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たからものnote

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2021年6月の記事一覧

心の温もりは消しゴムだって消せやしない

たった2両しかないディーゼル列車が、けたたましい音を立てながら無人のホームに滑り込む。もうすっかり日も暮れてしまっている。 ホームに降り立つと、心地良い柔らかな風が頬を撫で、すっかり夏色に変わっている優しい緑色の匂いが出迎えてくれる。久しぶりの故郷だ。 誰も座っていないベンチの横には、ポツンと電灯が灯っている。寂しく灯る電灯の周りには、無数の蛾たちがヒラヒラと無表情で飛んでいる。 列車からは僕を含め3人の乗客が降りたが、僕だけは駅の出口へ向かわない。そのままホームの最後方

お義母さんと呼ぶわけは

あの日、黙って家を出た。 握っていたのは、実家の両親からもらった封筒に入った1万円だった。 2階から、足音を立てずにそっと階段を下りて、静かに静かに玄関の外に出た。 台所の引き戸は締まっていて、中ではおかあさんと、お姉ちゃんが夕食の 支度をしていた。 あの台所から漏れる光をみると、あの台所から漏れ聞こえる声を聞くと、 息が苦しくなった。 いつも深呼吸して、あの引き戸を開けていたけど。 開けることを選ばなくてもいいんじゃないか。 もう、開けなくてもいいんじゃな

微笑みが生まれるところ

長男は気管切開していて、声が出せない。 でも今朝はにこにこしながら、声を出して笑おうとしていた。 切開してなければ「きゃっきゃっ」と笑っているような様子だった。 こんなに陽気な様子を見ることが出来て本当にありがたい。 長男の声が出ない選択をしたのは私だった。 6年前、インフルの重篤化でICUに入り、死に向かう激しい流れに流されそうになっていた時。 血液の成分バランスが崩れて用をなさなくなったと。「敗血症性ショック」という状態になった。薬が効かない状態になり、「中心静脈カテ

愛をこめて花束を

誰かに贈り物をするのが好きだ。 記念日に、お祝いに、久しぶりに会う友人に。 何が良いだろうか、喜んでくれるだろうか、使ってくれるだろうか、邪魔にならないだろうか、そうやって長い時間考え、あれこれと悩み、選んでいる時間が好きだ。 そしていつも「どうかこの気持ちが少しでも相手に伝わりますように」と願いを込める。 この祈りにも似た願いは、私の後悔と懺悔から生まれている。 話は私が12歳の頃にさかのぼる。 小学生だった私は、放送委員長だった。 お昼の放送や運動会のアナウンスを