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#創作大賞2022応募作品「人間観察日記 第十話」

 俺っちは、どうしたらいいんだろう。目の前の光景を前に、ただただ悔しさと怒りがこみ上げてくる。
 

 どうして、人間はこんなことをするんだ!


〇  〇  〇


 次にケイと出会うまで、俺っちたちは人間観察をしながら過ごしていたときだった。急に故郷から俺っちに一報が入ったのだ。
 「すぐに帰られたし」
 帰ってこいと言われても、俺っちは故郷が少し苦手だった。自分が誕生した地だから、思い入れも愛着もある。でも周囲の妖怪達を相手にするのは面倒だった。おかしいな、もっと面倒な狐と輪入道(わにゅうどう)の面倒事は、別に嫌でも何でもないのに。
 でも仕方ない、こんな文をよこすなんて重要な用事に違いない。文を読んでしかめっ面をしているおれっちに向かって、狐が
「子河童も大変だね。急に帰ってこいなんて。いつ頃戻れそう?」
 と尋ねた。おそらくケイとの約束を気にしているんだろう。
「俺っちも分からん。もしかしたら、約束の日までに戻ってこれないかもな」
 きゅうり食べたかったなあと思いつつ、はあっとため息を吐く。その様子に輪入道(わにゅうどう)が、
「ケイ、残念がるだろうね」
「まあ、こればっかりは仕方ないさ。じゃ、行ってくる。あいつによろしく言っといてくれ」
「分かった、いってらっしゃい」
「気をつけてね、子河童」

 俺っちの故郷は、狐たちと暮らしている妖怪の里より遙か北に存在する。何故俺っちが故郷を離れたのかは、説明するのも面倒な事情がある。
 というより、あんまりあの時の事情を覚えていない。俺っちの種族が故郷を離れるか離れないかで大揉めし、一番年若い俺っちが居たたまれなかったのだ。
 その時、たまたま俺っちの故郷を訪れていた師匠(せんせい)が俺っちを預かると言ったのだ。
 俺っちを心配した師匠(せんせい)がしばらくうちに来なさいと言ったのを覚えている。考えてみれば、師匠(せんせい)のおせっか…、いや面倒見の良さはこっちが心配になるくらいだ。

 なんだかんだ故郷の妖怪たちに思うことがあるが、それでも故郷の自然豊かな環境が俺っちは好きだった。水がとても澄んでいて、空気もおいしい。風もさわさわと流れていて、気持ちがいい。北の方に位置するので、一年を通して寒い日が多いが、寒さを楽しむのも一つの醍醐味だ。
 八月の真っ只中、故郷は避暑に適している。師匠(せんせい)の土地も悪くはないが、空気がジメジメしていて、たまにからっとした故郷の風が恋しくなるのだ。
 久しぶりに故郷へ帰るな、故郷はきっと変わってないんだろうな。俺っちは、そう思いを馳せていた。


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この作品は「#創作大賞2022」応募作品です。

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