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誰かの想いを待つ余白②

私の実家をモチーフにした作品が展示されている反対側の壁面には、人物のシルエットとその中に別の風景が描かれた作品が展示されていました。

「風土(風を含む土)の肖像 #1」
「風土(風を含む土)の肖像 #2」
「風土(風を含む土)の肖像 #3」
「風土(風を含む土)の肖像 #4」

「風土(風を含む土)の肖像 #1,2,3,4」
2023 Oil on canvas
福島に暮らし、風や土に含まれる物語りを聞こうとする印象深い4名。
その立ち姿をシルエットに、その人が語ってくれた物語りをシルエットの内側に描いた。

『化石としての風/復興としての土/祈りとしての風土』作品リストより

震災後、加茂くんは双葉郡に取材のために通ったり滞在制作をしているうちに、たくさんの方と知り合うことになったそうです。
こちらの連作も加茂くんが実際に会って話したことがある、福島に住む人々がモデルになっているそうで、彼らとのコミュニケーションの中で知りえたそれぞれのリアルな物語がそのシルエットの内側に描かれているという、多層構造になっている作品でした。

「風土(風を含む土)の肖像 #2」近景

展覧会の告知ビジュアルにもなっていたこの
「風土(風を含む土)の肖像 #2」
という作品は、富岡町に住む松村直登さんがモデルとなっているそうです。
松村さんは震災後、警戒区域となった富岡町に留まり、犬や猫、牛など動物の保護活動をされていた方で、その生き方に感銘を受けた世界中の方から取材をされている、富岡町の有名人でもあります。
加茂くんも松村さんから多くのインスピレーションを受けているそうです。
(話を聞いていると、松村さんは加茂くんのミューズなのではないか?と感じました)
松村さんは今、富岡町の田んぼでお米作りをされているそうで、そのシルエットの中にも美しい水田が強い筆致で描かれていました。

人物シルエットの背景に描かれているのは夜の森の桜並木ですが、花も枝も落ち、冬の景色であることが分かります。
非常に淡い色彩、あっさりとした筆致で描かれているこの冬景色とは対照的に、人物のシルエットはその地面にしっかりと足をつけて堂々と佇んでいます。
そのシルエット内には、すっきりとした青い空が水が張られた水田に鏡のように映る様子や、整然と並んだまっすぐに伸びる稲のひとつひとつが強い色彩と厚いマチエールで描かれています。
外側の少し寂し気な印象の風景とは対照的に、人物の内側に広がるキラキラとした明るい光景が、松村さんの意志の強さを表現しているように私には感じられました。

「風土(風を含む土)の肖像 #1」近景

他の3作品も似た構造で描かれていて、震災後の町に生きる人々のリアリティがその内側の風景や、しっかりと佇むシルエットとして強く表現されており、どの作品からも希望のような明るさを感じられました。
それは、加茂くんが実際にこの地の人々とコミュニケーションをとる中で感じた人間の生きる力という光のようなものなのかもしれません。

加茂くんが人々と出会い、対話を重ね、相手の本質的な部分を発見して絵に描き完成させるまでの膨大な時間を想像し、まるでドキュメンタリー映像を見ているような、とてもドラマチックな表現にも感じました。

誰かの想いを待つ余白③へ続きます。


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