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「読者開発」しないと、良いコンテンツも届かない 【イノベーション・リポート】

前回の「ときには本当に『必読』なものがある」で、ニューヨーク・タイムズ(NYT)がまとめた「イノベーション・リポート」が重要な理由を解説したところ、大きな反響がありました。ありがとうございます。

今回はリポートの中身に入っていきます。が、その前に前回の記事に対して寄せられたこんな質問に答えます。

「社会の変化は激しいのに、なぜ6年も前のレポートを参考にするの?」

デジタル戦略の本質が集約されている

僕はBuzzFeed Japanの編集長時代から常々、「デジタル時代には3つの戦略が必要だ」と言ってきました。

1. 何をどう作るかの「コンテンツ戦略」
2. 誰にどう届けるかの「ディストリビューション(配信)戦略」
3. ユーザー行動にどう繋がるかの「エンゲージメント(関与)戦略」

この考えはイノベーション・リポートから基礎を学び、BuzzFeed Japanでのメディア運営を通じて確立していったものです。

「良いコンテンツを作る」だけではデジタルで戦えない

新聞記者時代は「良いコンテンツを作ればいい」と思っていました。しかし、デジタル時代にはそれを届けること、そこから生み出される効果を考える必要があります。

イノベーション・リポートでは、英メディア「ガーディアン」編集長がこう言っています。

紙媒体の出身者は紙面に掲載されれば、読者に届くということに慣れている。デジタルジャーナリストは、まったく違う。自分で読者を見つけにいかなければならない。読者が自分で読みに来てはくれない。そう悟ることは大きな変化だった

まさに1回目に書いた「ジャーナリズムで勝っている。それを届ける部分で負けている」というNYTの言葉通りです。

あれから6年。動画メディアが急成長し、ソーシャルメディアの流行り廃りなど変化は様々ありますが、「どう作り、どう届け、どう刺さるか」という本質は何も変わりません

そして、日本のメディアでイノベーション・リポートに書かれている様々な戦略を実行に移せているメディアはまだまだごく少数です。だからこそ、今もこのリポートに学ぶ価値があります。

最重要の概念「読者開発」は日本では未発達

どうやってコンテンツをユーザーに届け、深く刺さるか。そこで重要になるのが「Audience Development(読者開発)」という概念です。

リポートでは、導入部に続く第1章で取り上げられています。

2000年代からネットメディアに携わってきたスマートニュースフェローの藤村厚夫さんの記事によると、「2005年に提携交渉を行った米メディア企業でも、すでにそのような所管部署があった」そうです。

すでに新しい概念ではないですが、日本のメディアではいまだに専門部署や役職がないところがほとんどです。この役割の経験者が少なく、採用も難しい。詳しく解説します。

初回→リピート→登録→購読→ロイヤルユーザー

イノベーション・リポートに掲載されているこの図が全てを示しています。NYTを読んだことがない人にコンテンツを届け、興味を持ってもらい、リピーターから読者登録→課金購読へと繋げ、熱心な読者になってもらう

マーケティングの世界で言う「カスタマー・ジャーニー」です。

そのために何が必要か。2014年までのNYTは「Quality Journalism(質の高いジャーナリズム)」があるから、読者が勝手にNYTを読みに来て、登録して購読して熱心な読者になってくれるかのようにふるまい、読者の状況にあわせた戦略・戦術に欠けていました。

こんな言葉が引用されています。

NYTでは記者や編集者は記事を出稿したら仕事は終わり。ハフィントンポストでは、記事を出稿したところから始まる

コンテンツをどう届け、どう深く刺していくか。イノベーション・リポートは「読者開発の責任者を採用すべきだ。編集局で働きながら、ビジネス部門の協力を得る役職として」と指摘しています。

発見し、プロモーションし、繋ぐ

では、「読者開発」の役割はなんでしょう。イノベーション・リポートは次の3つの節に分けて説明しています。

Discovery
Promotion
Connection

この内容が面白い。実際にNYTで実験してみた内容が赤裸々に書かれています。メチャクチャ参考になるのに、これらの施策をすべて実行に移しているメディアはまだ日本では見たことがありません。

今回のまとめ

・デジタル時代には3つの戦略が必要
・「作る、届ける、刺さる」
・最重要の概念が「読者開発」
・カスタマージャーニーを完成させる
・Discovery – Promotion – Connection

具体的な中身の説明は次回に。


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