明日 ④
彼らと合流するために僕は家を出た。
もちろん、テアを連れて。
非感染者の群れは僕に気づくと笑顔で手を振ってきた。
「あんたもラジオの声を聴いたのか?」
「はい。声の主に会ってみたくて。」
彼ら人々は僕をやさしく迎えてくれた。
やはり老人から子供まで多くの人が東へ向けて歩いていた。
「皆さんはどこにいたんですか?」
「俺もよくわかってないんだ。
俺は妻とウイルスにかからなかったから家にこもってたんだ。
このウイルス災害が起きる前の世界で、戦争が起きそうだ
って噂されてたのは覚えてるか?」
「そういえばそんなこともありましたね。
なんだか懐かしい気持ちになります。」
笑顔でこたえるものの、そんなことがあったのか正直覚えていない。
それでも、彼が嫌な気持ちになるのを恐れて、人に合わせる処世術は
先の世界で学んだことだった。
「そうそう。あれで世界は終わると言われてたからな。
緊急シェルターを買ってあったんだ。
死ぬほど高かったが今こんなにも人に会えて目の前に希望がある。
それを考えたら安い買い物だったなって思ってるんだ。
まあこの世界じゃ金の概念もなくなっちまってるがな。」
彼はこの世界に適応している。話を聞く限りそう感じた。
もしかしたらこの群れは、そういった人々の群れなのかもしれない。
みんな前の世界では、大金を持ち、シェルターを買って、
これまで生き延びていたのかもしれない。
そう思うとこの群れにより一層嫌悪感を抱いた。
自分は前の世界では、いわゆる底辺の生活をしていた。
今でこそ人の家ではあるが、布団で寝ることができる。
以前は道路で寝ることも多かった。
そんな生活をしていたからこそ、テアと出会うことができたのだけれど。
日々の食事もままならないことだって多かった。
彼らと違う。劣等感を抱いた。
しかしまあ、この世界はもうお金がランクをつけるわけではない。
彼らと対等な関係を築くことを大切にしていくつもりだ。
「ところでその犬はどうしたんだ?」
突然の質問に驚いたが、感染していることは隠すべきだと思い
咄嗟に噓をついた。
「ああ。このパンデミック前から一緒に暮らしていたんだ。
賢くて僕をよく守ってくれたから。
きっとこの移動でも役立つと思って...。まずかったかな?」
「こんなかわいい相棒がいて幸せだな!!俺たちは大歓迎だ!」
大きな口で笑いながら彼はそう答えてくれた。
東へと足を進めながら彼らとの雑談を楽しむ。
今までの生活からは考えられない今日に新鮮さを感じ、
今日はきっと熟睡できるんだろうなと、この移動を楽しみにしていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?