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エッセイ 小生、夢を語る

今日は私の夢を語るとしよう。

え?アナタに夢とかあったのですか?と聞くのは無粋である。

確かに、小学校時代にやっていた野球ではキャプテンというなかなかにめんどくさい肩書きを背負うも、実際は監督に怒られてばかりいたせいで、どうやったら監督に怒られずに済むかといったことしか考えずに野球をしていた私が夢などあるものか馬鹿野郎。

小学校の卒アルでは、将来の夢は矮小な世間体を気にして、「プロ野球選手」と書いておいた。しかし本当は、監督の罵詈雑言に苦しんだ私のような者を救うべく、牧師になりたかった。これが小学校時代に抱いていた将来の夢である。

しかし、牢獄に入る最後の猶予期間である大学時代を通して私は、予想を遥かに上回るほど内なる思考を開拓することができた。
そこで、気づいたのだ。世界はまだまだ広いと。

原付で歩行道侵入、リア充定義論争、女性関係御前会議。あらゆる人間関係の暴風雨を掻い潜った私は内なる思考を将来有能な人材になるための布石として大いに開花させる可能性があるのではないかと考えているつもりである。

※「可能性があるのではないかと考えているつもりである」という言い方は、「考えられる」と略すことが可能な現世に存在する婉曲表現の中の奥義である。レポート課題で、あと20文字足りねえよ!と喘ぐ友人がいたら、上の表現を伝授したらよい。ちなみにレポートの評価までは言及しない。

長々と書いたが、無罪モラトリアムを通して、私が編み出した将来の夢は以下の三つである。

①詩人
②農家
③寺子屋経営

以上である。

順を追って説明しよう。
まず、詩人である。
これは就活情報サイト「マイナビ」にはなぜか書かれていないが、モラトリアムから抜け出せない学生には人気ナンバーワンの職業である。ただ業界研究・OB訪問ができない職業である以上、存在しないのではないかと疑われているが、努力次第では可能なものである。

余談であるが、「車輪の下」を書いた作家ヘルマン・ヘッセは全国の猛者共をモラトリアムに誘う名言「詩人になるか、でなければ何にもなりたくない」を残している。

私も、現在詩を創作中だ。
ちなみに昨日創った詩は、彼女からのメールを待つ彼氏の様子を描くものになるはずだったが、実際そんな経験をしたことが無かったので、カップヌードルを沸かす三分前の心情に描きかえってしまった。周りからの評価は気にしない。

二つ目は農家である。
マルクス主義者ではないし、マルクス・ガブリエルにも触発されたわけでもないが、私はこう見えて現代の資本主義の過剰さに辟易している人間なのである。アメリカなどで主流の成果主義を疑いも無しに日本で転用して、「結果を出せないヤツはクズだ」みたいな自己啓発本をドヤ顔で書く経営者が大の苦手だ。そんなわけだから、競争社会から最も遠そうな農家を将来の夢の一つに設定した。

農家のこと何もわかっていない?
当たり前でしょう。マイナビに載っていないのだから。

最後は寺子屋経営である。
私は歴史を動かす偉人を輩出する教育機関を創りたい。教員なればいいじゃないのと言われそうだが、私は陰と陽を二分する箱庭のようなクラス制度には嫌な思い出しかない。ボッチ弁当がしにくいからだ。無理矢理にでも昼食を共にする友人を探さなければならなかった。あれは実を言うとめんどくさい。

小中高は陰と陽に分かれやすいが、大学では「淫と酔う」になる。新入生諸君、猥談と清談の分別は付けた方が良いぞ。

なぜ教育機関を創りたいかと言うと、微妙な立ち位置で有名になりたいという目論見があるからだ。
私は、テレビに出たい目立ちたがり屋にはなりたくないが、イイ感じに噂をされたい人間にはなりたいのだ。この気持ちが分かるだろうか。スポ根漫画で言うと、師匠的キャラである。

例えば、

「え?あの人ってあそこの塾の出身なの?」

「あの人も同じだよ」

「あ!もしかして〇〇さんの教え子じゃない!」

とヒソヒソ噂されたい。
うむ、悪くないではないか。


しまいには、数々の著名人を輩出する教育者として自己啓発本を書きたい。(アナタ、さっき自己啓発本は嫌いと言っていたような?)

テレビ特集も組まれ、著名人を指差しながら、「彼とは一週間前には会いましたよ。元気そうでしたね、アハハハハ」と現代社会にマウントを取りたい。

お正月はOB会と称して、「諸君、今年も社会に役立つ人間たれ!」と激励を送る。
昨年最も活躍した教え子には、ペルシャ猫を顕彰として送るイベントを開催する。

しかし、このように広く認知されるのはいいが、教える現場としての塾は狭くてよいのだ。なぜなら、寺子屋だからだ。
祖父の家にある古文書のようなテキストを持ちながら、優雅に授業をする。

1人態度が悪い子がいても、「アハハハハ、彼は大物になるでしょうね」と余裕の笑みを浮かべる。


以上、三つの夢を語った。
どれも現実味がないが、語るのはタダである。

就職活動も実はこの三つで展開されている。
内情までは言わないが、このつながりは確かである。

え?就職活動に失敗したら?

そりゃ、無罪モラトリアムでしょうよ。

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