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共創 小説「ふくろう」#cocan(こーかん)

「お父さん、それ本当に大事なんだね。そのふくろうの置物。」

目をキラキラさせながら、木彫りのふくろうを見つめる息子。

「これはな、福来。まあ俺の父さんから貰ったもんなんだ。」

私はこの「ふくろう」に昔から見守られている。




若い頃の私は、大変我が強く、人の言うことを聞かず、自分は何でもできる人間だと思っていた。

そんな訳ないのにな。

天才なんてほんの一部の人間がそうあるわけで、自ら天才だと思う人間は凡人に等しい。

自然とやっている、できてしまう、そういう人間が天才だ。

私はその事実に薄々気づいていたが、見て見ぬふりをしていた。

そんな時だ。社会に出て仕事をするようになり、自分を大きく見せようとした結果、取り返しのつかない失敗をした。

それこそ、会社に居る場所がなくなるくらいには。


頼る当てもなく、私は羞恥に苦しみながら、実家に帰った。

実家がある地元は、本当に何もない面白いこともない田舎だ。

都会に出れば、自分は有名になって成功する。

両親に啖呵を切って飛び出した結果がこれだ、情けない。

実家に戻ると、母が心配そうに私に話しかける。父は私の今後に関心がないのか、新聞を黙々と読んでいた。

母の話を適当に流し、私は部屋に引きこもった。




その夜、父が私の部屋に突然来て、

「外に出ろ。」

と私を無理矢理連れ出した。私は訳が分からず反抗しようとしたが、普段何も言わない父がこうやって外に私を連れ出すのは、理由があるのだろうと思いとどまる。

父は黙って懐中電灯で道を照らしながら歩く。私は黙って後をついて行った。

「今日は少し雲があるから、星がよく見えないな。」

「あのさ、なんで外に出ろって言ったんだよ。」

「星を見ながら散歩すれば、気が紛れるだろう。」

「それだけ? 」

「そうだ、悪いか。」

「いや、悪くはないけど。」

なんとまあ、特に大した理由ではなかった。でも少し気が張っていたので、肩の力が抜けた。

私は気を楽にしながら、夜空を眺めた。やっぱり今日は少し雲があって、星が見えずらい。

「見えないな。」

父が少し残念そうにそう呟いた。

そんな時だった、木の上から、バサッと音がした。何かいるのか。

「何だ。」

そう言って、父は懐中電灯で木の上を照らした。すると音の正体がすぐに現れた。

ふくろうだ。

「珍しいな、ここでふくろうを見るのは。」

と父が言った。田舎だからといって、簡単に見られる動物ではない。事実、私は野生のふくろうを初めて見た。

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ふくろうは私達をじっと見ながら、その場から離れなかった。

すると、ふくろうはぐるりと首を回す。

それを見た父は、静かに笑った。

「なんで、笑ってるんだよ。」

「いやいや、お前これからいいことあるぞ。」

「えっ。」

「ふくろうは、縁起のいい鳥だ。ぐるりと首が回ることから、【借金を背負って首が回らなくなる】と言われている。他にも「招福の縁起物」と言われているんだ。」

良かったな。

そう言って少し嬉しそうにしている。林木を守る仕事をしていた父は本当に仕事一筋で、幼い頃の私はあまり好きになれなかった。

この年になって、父の別の側面を見て不思議な気持ちが灯る。

それからバサッとふくろうは夜闇に飛び立った。

「さて家に戻るか。」

と父が言った、私は黙って頷いた。




次の日から、父は庭で何かを作り始めていた。木に携わる仕事をしているからか、木彫りが父の趣味だ。

そんな父の趣味を居間から眺めるのが、私の日課になりつつあった。

私は地元で静かに流れる時間を感じながら、これからのことを考える。

このままでいいのか?

俺は、また都会に行って働きたい。


次の日の夜、両親にまた都会で仕事をするつもりだと話した。母は当然心配し、小さな声で抗議する。そんな母を宥めたのが、意外にも父だった。

「一度失敗した男が、ちゃんと反省して考えて出した答えだ。」

そう言い、父は私をフォローした。




都会で仕事をするために準備をし一ヶ月が経った頃、私の再就職先が決まった。

先方からすぐに仕事してほしいとのことで、私は急遽実家を離れることになった。

私は少ない荷物を持って玄関に立つ。すると父が手のひらサイズの何かを私に押しつけてきた。

木彫りのふくろうだ。

「このふくろうは?」

「福来ってことで、置物だ。持ってけ。」

「……ありがとう。」

「おう、行ってこい。」

私は泣きながら一生懸命手を振る母と決して手は振らない父に見送られ新天地に向かった。



あれから小さな仕事の積み重ねをし、周りから信頼をもらった。そして職場で妻に出会い、結ばれ、息子を授かった。私は大成したわけではないが、穏やかな時間を送っている。

木彫りのふくろうは、今でも私室に飾っている。

私は借金を背負って首が回らなくなることもなく、小さな幸せを噛みしめている。


(サムネイル/画像編集) minami さん
(ショートショート執筆) ますあか 

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このショートショートは、#cocan(こーかん)という企画で、「あなたの日常写真をちょっとおしゃれな雰囲気に編集させてください!」でこーかんした際にできた写真をテーマに、私(ますあか)が書いた小説です。

このたび、快く画像の編集とサムネイル画像の使用にご了承いただいたminamiさんには、感謝の言葉が尽きません。

ありがとうございます。

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