうした反省の上に立ち、報道機関はもとより、メディア産業全体が、様々な属性や経歴の人を起用し、多様性ある言論・表現空間の実現を目指す。
これらの施策について、過去の報道の検証も踏まえた記者教育ならびに多様性を尊重する倫理研修を強化すると共に、読者・視聴者や外部識者との意見交換の場を増やすことによって報道機関の説明責任を果たす。

課題意識は当事者たちの間に広がっている

筆者も当初、この提言案の議論に加わりました。記者会見や情報公開のさらなる活用と制度改善を盛り込みたいと強く訴えました。

新型コロナウイルスの問題でもわかる通り、そもそも政府や自治体などからの情報提供のあり方に問題があり、いまだに紙やPDF形式の情報提供や、正式発表前の不透明で不必要な報道機関への情報先だし(いわゆる「リーク」)が蔓延しています。ネットメディアやフリーランスの記者が情報にアクセスしづらい状況もほとんど変わっていません。

この機会に取材だけでなく、情報提供のあり方も変えていくことが、報道業界だけでなく、社会全体にとってプラスになる道だと考えています。

公文書の改竄や廃棄などの問題からもわかる通り、政府や官公庁は情報提供に消極的です。

現状では、表の取材だけではなく、様々な手法で情報源に近づく必要があるのは個人的に理解ができるし、自分もそうしてきました。その点で異論もあったために、今回の提言書の発起人・賛同人には最終的に入っていません。

ただ、提言書の最後の6つのポイントには完全に同意します。

提言書が完成していくまでに、30人を超える記者や元記者、メディア研究者らと議論しましたが、そのほぼ全員が提言書が指摘する問題点や改善へ向けた方向性には概ね同意していました。少なくとも、現状に課題があるという点では一致していたと感じています。

倫理や行動をどう見直すのか

賭け麻雀に社員が参加していた朝日新聞と産経新聞は、それぞれ問題を検証する記事を出しました。朝日新聞は「報道の公正性や独立性に疑念を生じさせた」産経新聞は「新聞記者の取材活動に不透明感を与えてしまった」と共に謝罪しました。

朝日新聞は「記者行動基準を見直す」、産経新聞は「記者倫理や行動規範を徹底させる」と述べていますが、その内容はまだ明らかではありません。

発起人らが18日午後8時からオンラインで開かれる公開シンポジウムでは、登壇する10人中6人が女性です。筆者も提言書の議論に加わった一人であり、シンポにも参加します。

組織の壁を超えた開かれたシンポを改善のスタートに

ジャーナリズムは世界中で試練の時を迎えています。インターネットによって情報の流通が多様化した副作用として、寡占市場だった報道業界の生態系は不安定となり、新聞の廃刊やネットメディアも含む記者のリストラが広がっています。

再生への鍵となるのが「信頼」です。信頼がなければ読者・視聴者はついてこないし、影響力は衰え、結果として収入も細っていきます。

世界中のメディアが経営者や編集局長クラスも含め、いかにして信頼を獲得し、民主主義社会に貢献していくかを議論しているます。日本はこの問題と提言をきっかけに議論を広げようと、草の根で運動が始まったばかり。

提言書への賛同を求めるフォームでは、新聞協会加盟社の社員だけではなく、ネットメディアやフリーランス、メディア関係者以外の声も集めています。必要なのは、新聞協会加盟社の内側で閉じるのではなく、開かれた議論です。それが信頼にも繋がります。

Yahooニュースへの投稿記事に加筆・編集しました)



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ジャーナリスト / メディアコラボ代表 朝日新聞記者からBuzzFeed Japan創刊編集長を経て独立。「Journalism for better X」を目指し、報道やメディアや社会課題を解決する活動をサポートしてます。

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