第49回衆議院総選挙についてのふわっとした私見

 10月31日に行われた衆議院総選挙の結果が出た。自民党は場合によっては単独過半数すら危うい大敗と予想されていた下馬評とはことなり、261議席と選挙前から15減らすだけで単独で絶対安定多数を維持することと成った。
 自民党以外の議席予想についても朝日新聞以外のマスコミは大きく外している。立憲民主と共産は事前の予想で議席増が予想されていたにもかかわらず、蓋を開けてみると減少という少々驚くべき結果と成った。また維新の躍進についてはあたっていたものの、事前の予測以上の結果と成っている。
 では具体的に主な政党について見ていこう。

 まず自民党についてだが、「勝利」と言ってもまあそれほど違和感の無い結果であると言える。30議席~40議席以上減らせば即政局という観測もあったが、実際は15議席減。これは執行部や支持者にとっては許容範囲内であり、岸田降ろしの動きが顕在化することは無いだろう。ただいくつか懸念すべき材料もある。今回の衆議院選挙は、不人気とされた菅義偉前内閣総理大臣が辞職して、新たに岸田総理が就任した直後に行われた総選挙である。にもかかわらず議席を減らしている。いくら事前の予想と比べれば善戦したとはいえ、勢力が弱まった事実は真摯に受け止めるべきだろう。また現職の幹事長(甘利明)が小選挙区で落選するという初めての事態も政権に対するマイナス材料となりうる。甘利氏は汚職についての疑いがかかっており、今回落選したことで再度その疑惑などについての議論が再熱する可能性もないではない。また現職の幹部というわけではないが、東京選挙区では石原伸晃元幹事長や熊本選挙区で野田毅氏のような大物議員が落選したことも気がかりだ。
 公明党は創価学会という極めて硬い支持基盤を持つだけあって、今回も安定的な選挙を進め3議席を増加させている。与党全体では12議席の減少にとどまった。

 次に野党側についてだが明暗がわかれた。まず立憲民主党についてだが、前回並の議席を獲得出来たならともかく、減らすという体たらく。しかも野党共闘をし、本来ならば相容れない共産党と組んでまで選挙に臨んだのにも関わらずだ。チャンスを全く活かせなかったと言わざるを得ない。議会での発言力を落とすのは確実だと思われる。自民党と同じように党の大物や知名度の高い議員が小選挙区で当選できず復活(小沢一郎)したり、完全に落選したり(辻元清美)など自民党に負けず劣らず手痛い敗北を喫した所もある。また代表の枝野幸男氏も自民党との一騎打ちでかろうじて当選という危うい勝利だった。ただ引き続き野党第一党の座にはとどまった。
 共産党も立憲民主党同様事前の予想とは打って変わって議席を減らし敗北した。「社共共闘(立民との協力)」して選挙に挑んだが、結果は振るわず、小選挙区では沖縄を除いて全員が落選の憂き目にあっている。
 国民民主党は事前の予想だと議席を維持するのが精一杯、もしくは減少させるとのことだったが、結果的には3議席増加さらに小選挙区から出馬した前職議員は全員当選という嬉しい誤算となった。
 れいわ新選組も事前の予想は取れて1議席というものだったが、実際は3議席となり、党代表の山本太郎氏も東京比例で当選し、参議院議員を辞任してから数年ぶりに国会に復帰を成し遂げることとなった。

 そして今回一番目を引くのが、いわゆる「第三極」に位置する日本維新の会だ。事前から躍進が予想されてはいたが、41議席獲得と議席を4倍近くに増やす大勝利と成った。大阪選挙区では立候補者全員が当選、兵庫でも小選挙区で一人当選し、比例では25議席と公明党をも上回る議席を獲得するなどの快挙を達成している。また維新が議席を伸ばしたことで改憲勢力が引き続き特別多数(3分の2)を維持することに成ったのも大きい(ただし改憲勢力とは言っても公明党は比較的慎重な立場であるし、第一参議院では自公維合わせても特別多数には手が届かないので、直ぐに改憲が実行されることは無いだろう)。
 維新は野党ではあるが、与党に対して是々非々の態度を取ってきた「ゆ党」的な政党である。今回の選挙にて議席数を大幅に増やしたことで国会における影響力が増し、与党に対する揺さぶりの効果も大きくなったと言えるだろう。今まで以上に自党の立場と数を武器に自公政権に圧力をかけ、掲げる政策を実際の政治に反映させていこうとするはずだ。また維新はベーシックインカムやフラットタスクなど日本基準ではラジカルな政策を掲げる政党でもある。自民党内にも一定程度維新と似たような考え方を持つ改革勢力がおり、彼らとともに内と外から両面で政権に圧力を掛ける動きを見せるかもしれない(無論あくまでも私の想像です。念の為)。

