学芸、信仰、芸術などに感興を失わず情熱を抱き続ける老人こそ不老の人であり、実は最も幸せな生き方であるような気がするのである

師匠の石山修武先生に電話をしたら、取り組んでいる事業に関して情熱を持ってお話ししていただいた。大学を退官してすでに8年が経とうか。高齢者であるが、心は青春そのもの、とても刺激をいただいた。

知人から送られてくる便りによると、2022 年における 65 歳以上の就業者数が 912 万人(2021 年比3万人 増)となり、1968 年以降で最多となったそうだ。また、高齢者の就業率(65 歳以上人口に 占める就業者の割合)は 25.2%となり、前年に比べ 0.1 ポイント上昇したということである。年齢階級別にみると、65~69 歳は 50.8%、70~74 歳は 33.5%と、いずれ も過去最高である。就業者数に占める割合は 13.6%(同 0.1 ポイント増)で、10 年前 と比較した高齢者の就業率は、65~69 歳で 13.7 ポイント、70~74 歳で 10.5 ポイント、75 歳以降で 2.6 ポイント上昇したそうだ。

70歳未満の人の半分が働いているというが、これはもはや高齢者と呼ぶこと自体が間違っているような気もする。現に建築の現場だってこのくらいの人が増えているし、ますいいの監督さんだって70歳で現役バリバリで働いていただいている。

高齢者や女性の労働力がこの国の労働を支えているという現実は間違い無いだろう。そしてそれをさらに高めるような政策を国はとっていこうとしている。でもこのようにしてまで働かなければいけないのかの疑問を感じる人もいるだろう。働かなくとも幸せに生きていけるのであればそれに越したことはない。でもそうはいかないのが現実である。

早期退職と年金天国だったイタリアもすでに様相を変えており、今や働かざるを得ない高齢者が増えているそうだ。アメリカは年齢による差別を禁止する法律の制定により、すでに高齢者労働が定着していて、高齢者の賃金が中年層の賃金と比べても遜色ないい所まで来ているという。

そう、やっぱり働かないとダメなのである。どうせ働かなければいけないのなら、若い時と同じように誇りを持って楽しく働きたいものだ。最近建築の労働者が減っているというが、僕は建築こそ高齢者労働に向いていると思う。飛鳥時代から同じようなことをやっている左官職人、小さなタイルを一枚一枚丁寧に貼るタイル職人、長年の経験や知識を必要とする大工職人、そして僕たち設計者も同じだ。経験がものをいう職種だけに高齢者の活躍する意義は大きく、賃金もやりがいも維持しやすいと思う。さらに、建築とは芸術的要素を多分に含む世界である。だからこそスキル以上に大切なことは、何かに対する夢を持ち続けることであろう。まさに師匠の石山先生のごとく、学芸、信仰、芸術などに感興を失わず情熱を抱き続ける老人こそ不老の人であり、実は最も幸せな生き方であるような気がするのである。


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