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本の原稿のバージョン管理を諦めて20冊書きました

この投稿は以下のブログを受けてのものです。タイトルもパロディです。

タイトルにあるように、これまでに20冊の本を出版しました。
個人的には「テキストで管理可能なデータはすべてテキストで管理すべき」という信念を持っています。
普段のノートなどもすべてMarkdownで書き、Obsidianで管理しています。
プログラマとして仕事をしているので、ソースコードはすべてGitでバージョン管理しています。

それでも、本の原稿だけはテキスト形式で管理できず、バイナリ形式になっています。バージョン管理はファイル共有サービスでの世代管理のみになっています。
その理由を書いてみます。

なんで「テキスト原稿なのにバイナリ形式で管理」するのか

まず、普段どうやって原稿を書いているのか、どうやって脱稿(納品)しているのかを紹介します。
と言いつつ、これは本の内容によって異なります。

私の場合、本の種類がいくつかあります。

  1. 図鑑系の本

  2. 見開きの本

  3. 数学系の本

  4. 文章系の本

それぞれについて紹介します。

図鑑系の本の場合

私の場合、以下の3冊が該当します。

これらは、ページのレイアウトが決まっていて、それぞれの用語を説明する文章の文字数が決まっています。
つまり、執筆の段階で細かく文字数を意識する必要があるのです。
「140文字以内で書く」となったとき、テキスト形式で文字数を管理するのは面倒ですし、ある項目の記述が抜けていると困るので、これらの本の原稿はExcelで管理していました。

登場する用語ごとに1つの行を作り、横方向に「見出し」「説明」「関連する用語1」「関連する用語2」…と並べています。
本で登場する用語を1つのシートで管理することで、文字数の把握や抜け、漏れに気づけるのです。

見開きの本の場合

私の場合、以下の4冊が該当します。

これらは、見開きで左ページに文章、右ページに図がある本です。
この場合、左側のページに収める文字数と、右側のページに収める図の量が決まっています。あとから調整するのは面倒なので、執筆時点で調整しています。
これらはWordで段組みして、見開きの分量やバランスを確認しながら書いています。

数学系の本の場合

私の本の場合、以下の3冊が該当します。

これらは数式が頻繁に登場します。簡単な数式だけでなく、シグマや行列、偏微分積分などが多く、Wordなどの数式エディタでは面倒です。
そこで、これらはLaTeXで書いて、脱稿のときには原稿とPDFを合わせて納品しています。

つまり、これだけはテキスト形式で原稿を管理できています。

文章系の本の場合

私が書いた本の中で、残りは比較的文章が多いものです。
図鑑でもなく、見開きでもなく、数式もあまり登場しない本です。

これは、個人的には何で書いても大きな問題はありません。
原稿を書いているツールと納品のときのツールが異なることもあります。

たとえば、手元ではPagesDropbox Paperで書いているけれど、相手の編集者さんに合わせてWordGoogleドキュメントなどに変換して納品している、という感じです。
これは、納品方法を相手に合わせているため、書いているときと納品するときでもツールが違い、面倒なのでバージョン管理していない、というものです。

手元でPagesやDropbox Paperを使う理由は、パソコンだけでなくスマホやタブレット端末で書くのに便利だからです。机に座って書くだけでなく、電車での移動中や布団の中でも思いついたときに同じように原稿が書けるソフトは便利です。

上記のように、原稿はテキストでも、バイナリで扱っている理由はさまざまです。

「誌面レイアウトしたPDFとか紙に赤字を入れる」で問題ないのか

原稿を脱稿したあとは、編集者さんにてPDFにしていただき、修正が発生した場合にはそのPDFに赤字を入れていきます。
私の場合は、赤字と言っても、PDFのコメント機能で修正点を書いていきます。

確認するタイミングでは、もうPDFになっているので、ここからの大幅な変更は難しいものです。どうしても大幅に変更したい場合は、お願いして変えてもらうしかありません。

これは冒頭で紹介したブログで書かれている通りです。

正直なところ、バージョン管理されていて、原稿を修正したら自動的にPDFになるといいな、とは思うものの、現実的には難しいだろうなという諦めです。
特に図鑑系の本で、原稿をExcelで作成している状態から、バージョン管理して自動的にPDFにするのは難しい(面倒)だろう、という感覚もあります。

見開きの本では、それほど大きな修正が発生しないので、こちらは問題があると感じていないのも理由の1つです。
となると、可能性があるとしたら数学系と文章系の本です。

複数の出版社、編集者と仕事をする難しさ

上記の最後で紹介した数学系や文章系の本について、出版社が1社、編集者が1人であればできるかも、という思いもあります。
ただ、現実にはそんな状況ではありません。

たとえば、私がこれまで書いた20冊は、5社の出版社から出ています。
そして、同じ出版社でも編集者はバラバラです。これまでに約10名の編集者さんとやりとりをしてきました。

この状態で、原稿をテキストで書いて、Gitでバージョン管理をする、というのが実現できるとは到底思えない、というのが現状です。
理系の編集者さんもいれば、文系の本ばかり担当していた編集者さんもいます。
これがタイトルに「諦め」と書いた理由です。

ただし、私は出版社に合わせるスタイルで書いているので、打ち合わせで提案されたフォーマットに合わせて書いています。
なので、冒頭のブログにあるようなしくみを提案される出版社が増えると嬉しいな、という思いはあります。

まとめ

  • 本の種類によって原稿を書くツールがバラバラである

  • PDFへの赤入れへの不満はなくはないけれど、現状ではなんとかなっている

  • 複数の出版社、編集者とやりとりをするため、今の書き方は続く

  • 個人的にはテキストでバージョン管理ができると嬉しい

最後に宣伝です。2ヶ月連続で本を出版します。ぜひ手に取ってみてください。


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