 全体的に見て維新を除く野党は大同団結したにも関わらず議席を伸ばせず軟調だった。今回の結果を受けて野党共闘に対する疑問符が各方面から上がり、今後の協力体制の構築にも少なからず影響を与える可能性がある。特に議席を減らしてしまった立憲民主党と共産党との間で軋轢が強まる恐れもあり、それが与党を利することになるかもしれない。特に来年夏にある参議院選挙においてそれが野党にとって手痛い事態を招く可能性もある。

 すでに記述したが、とりあえず与党勢力が一定程度の議席を確保したことで、岸田政権が直ちに瓦解する可能性は低くなった。ただマスコミの予想に比べれば議席の減少幅は少なかったとはいえ、総理総裁が変わった直後に行われた選挙であったにも関わらず議席を減らしているし、主に安倍政権下で発覚した汚職疑惑についての有権者の間でくすぶる不信感もあり、政権運営には努めて謙虚さが求められる。仮に医師会、桜を見る会、モリカケ、IRなど数々の疑惑が再熱した場合、政権はその火消しに追われることとなる。そうなれば野党やマスコミからの追求が厳しくなることは間違いなく、あっという間に政権に対する評価が下がっていくだろう。もしその対応にしくじってしまった場合、積極的に選挙に来ない層が「お灸を据える」目的で来年夏の参議院選挙に訪れ、今度こそ自民党が大敗北を喫する可能性もあるのではないか。もしそうなった場合選挙の前後で総裁の首をすげ替えようとする動きが出る可能性が高い。もとより岸田内閣は船出の直後だというのに、いわゆるご祝儀相場の支持率がない政権だった(その割には選挙で健闘したわけだが)し、誕生のいきさつも世論より党内の論理を優先した結果生まれたものでもとより盤石な体制とはいい難い。衆議院選挙を乗り越えたからと言って政権が短命に終わる可能性がなくなったわけではなく、傲慢さはしくじりのモトだと心得るべきだろう。
 
 野党の立場としては与党の弱みを国会で追求し、岸田政権を追い詰めていくことになるだろう。ただしここに一つのジレンマがある。あまりにも追い詰めすぎて岸田政権を崩壊に追い込んでしまった場合、新たに別の人間が総理総裁に就任することになる。そうなった場合一番登板する可能性が高いのが河野太郎氏だということだ。河野氏は国民からの人気も知名度も高く閣僚経験も豊富で実力は折り紙付きの政治家だ。もし彼が来年参院選の直前に首相となってしまった場合、間違いなく野党にとっては不利な結果が待っているだろう。それに今回の野党共闘の不発による野党間のギクシャクで協力関係が築けず、互いに互いの票を食い合うリスクまで抱えている。参議院は中選挙区制をとっているとはいえ、一票の格差が問題視されてきたことで議席の配分が毎回見直され一人区(つまり小選挙区)が多数を占めるに至っている。この一人区で野党共闘が出来なければ、敗北をする確率が高くなる。なので野党としては岸田政権や自民党を追求するけどやりすぎず、なんとか死に体と化した政権のまま選挙に突入してもらわないといけない(といっても野党が追い詰めるつもりはなくてもマスコミがやりすぎて、あっという間に岸田内閣への支持率が低下、早期退陣と相成ってしまうかもしれない)。加えてヒビの入った(かもしれない)野党間の関係を出来る限り早期に修復し、本格的な参議院選挙の時期が到来する前に迎撃体制を整えておく必要がある。

 日本維新の会としては、今回の選挙の勢いを参議院選挙まで維持し、引き続き党勢の拡大を目指したいところだが、それが出来るかどうかは維新自身がどうこうというより、与党のあり方にかかっていると言えるのではないか。今回維新が躍進したのは与党には入れたくないけど、野党にも入れたくない有権者が流れ込んだ結果もたらされたような所がある。勿論それが全てではなく政策が支持された部分もあるだろう。例えば私も比例は日本維新の会に入れたのだが、それは与党への批判という面だけではなく、具体的な政策、とくにベーシックインカムやフラットタスクを掲げるなど社会を抜本的に改革する姿勢を評価してのことが大きかった。ただ、もし次なる参院選のときに有権者が積極的に支持したいと思える人物、特に維新と同じ改革勢力に属する人物(河野太郎)が自民党のトップに成っていたとしたら、そちらに人気が吸われて思わしくない選挙結果に終わる可能性もある。また与党と野党の間でうまいことバランスを取っていく必要もあるので、与野党どちらかに過剰に味方したり敵対したりして有権者からどっちかの仲間だと判断されれば、それに引きずられて思わぬとばっちりを被る可能性もある。なので種々の事柄に対する敏感さが求められることになるだろう。

 今回の衆議院選挙は与党にとっても野党にとっても課題を突きつけられた選挙に成ったと言える。今後永田町がどのような動きを見せるのか注目して見守りたい。

 なお今回に限らず毎度のことではあるが、あくまでこのnoteのエントリーは私個人の見解であり内容の正確さや客観性を保証するものではない。間違ったことを言っていたとしても謝罪も撤回もしないし、反応するつもりもないことを改めて宣言しておく。




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